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最近読んだ本の書評と感想ー備忘録として(後編)

メシロです。後編と言っておきながらだいぶ期間が空いてしまいました。すみません。ということで今年読んで面白かった本を紹介していきます。

ロシアン・ジョーク 酒井陸三

Amazonで1円で買いました。(配送料で300円くらいとられたけど)
これも堀元見さんのマガジンで引用されていた一冊で、面白そうだったんで買いました。

 もう20年近く前の本なのですが、ロシアがどんな文化や政治体制をとっているのかという解説を挟みつつ、アネクドート(小話)というロシアンジョークを紹介するという形式の本です。ロシアンジョークって基本的には政治批判で、ブリカスことイギリスのブラックジョークより全然ダークで笑っちゃいました。個人的に笑ったのはコレ。

☆切腹
エリッィンが東京を訪問したとき、下町の店でズボンのベルトを買おうとした。 彼は長いことジェスチャーでベルトの説明をしたが、店員はどうしてもわからなかった。しばらくして、ようやく客がエリツィンだとわかったとき、店員はうやうやしく、 〈切腹用〉の刀を差し出した。

ロシアン・ジョーク 酒井陸三 P143

 エリツィンって、ソ連崩壊後に誕生したロシア連邦の初代大統領になった人物なんですけど、本を読んだ限りではソ連のダメなマインドをそのまんま引き継いだ人という印象で、要はソ連が崩壊した際に、いわば「居抜き」状態になったこの国をどさくさ紛れにちゃっかりゲットしてたまたま大統領になってしまった、って人ですね。そしてその後が無茶苦茶で、クーデターを起こした側近たちのいる議会に、戦車を送り込んで砲撃を打ち込んだり(モスクワ騒乱)、資本主義経済をまるで知らないせいでめちゃくちゃなインフレを起こしたり、IMF(国際通貨基金)からのお金を横領したり、挙句自身の取り巻きやマフィアに、お金をプレゼントするような政策(後述)をおこなって、今も国を牛耳る悪名高いオルガリヒ(新興財閥)を生み出したり、アル中だったり、なかなかに問題の多い(ド無能)彼を皮肉ったジョークは他のアネクドートに比べてキレッキレで笑っちゃいました。いやロシアの人たちは笑い事じゃないでしょうけどね。

モスクワ騒乱

印象に残ったパート

(前略)しかし、マウンドに立ったチュバイスが、エリッィン政権の命運を担って、第一球目に投げた球が「小切手民営化」という、これまた凡庸な変化球でした。
 これはソ連が蓄積していた国有財産を、小切手(バウチャー)という形で国民に放出するという政策です。当時、民営化の対象としていた国営企業の見積額はザッと一兆四 ○○○億ルーブル。これを十二歳以上の人口、一億四千数百万人で割った数字、つまり額面一万ルーブルの小切手を発行し、彼ら全員に無償で配布。この小切手によって誰でも、やがて民営化される国営企業の株と交換できる、また好きな企業に投資することもできる、嫌なら売却も自由だ、としたものです。
 ところが、これにも大きな穴が待っています。国民の多くがいつ実現するともわからない企業の民営化を気長に待つより、すぐさま現金化したいと暴走してしまったのです。 明日の夢よりも、今日のパンを、というわけです。

(中略)
これを、ちゃっかりと買い占めていたのがマフィア、地域の有力者、官僚、小金持ちなどでした。彼らは庶民のバウチャーをあの手この手で買えるだけ買い集め、やがて「チリも積もれば山」となったそれで、経営のいきづまった国営企業や国営工場の株の買い占めに走ります。そして大量株主となって大きな影響力を振るいながら、やがてそれらを乗っ取っていきました。
 しかし、本書で言いたいオリガルヒとは、ただの「金持ち」という意味ではありません。これらの財力を使って、やがて政治に近づき、 エリツィン政権とべったりと癒着し、 世民が悲鳴を上げているさなかに、タダ同然で国家資産をさらにくすね、ブクブクと太りながらわが世の春を歌していた輩どもを指します。こうして誕生するのがオリガルヒ (寡占資本家)、つまり、新興財閥です。

ロシアン・ジョーク 酒井陸三 P147,148

 先述の通り、言わば居抜きとなったロシアを運営する能力がなかったエリツィンがやらかした失敗の中でも一番大きんじゃないかなというものがコレです。この小切手民営化を契機に誕生したオルガリヒは、のちに石油、メディア、鉄鋼といった莫大な資産を持つ国営企業をもエリツィンに賄賂を渡して破格で買い取り、国を腐敗させていったという話です。ちなみに、こうしたオルガリヒたちの大多数はプーチンに粛清されたそうで。怖すぎる。でもプーチンも自分の意に従わないオルガリヒを粛清しただけで、この構造は根本的には変わってなく、独裁を強めただけに過ぎない印象です。諸悪の根源ちゃうかこれ。

