「美味しい」の裏側で挑み続ける。その美味しさの秘密とは? ひざつき製菓株式会社(前編)
今回のものづくりインタビューは、栃木県栃木市城内町にあるひざつき製菓株式会社です。ひざつき製菓は主にせんべいなどの米菓の製造・販売を行なっています。また、株式会社武平作(ぶへいさく)という関連会社では栃木県内で販売するお団子など生菓子の製造・販売を行なっています。
ひざつき製菓のおせんべい
ひざつき製菓は自社企画商品の製造販売とPB(プライベートブランド)やOEMといった小売店や卸売業者などの企画による商品の製造販売の大きく2つの事業があります。
自社企画商品の代表は『城壁』という大きなヒビ割れが特徴のおせんべいです。一見固そうな見た目ですが、ヒビ割れがあることにより口当たりが優しく、中はソフトな食感です。
この他にも、えびせんべいや割れせんべいなど多数の自社企画商品があります。同じ栃木企業である岩下食品『岩下の新生姜』とのコラボレーションで生まれた『岩下の新生姜つな旨揚げパウダー200%』という商品もあります。
PB(プライベートブランド)の米菓としては、スーパーの商品をはじめ大手コンビニエンスストアなどでいろいろな種類のおせんべいを販売されています。
米菓工場に潜入
これらの商品はどのように作られているのでしょうか?編集部が工場に潜入しました!
まずは、さまざまな種類の美味しい米菓を製造するひざつき製菓のその秘密に迫ります。お話いただいたのは、製造部長の谷島 正孝(やじま まさたか)さん、営業部門の部長を務める4代目の膝附 宥太(ひざつき ゆうた)さん、そして1年半前に入社された広報兼営業部の芹川 光歩(せりかわ みつほ)さんです。
製造一筋 美味しさの鍵を握る谷島正孝さん
ーー谷島さんは入社されて何年目ですか?
23年目になります。出身もこの辺で地元です。大学時代はハンドボールをやっていまして、現在は栃木の高校でハンドボール部のコーチをしています。こんどの栃木国体にはコーチとして出ます。今はこんな(体)してますけど昔は締まってたんですよ。笑。
芹川さん:谷島さんはハンドボールの元日本代表なんですよ!
ーーえー!すごいですね!入社されたきっかけは何だったんですか?
大学を卒業してからすぐ入社しました。武平作は地元では有名な会社で私も子供の時からだんごなどをよく食べていました。その中でも『武平作』という四角い形の昔ながらの商品があって、それが好きでした。ちょうど大学で就職活動しているときに募集があって、「自分も興味あるな、作ってみたいな」と思って応募したのがきっかけです。ただ、正直言うと土日休みで家から近くて、という条件が良かったからということもあります。笑。
ーーものを作るのはお好きだったんですか?
そうですね、何かものを作るのは昔から好きですね。オフの時はハンドボールの練習でほぼ家にいないので趣味とまではいかないですが、たまに料理をすることもあります。家族からの評価が高いのはチャーハンです。笑。
ーー現在は製造部長でいらっしゃいますが、具体的な仕事内容を教えてもらえますか?
幅広くやっています。人事もやりますし、購買もやりますし、商品開発やそれに関する設計の部分も全部やっています。安全確保衛生管理者としてこの工場の安全管理委員長もやっています。あとは現場の品質管理や労働管理などもやっていますのでほぼ全部ですかね。自分も入れて、幹部はいま4人で回しているんですが、他社に負けないようなスピード感を実現していくためにも縦割りにし過ぎるとそれが弊害になって遅れ遅れになってくると思っているので、ある意味任される度合いが高い分、逆に自由さがあるというふうに思っています。
つくり手としての喜びともどかしさの狭間で
ーー商品開発にも取り組むようになって、どんなところにやりがいを感じていますか?
自分の納得するものができてお客様にも喜ばれて評価になり、会社の売上の骨組みを作っているということには常々喜びを感じています。でも、実質的には、本来作ろうと思えばもっと美味しいものは作れるんです。ただ、ベンチマークにしている他の商品と価格帯を合わせないといけないので、そこはどうしても手間という部分では引き算をしていかないといけません。それがもどかしさでもあるんですけど、それでもできる範囲の中で、納得のいくところで着地させるということをしています。
ーーなるほど。難しいところですね。
でも、そうやって試行錯誤して開発した商品が他との差別化にもなって、ここ数年大手コンビニエンスストアでシリーズ品として置いてもらえるようになり、会社の安定材料になれたことは非常に嬉しく思っています。
ーー試行錯誤として特に難しいと感じるのはどのようなことですか?
弊社の自社ブランドである『極濃(ごくのう)』というシリーズで小麦の生地を揚げたひねり揚げの商品があるんですが、それはグラム1円というのがスタンダードな世界で当然小売側からもそこを求められます。でも、袋が大きくなればなるほど物流コストが厳しくなるので、いかに小さく作って1袋で満足してもらえるものにできるか、ということが付加価値となる商品を考えて開発に取り組みました。特に味の濃淡にはこだわって、何段階かで味が変わるようなイメージで作りました。
ーーそれはこれまでおせんべいを作ってきた感覚だけでなく、経験や知識を総動員して商品開発に活かしているということですか?
