森かふぇ ねこぐも
住宅街の外れのハーブ園の隣りにある【かふぇ ねこぐも】は出来たばかりの店だ。
朝6時半からモーニングが始まるようで仕事前のサラリーマンや珈琲好きなご近所さんで賑わっているようだ。
ボリューム感のあるモーニングやランチ、こだわりの珈琲にピッタリな焼き菓子が人気でいつ行ってもカウンターは常連客で埋まっている。
出来たばかりなのに常連客がついているのは何故だろうと情報通の嫁に聞いたところ…
カフェを開く前は、オフィス街にある老舗の珈琲専門店で修行していたらしく気難しいマスターから弟子が店を開くからと話があったらしい。
地元の珈琲通がこぞって通う珈琲専門店のマスターのお墨付きとあって、珈琲は他のカフェとはひと味違うらしく珈琲好きな妻も週に何回か通っているようだ。
今日は休みだから妻の機嫌を取る為にふたりでねこぐもにやってきた。
「「いらっしゃいませ」」
優しい声で出迎えてくれたのは…
ふたりの若い女性だ。
「おはよう!
今朝は旦那も連れてきたからテーブル席にするね」
と妻は慣れた感じで奥まったテーブル席に向かって歩いていく。
僕はぺこりと頭を下げ妻を追いかける。
「今日は早いのですね。モーニングの時間に来るなんて珍しい。
美味しい水どうぞ」
爽やかな笑顔でアルバイトらしき女性が水の入ったグラスを置いた。
「今日はちょっと朝から打ち合わせがあったからね。仕方なく早起きしたってとこ。
たまには旦那とモーニング食べようかなと思ってね」
「そうなんですね。
今日のモーニングは先着20名様に特製焼きプリンのおまけがつくので、いつもよりお得ですよ」
にこにこしながらアルバイトらしき女性は、手書きのメニューを渡してくれた。
ねこぐものモーニングは、ねこぐもスペシャルブレンドと分厚くて美味しいトーストに、もーもー牧場特製バターと手作りジャム。
ゆで玉子かスクランブルエッグ、野菜サラダか野菜スープがついているのだが今朝はそこにプリンも付くとは…
素晴らしい!!
いい日に来たなぁ…
今日ばかりは、誘ってくれた妻に感謝しないと。
甘党の僕は、常連客が食べている特製焼きプリンが前から気になっていたのだが、ひとりで入ってプリンを頼むとか恥ずかしいと思って注文するのを躊躇していたのだ。
オーナーらしき女性は、真剣な顔でスペシャルブレンドを淹れている。
丁寧なハンドドリップは見ているだけでワクワクしてくる。
カウンターからだとガン見したら失礼だと思ってこっそり見ているのだが、カウンターを見渡せる席だから見ていても不信がられなくて安心である。
珈琲のよい香りと香ばしいパンの香りに包まれ朝から幸せいっぱいだ。
さっきまでは、せっかくの休みなんだからもっと寝かせてくれよ…と心の中で妻を呪っていたのが嘘みたいだ。
「「モーニングお待たせです!」」
モーニングプレートは大きいからか、ふたりがかりで運んできてくれた。
「おふたりとも、ごゆっくり。
私はプリンの仕上げに入るから、花薫ちゃんお願いね」
オーナーらしき女性はぺこりとお辞儀をすると、カウンターの向こうに消えて行った。
芳ばしいトーストの香りと珈琲の香りがブレンドされた幸せの香りを堪能しながら、先ずはスペシャルブレンドをひとくち。
「うん。美味しい。
この店のスペシャルブレンドは、ホッとするんだよね」
珈琲には辛口の妻だが、この店の珈琲には満足しているようだ
僕は香りを楽しみながらゆっくりと珈琲を飲んでいる。
自宅で淹れる自分の好みを追求した珈琲とは違い、毎日飲みたい安定感を感じさせる味だなぁ。
トーストも厚めでサクサクしているし、バターの味が濃厚でたまらない。
手作りのジャムも気になるが今はバターの味を楽しもう。
妻のよいところは、僕がひとりの世界に入っている時にソッとしておいてくれるところだなと思いながら向かい側で幸せそうに珈琲を飲んでいる彼女を眺めた。
これはもしかすると幸せな休日の朝の風景なのかもしれない。