最後に、この本の帯に書かれていたアネクドートを紹介して終わりにしたいと思います。

「わが国にジョークなど必要ない。 なぜなら、この国の存在自体がジョーク
だからである
」 

ロシアン・ジョーク 酒井陸三

「知」的放蕩論序説 蓮實重彦

次にこれです。僕の人生の師にオススメされて買いました。久々にここまで読んで楽しい本はなかったですね。元東大総長で仏文学者の蓮實重彦のインタビュー集です。

主に前半の大学自治の話、そして知的とはなにかという部分が面白かったですね。
ちょくちょく無茶苦茶言うとるなみたいなパートもあるんですけど、それ込みで面白い知見だなと思いましたね。

 ところで、複数の個体の誘惑を前にして、わたくしは何を語っているのか。「知」における放蕩の役割であります。揺らぎ、逡巡する知性の力といったらよいでしょうか。あるいは、雑音に敏感であることの美徳といったらいいのかもしれませんが、いずれにせよ、たやすくは目的に到達しない者たちの迂回の時間の有効性が問題なのです。なぜそれが有効であるかといえば、それは、いわば放蕩の瞬間にふとたち現れる孤独の中で、サイエンスなり文学なりと向かい合う姿勢を鍛えてくれるからにほかなりません。そうした放蕩者を多く囲い込むことで社会は豊かになる。現在の日本は、そうした豊かさに背を向けているとしか思えません。複数の方々とともに、ここに 「「知」的放蕩論序説』を上梓する理由です。

P250

なんというか、この本から今の自分の人生や考え方を肯定しながらも、発破をかけられたような気がしました。「知」というのは余暇から生まれると、私は思っています。なので知的に放蕩を勧めるこの本に大いに勇気を与えられました。

渋谷ではたらく社長の告白 藤田晋

お次はこちら。サイバーエージェントの創業者である藤田晋さんによる自伝です。面白くて一気に読めました。彼の幼少期から大学を経て創業、そしてサイバーエージェントの成長と失敗について書かれた本ですが、後半の会社が失速して買収されかけるところまで行くさまがリアルで、読んでるこっちが胃が痛くなるような本でしたね。いうなればベンチャーというかサークルのようなノリ(但し超ハードワーク)で起業した会社がITバブルの波に乗って急拡大したものの、バブルは崩壊、次第に株価に振り回されるようになってその結果事業も何もうまくいかない、みたいな状況でよくメンタル保てたなこの人…って思いました。彼に限らずなんですけど、起業家って相当メンタル強くないとできないなって思います。マジリスペクト。

印象に残ったパート

株価は相変わらず下がり続けていました。 ありとあらゆるところから、批判、嫉妬、恨みが爆発していました。それはこのときを待 って、どこかに溜まっていたものが一気に噴出したかのようでした。 26歳にして億万の資産を手にしたこともあるでしょう。

若いやつが成功することを許せない年配の人もいたでしょう。
同世代で、大企業に勤める生き方こそがエリートだと思っていた人もいたでしょう。 同業界で当社のことを快く思っていなかった人もいたでしょう。 私は四方八方から攻撃されているような気がしました。

四面楚歌、孤立無援。

(中略)

社長室の薔薇の花が萎れているのに、ある日私は気がつきました。これはおれだ、と感じました。心が萎えていく、そんな感じでした。
しかし、どうすることもできなかったのです。

 渋谷ではたらく社長の告白 P247

ここ読んでて一番きつかったです。こんなん気狂うで。

そしてこの本から学んだこととしては、

1,ハッタリはどんどんかませ
2、ゲームは残ったもの勝ち(退場しない限りは)
3,ハードワーカーたれ
4,ただし全部メンタルが強くないと無理

わりと失敗の方にフォーカスをあてて感想を書きましたが、起業にいたる過程や会社としての在り方などもすごくおもしろかったです。サイバーエージェントがここまで拡大したのには、相応の理由があるんやなって思います。大学生におすすめの一冊かなと思います。特に起業を目指している方は是非読んでみてください。

中1、一人暮らし、意外とバレない すがちゃん最高No.1(ぱーてぃーちゃん)

