【IDと教員研修17】行動と学びをつなぐGBS理論
前回の記事では,学びの深まりについてのステップの一つとして,精緻化理論について考えました.今回の記事では,学習の深まりには欠かせないであろう,試行錯誤しながら学んでいくGBS理論について考えましょう.
現実的なストーリーを用いた学習環境の構築
GBSとは,Goal-Based Scenariosの頭文字です.
ゴールを基盤としたシナリオ,ですね.
ロジャー・C・シャンクの提案するこの理論は,現実世界に起こりうるようなストーリーに沿って展開されるミッションをクリアすることを通して,自ら情報にアクセスして学ぶ方法を述べています.
ゴールを直接示さず,ミッションをクリアすることで習得を目指す
直接示さない,というのは,「こんな力をつけてください」という言い方をしないということに似ています.言い換えれば,「こんなミッションをクリアしてください」と習得すべき力を発揮せざるをえない課題を示し,ミッションをクリアする中で,自ら問題解決に必要な力をつけていけるようにするということです.文脈の中で学ぶとも言えるかもしれません.
7つの要素が関連して学習教材ができあがる
GBS理論に基づく教材づくりを行う視点は7つです.
①学習目標 ②ミッション(使命) ③カバー・ストーリー ④役割 ⑤シナリオ操作 ⑥情報源 ⑦フィードバック です.
チェックリストも開発されており,教材づくりを進める参考になると思います.それぞれの項目について確認していきましょう.
学習目標
学習のゴールのことです.直接は示さず,シナリオに沿ってミッションをクリアすることで身に付く力などを設定します.
ミッションをクリアする,つまり,ストーリーをゴールする学習者のイメージをもとに設定することが考えられます.
ミッション(使命)
例えば,教員研修であれば「研究主任として,今年の夏休み(つまり2か月後)に校内研修をする」というような内容が考えられます.
校内研修を企画するってどういうことをすればよいのか?
ニーズ把握?
オリエンテーション?
ファシリテーション?
ワークショップ?
カタカナ言葉を並べても,よくわかんないなぁ
…と,このような?を浮かべつつ,やってみよう!と考えるような内容のミッションがいいですね.
カバー・ストーリー,役割,シナリオ操作
校内研修をするというミッションの文脈を形作るのがカバー・ストーリーと役割です.
例えば,このような.
「あなたは〇〇小学校で,この4月から初めての研究主任になりました.〇〇小学校は,教育委員会から『子供の表現力を高める研究』の指定を受けていて,プレゼンテーション等によって表現力を高める授業づくりを行うため,夏に『効果的なプレゼンのコツ』というテーマで,60分の校内研修を行うことになりました.」
この場合,学習者の役割は「研究主任」ですね.
シナリオ操作は,この場合だと,例えば研究部員や教務主任,管理職からの要望に対し,主人公(研究主任)が応対する場の設定とし,学習させたいスキルを発揮できるようにする.ということが考えられます.「操作」としているのは,意図してストーリーに沿って学べるようにするための仕掛けがあるということです.今回なら,研究主任は常に誰かの要望に応えざるをえない状況の中で,様々なミッションがやってくるということになります.
情報源とフィードバック
情報源とは,ミッションをクリアするために必要な材料を得られるような場を設定することです.研究主任が迷ったとき,闇雲にならずに視点を得たり,解決の糸口をつかんだりできる場です.
少し余談ですが,様々な冒険系の漫画で,「謎の老人」って,出てくることがありますよね.あの老人は,必ずと言っていいほど,主人公が進むさいに大切なヒントをくださいます.あんな設定も情報源と言えるかもしれません.(私の大好きな,マンガを描くということをメタ的に面白くした演劇はコチラ)
…戻します.
フィードバックは,独りよがりにならずに,「これ,ミッションクリアの方向に向かっているかな」と考える時に,考えについてフィードバックがもらえるような場を設けることです.
例えば,校内研修においては,現実的には先輩や上司になるかもしれませんが,あくまで架空の設定であることから,先輩・上司役として,研修設計者がフィードバック担当になることが考えられます.
実際のGBS理論に基づく教材は,フルオンラインで,eラーニングとして学習が進められるようになっています.RPGを進めていくような感覚かもしれま
せん.
失敗こそ学習,という安心
GBS理論による学習は,現実的な問題を考えていくものの,そのミッションに失敗したからといって,給料が下がるわけでも,クビになるわけでも,信用失墜をするわけでもありません.あくまでシナリオに基づいて,役割になりきって学習を進めることができます.
現実のミッションは,失敗が周りに影響することを考えると,ついつい臆病になってしまいがちです.
しかしこのように,失敗できる安心があれば,少し違う視座で問題解決の可能性を探っていくこともできるのではないでしょうか
教員研修ではおそらく,このような「ミッション」系の研修は数少ないかと思いますが,これらは対面やブレンド学習においても工夫ができそうです.
GBS理論に関連して,次回はSCC(ストーリー中心カリキュラム)について考えてみましょう.