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2019年4月の記事一覧

30の視点で語られる、あるお葬式の一夜

30の視点で語られる、あるお葬式の一夜

滝口悠生『死んでいない者』(文春文庫)を読んで

   それ息で吹いたらだめなんだよ。   え。   線香の火、こうやって振って消さないと。   え、うそ。どうしょう。

 小説の中に出てくるシーンで、高校の制服姿の知花が、祖父に線香をあげようとしたとき、叔父の一日出(かずひで)にダメだといわれ、動揺する。どうしょうと聞き返され、口にした一日出も困ってしまう。こうした、だれもが一度は経験してきたよ

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『ノースライト』横山秀夫さんとラークマイルド1㎎

『ノースライト』横山秀夫さんとラークマイルド1㎎



『ノースライト』(新潮社)を読んで、作者の横山秀夫さんをインタビューした。会っておきたい。しゃべっておきたい。話を聞かなければ。そう思わせる作品だ。6年間日々ずっと直していた、というだけはある。昔書いたものに手をくわえるのは大変だ。文章の運びがすごい。一気になんかいかない。考えながら読ませる。

「アサヤマさんが相手だと、どうも煙草の本数が増えるんだよなあ。医者からは控えるように言われているの

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横山秀夫の『ノースライト』を読んで、ブルーノ・タウトを知りたくなった

横山秀夫の『ノースライト』を読んで、ブルーノ・タウトを知りたくなった



 横山秀夫の6年ぶりの最新刊『ノースライト』(新潮社)は、表紙カバーにも描かれている一脚のひじ掛け椅子の謎をめぐる長編小説だ。
 ブルーノ・タウトという建築家の名前に覚えはあったが、どういう人かは、横山さんの小説を読むまで知らなかった。
 ブルーノ・タウトが日本に滞在していたのは1930年代の3年間で、ナチスに批判的であったために身の危険を覚えドイツを出国(ユダヤ人ではなかった)、後にトルコに

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早川義夫さんの『ぼくは本屋のおやじさん』を読みなおす

早川義夫さんの『ぼくは本屋のおやじさん』を読みなおす

 わたしが大阪・阿倍野にあったユーゴー書店に就職したのは、70年代の終わり頃だった。学生時代に1年くらい、アパートの近所の本屋さんでアルバイトしていたのと、ユーゴーをやめてからもいくつかの書店で働いたのをあわせると、10年くらい本屋さんで働いたことになる。
 本屋で働くことにしたのは、人とうまく話せないので、できれば話さないでいい。そういう仕事を選んだつもりだった。とくだん本が好きだとか、本屋が好

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