めちゃくちゃ好きな芸人さんがエッセイを出したということで、とりあえずで買ってみたらめっっちゃくちゃ面白かったです。面白すぎて一瞬で読みきっちゃった。構成がまず面白くてさすが芸人さんやなと。そして最後に泣かせにくるのもうますぎる。親父が激ヤバで、ありとあらゆる方法を使ってすがちゃんを利用してナンパしたり、ある日腹違いであろう自分の子どもたちを一斉に集めてトーナメントをやらせようとしたり(!?)、とんでもないエピソードが続々と出てきて面白かったです。強すぎるんだぜ。

特にすげえなって思ったのが、一人暮らしになってどうしたかっていうと友達の家に呼ばれた時などを使って友人の親を観察して家事のスキルを盗んでいったところですね。そりゃあのギャルたちとやっていけるわな。

ちなみにぱーてぃーちゃんが好きでライブ行ったり、サイン貰ったりしてるくらいにはファンなんですけど、この動画がめちゃくちゃ好きなんで置いておきます。すがちゃんは申し訳ないけど振り回されてる時が一番輝いてる。

印象に残ったパート

爺ちゃんが亡くなって、いよいよ我が家には俺と婆ちゃんの二人だけになった。

二人暮らしが始まってしばらくしてからのこと。俺がリビングで漫画を読んでいると、突然大量の段ボールが届いた。

え?何これ?え?と俺が混乱していると、そこに婆ちゃんが現れた。

そして、婆ちゃんはあまりにも唐突に、「グミ買った!」

と。婆ちゃんは突然、その月の生活費を全てグミ代にぶち込んだのだ。家に置かれた大量のグミの段ボール・・・・・・・。



え、生活費全部使っちゃって、これからどうすんの?と尋ねると婆ちゃんは大声で、

「こっからグミだ!」

・・・・・・・・

「こっからグミかぁ」

中1、一人暮らし、意外とバレないP59-60

婆ちゃんイカれてんだろ。

砂の女 安部公房

安部公房の名作。別府に旅行に行ったときに、山奥の小さな館にこれが置いてあって、手にとって読んだらすごく面白くて最後まで読んじゃいました。主人公が或ることから砂穴に埋もれる一軒家に閉じ込められ、逃亡を企てる話。理系らしい緻密な表現と、人間の適応能力の良し悪し、そして諦めという事の恐ろしさについて見事に描ききってるなと思いました。読むべし。そしてこの方の解説がわかりやすかったので是非。


「モディ化」するインド―大国幻想が生み出した権威主義 湊 一樹

Twitterで話題になっていたので買ってみました。めちゃおもろい。インドのナレンドラモディ首相についての本ですね。僕はインドという国にそこまで馴染みがなく、近所のインドカレー屋によく行ってそこで働いてるインド人と友達になる程度だったので、政治事情も知らなかったのですが、読めば読むほどやべーなってなりました。ポピュリスト的な政治姿勢だったり、ヒンドゥー至上主義と、イスラム教徒へのヘイトスピーチやヘイトクライム(後述)など、かなり深刻です。端的に言えばネットを使った現代的なファシズム政治、それがモディ政権かなと。余談ですが、著者の方が本でモディは言わばネットでの熱狂的な支持者たち(工作員?)を利用してSNSの世論を支配しているという旨の指摘をしているのですが、それを聞きつけてか著者のTwitterに支持者からものすごい数のリプが来ててガチじゃん….ってなりました

印象に残ったパート

(前略)新政権の発足からわずか五カ月後の二〇〇二年二月末に始まり、その後、数カ月にわたって州内で断続的に続いた大規模暴動(以下、クジャタート暴動)である。この暴動では、ヒンドゥー教徒が犠牲となった列車炎上を口実にイスラーム教徒が標的とされ、ヒンドゥー至上主義組織に率いられた暴徒によって、多数のイスラーム教徒が唐殺された。

 (略)最初の日には、州政権の大臣五人が暴動に参加していたと衝数の自撃者が証言している。信頼性の高いジャーナリストと人権関係の情報提供者によると、(ヴァージベーイー首相の党である)BJPのモディ州首相は[暴動が始まる日の前日にあたる)1月二七日の夜に州警察の幹部に会い、暴動には手出ししないよう命じたという。しかし、州察の情報提供者は、州政府からの暗黙の圧力が警察の対応を抑制したことは認めている。チャクラヴァルティ州響察長官も州警察の一部が暴動に加わっていたかもしれないと認めているが、目撃者らはそれが広範にみられたと証言している。

イギリス政府の報告書では明記されていないが、暴徒がイスラーム教徒の住居と店舗を特定するために用いていたのは、投票者名簿や納税記録などの公的記録であったことが知られている。あるイスラーム教徒の経営者によると、イスラーム教徒が所有している店舗でも、売上税を支払っていなかった場合には、所有者が特定されなかったため暴徒による破壊を免れたという。