はい。そういうことが全て商品開発に活かされています。他社OEMなどの仕事はどうしても利幅が小さくなるので、そこを何とか商品開発で打破しないと自分たちの生きる道は先細りしていくと思っています。それはもう20年くらい前からの課題としてはずっとありましたね。
ーーどのような課題があったのですか?
元々最初は焼き商品(焼いた商品)しかありませんでした。でもいざ商品開発というふうになっても、おせんべいって製造の工程上はあまり変化をつけられないものなんです。だから、商品開発といっても味を変えるぐらいしか新商品の部分としてできないというのがありました。大手のように新しくラインを入れてというのは簡単にはできないので、既存ラインを活かして新たな商品を作るというのは本当にすごく苦労していました。なので、私が商品開発を任されてからは朝早くから、何を作ってどこにどんな風に味を仕掛けていくのか、ということをずっと会話しながら作って少しずつ味のレパートリーを増やしてきたんですが、やっぱり限界がきてしまいました。
ーーそれでどうされたんですか?
その頃お店の厨房などで使うようなちっちゃいフライヤーで手揚げしたフライ商品(揚げ商品)を武平作のお店で売っていました。それが妙に売れるんです。フライ系は危険だし油で工場が汚れるのでだいたいの工場は嫌がるんです。現状もそうなんですが、油を使って商品を作る会社はすごく減ってきていたので、逆にそこをやった方がいいんじゃないか、となって実際に大型のフライヤーを入れて揚げ商品をやってみたらすごく売上が上がりました。そしてお褒めの言葉をもらえるような数が増えて、他社ブランドの品種なども徐々に売上が右肩に上がってきて1ラインでは足りなくなったので、もう1つラインを増やしました。今ではフル稼働で100%以上の稼働率で動くようになっています。
ーーこれまでのお話を伺っていると、どのようにお客様の目に映るか、どうしたら買ってもらえるか、という販売やマーケティングの方を先に意識した中で開発をされているような印象を受けたんですが、実際はどのような考えでやってきたのですか?
必要な状況に迫られてきたからですね。私たちの会社はマーケティング部門が無いので、製造は情報を取ってくる営業と密で会話をして、小売先、その先のお客さまが求めるものをどうやって形にしていくかということを結構な頻度で話しています。そこに工場の稼働率を考慮した自分たちの都合を足すというような感じです。
大手が考える逆のことを全部やりたい
ーーいま一番の課題は何だと考えていますか?
やっぱり一番の目先の課題としては「人」ですね。売り上げを伸ばしていくためにも人の確保をしなければなりませんが、どこの会社も同じかもしれませんが、そこは非常に苦戦しているところです。とにかく大手との差別化をしていきたいんです。機械に対して先行投資をして省人化していくというのがいまの大手の動きじゃないですか。ってことは、逆に言うとラインに人がいないんですよね。開発の観点から見るとそこを逆手にとって、大手が考える逆のことを全部やりたいと思っています。
ーー詳しくおしえてください。
味付けは人海戦術でやります。例えばアレルゲンを使うもの、小ロットで機材を洗わなくちゃいけないようなこと、あとは生地に練り込んだりなど「人」がいないとできないようなことは大手はなかなかできないと思うんです。やりたくてもできないことを逆手にとってやろうとすると、全ては「人」なんですよね。だからその第1の課題である「人」というのは、これからもっと事業を伸ばしていく上ではちゃんと人的な投資もしていかなくちゃいけないと思っているところです。
ーーなるほど。大手がやりたくてもできないということの中で、例えば先ほどお話しされていた『極濃』シリーズのような複雑な味付けというのは、人の手でやらないとうまくいかないということでしょうか。
そういうのもそうですし、製造ライン上の話をすると、本来製造から包装まで止まることなく流れていくのが一番の効率化です。でも、うちは前工程に1回戻して、もう1回再加工してまた戻してというように、人の手も介さないとできないような工程をあえて設定し、柔軟に工程を入れ替えて商品を作ったりしているんです。
ーーこれからの谷島さんの目標は何ですか?
現段階においては商品のラインナップのチャンネルにもう少し幅を持たせたいと考えています。コロナになったり、戦争で原料が入らなくなって「いきなりせんべいを作れなくなりました」となりかねない時代じゃないですか。だからこそ複数のチャンネルを持つことでリスクヘッジになるんじゃないかと思っています。新たなチャレンジとして既に新しい商品開発をスタートしていて、新しい機械も入ってくることになっています。
ーー谷島さん的には新しいことにチャレンジしていくというのは、楽しみな感じはありますか?
そうですね。止まっているというのはやっぱり面白くないですからね。