教育実習の心構え(視点)

明日からいよいよ教育実習が始まります。私は年齢も年齢だけに、これまで多分20人くらいの実習生を指導してきました。「指導」というとおこがましい感じで、逆に勉強させてもらうことも多いです。細かい具体的なことはまた後で書くとして、今回は大局的な視点を整理しておこうと思います。

1.書類作成よりも大切なこと

教育実習と言えば、たくさんの書類を書くことになります。日誌はもちろん、授業指導案(教案)などです。これは指導教員によって違うでしょうが、私は書類をきちんと書く時間があったら、その分、他の実習生の授業見学(私自身の授業も含め、教員の授業がいいとは限りませんから)や生徒との触れ合いの時間を持つことが大切だと思っています。だから、特に授業指導案(教案)は、研究授業のものしか義務としません。書きたければ書けばいいと、私は考えています。自分の中で授業デザインをしっかり構築すれば、それで十分だと思っています。書類をきれいに仕上げることに時間を費やすのは、もったいないと思うんです。もっと大切なものが、教育実習にはあります。

書類よりも大切なものは、形に残らないもの。授業後のちょっとした時間とか、放課後の清掃時間に、生徒と時間を共有して「生の声」を拾うことが一番だと考えています。授業に対する「本音」や「感想」、学校生活に対する「喜び」や「不安」など、たくさんのものを吸収することができます。そして吸収したことを、実習日誌に書けばいいんです。

それから、自習生同士の対話を欠かさないこと。お互いの授業を見学しあったら、いいところと改善すべきところを指摘し合って、納得できる授業を目指していくことが重要です。悪いところばかりを取り上げてネガティブになるのではなく、ここを改善すればよくなるといったポジティブな視点から、お互いの意見交換をしてみましょう。

2.自分の「哲学」(授業目的)を持つこと

教える立場になると、生徒の時に授業を「受けていた」ときと違う視点を持つことになります。至極当然のことですが、これが実習生にとっては新鮮なはずです。だから、先生たちの授業を見て、スキルとして「これがうまい」
「なるほど」と思うのも当然です。でも、それをそのままコピーするのではなく、いいところを自分流にアレンジすることが大切です。そして、その際には、表面的なスキルだけではなく、自分なりの「哲学」を持つことをお勧めします。

例えばこんな感じのもの

何を生徒に学んでほしいのか?
どのように学んでほしいのか?
つけてほしい力は何なのか?
そして何のためにその授業をするのか?

私はたまに他の先生の授業見学をします。外部での公開授業は、コロナ禍のためほぼなくなってしまいましたから。その時にいい授業だなと思うのは、その先生に「哲学」がある場合が圧倒的に多いです。個人的には、教えるスキルに感動することは少ないです。

「哲学」を見失うと、ただスキルアップし、進度を守ることが優先されてしまいます。ぜひ上に掲げた目的を忘れずに、生徒と一緒に授業をつくってみてください。

3.批判的思考力を持つこと

教育実習生から授業見学後に感想をきくと、「勉強になります」とか、「すばらしいです」という反応が多い気がします。でも、本当でしょうか?

私は、自分の授業を実習生が見学したときに、彼らに必ず問うことがあります。「私の授業でよくなかったことは?」

実習生は反省会でも、「アドバイスをもらえてとても勉強になりました」という答えが多いものです。それはもちろん否定しません。でも、「教育現場でこんな違和感を持ちました」という話はほとんど出てきません。

これまで指導を担当してきた実習生ですごいと感じた人たちは、きちんと私の授業のよくなかったところを指摘してくれました。そして自分ならこうするという考えを持っていました。なかなか自分の指導教員に対して、そうしたことを言うのは勇気がいると思いますが、逆にそういうことを言いやすい雰囲気を、私たち指導教員は作る努力をすべきでしょう。率直に考えたことを話してくれる実習生がいると、私自身とても勉強になるし、自分の授業や生徒指導を振り返ることができます。ただ、私は感謝しても、先生によってはそうでない人もいるので(実は私のような教員は少数派?)、その辺は気を付けないといけないかも。

実習に限らず、普段から批判的思考力を持ち(否定とは違い、疑って考えてみるという意味です。いわゆるcritical thinkingです)、いろいろなものを様々な角度から考えてほしいです。何も違和感や疑問を持たずに、そのまま受け入れるのは危険です。もちろん謙虚に受け入れる姿勢は必要ですが、教育実習に限らず、社会でも「鵜呑みにせずに疑うこと」が大切だと思います。

4.教える場から学習する環境作りへ

教員というのは「教える」人のこと。でも、それは最近までの話かもしれません。今後はマインドセットをシフトしていくことが必要です。教員も学ばなければいけないし、実際、私も毎回授業で生徒から学んでいます。これはきれいごとでも何でもありません。

教室は「学びの場」です。だから、教員は「教える」だけでなく、「学ぶ場」になるよう環境を整えなければいけません。これが教員にとって、これから一番大事な仕事になるかもしれません。

そう考えると、授業が「教える場」だというのは、まさに発想(マインドセット)の転換が必要かも。「学びの場」を作るためには、知識を獲得する時間のほかに、自分で考える時間、他者と一緒に考える時間、他者の考えを受け入れたり批判したりする時間、自分の考えを深める時間などが必要です。そう考えると、知識を整理するために説明する時間は最低限にして、生徒たちに考える時間を返してあげなければいけません。私なりの解釈では、それが文科省のいう「主体的で対話的で深い学び」になるのでしょう。チョーク&トークを否定するわけではありませんが、その時間を極力短くする努力をすべきです。


教室での授業を、受けてよかったと思える「価値ある空間」にすることが、私たち教員にとって一番大切なことかもしれません。
明日から始まる教育自習に向け、自戒を込めて!

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