このように、ヒンドゥー至上主義勢力と州政府機関による共謀は、実際の暴力行為だけでなく、その準備段階からすでに始まっていたことが明らかである。

「モディ化」するインド―大国幻想が生み出した権威主義 湊 一樹 65-68

これ知られていないだけでかなりヤバいと思うんですけど、要はモディがグジャラート州の首相(知事みたいな感じ)だった時代にイスラム教徒を標的にした暴動をけしかけて、大量のムスリムを虐殺したのではないか、という話なんですよね。ナチスの水晶の夜事件じゃん。そんなのが首相をやってるって考えるとゾッとしますね。

暗殺 柴田哲孝

最後にヤバい本を紹介して終わりにします。知り合いの方からのおすすめで購入したのですが、これはめちゃくちゃ面白い。ほんとによく書いたなと思えるような本です。一応はフィクションという体ですが、話の本筋はノンフィクションに限りなく近いと思います。あらすじを説明すると、奈良県で日本の元首相が暗殺される事件が発生した。犯人は逮捕されたものの、全貌は見えず、精神鑑定が必要という理由で裁判も進まない。そして不可解な謎の数々。その背後にはさまざまな団体や政治組織が絡んでおり、本当は一体誰が殺したのか?という話。ここで全部説明してしまってはつまらないので、これはほんとうに皆様に読んで確かめてもらいたいです。僕個人としては、絶対そうとは言えないけど、全然あり得る話かなとは思いました。

印象に残ったパート

(前略)国立奈良医大の担当医、福山教授の所見によると、田布施元首相の致命傷となった銃創は、弾丸が右頸部から入って左胸の心臓の近くで止まっている。だが、実行犯とされる上沼卓也が演説台の上に立つ田布施元首相を低い位置から銃撃したことは、当日のニュース番組の映像などを分析しても明らかだ。まさか、その銃弾が空中でUターンして戻ってきて、田布施元首相の頸部に当たったなどということは物理的にあり得ない。

(略)もうひとつ奇妙なことは、致命傷となった銃弾が、田布施元首相の体内で消えてしまったことだ。少なくともこの銃弾は貫通した形跡がなく、国立奈良医大の司法解剖の際にも見つかっていない。奈良県警はこれを「病院(もしくは路上)で救命処置をしている最中に体外に出て、行方がわからなくなった可能性がある」と説明する。だが、そんなことが理論的にあり得ないことは、考えるまでもなく明らかだ。しかもその当の警察は、事件から二日が経った今日まで本格的な現場検証を行なっていない。

柴田哲孝. 暗殺 (幻冬舎単行本) (pp.188-189). Kindle 版.

ここに関しては実際の事件と一致していて、結構な数の識者から指摘されている部分です。他にも国立奈良医大の所見と、警察の司法解剖の結果に矛盾があったりと、不可解な部分が多すぎるんですよね。では誰がやったのか?という部分は本に書かれているので、是非読んでみてください。

番外編:買ったけどまだ読めてない/読み始めたばかりの本たち

Science Fictions あなたが知らない科学の真実

Kindle版で買いました。科学における研究不正についての本ですが、結構面白いです。また全部読んだら色々書こうかなと。

罪と罰 ドエトフスキー

長え。くどい。以上。ごめんこれ読む体力なかったわ。

正欲 朝井リョウ

今のLGBTの在り方や、マイノリティーの苦悩、そして現代社会の生きづらさを描いた名作。まだ全然読めてないけどクッソおもろい。また読んだら紹介します。

新解釈 コーポレートファイナンス理論 「企業価値を拡大すべき」って本当ですか? 宮川壽夫

ここらへんも勉強しないとなって思って購入。落ち着いたら読みます。

「論理的思考」の文化的基盤 4つの思考表現スタイル渡邉 雅子

論理はその文化圏によって変わるという論旨の本。これも面白そうだったので購入。また書きます。

存在論的、郵便的: ジャック・デリダについて 東浩紀

友人にあずまん信者がいて彼のおすすめで購入。デリダもちゃんと勉強したいし、しっかり読んでみたいですね。

百年の孤独 ガブリエル・ガルシア=マルケス

これも読まねばと思い購入。少し読み進めていますが面白いです。


終わりに

前回からだいぶ空いてしまいました。すみません。年々読書の時間が取れなくて、もどかしい思いをしています。積読がひたすらに増えていく
ただ、本を食むことによって、脳の栄養になっていくと僕は信じています。そしてこうして記事に書くことで、本への理解を深められる上に、自分へのリマインドにもなるし、やってよかったなと思ってます。自己満だけどね。これを読んでくださった皆様、ありがとうございました。

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