見出し画像

読書メモ(2)『透明人間は密室に潜む』著:阿津川辰海


『本格ミステリ・ベスト10 2021年版』第1位

『このミステリーがすごい! 2021年版』第2位

『週刊文春ミステリーベスト10 2020年』第2位

『ミステリが読みたい! 2021年版』第3位


 透明人間が殺人を犯す『透明人間は密室に潜む』と、アイドルオタクがアイドルの絡んだ事件の裁判員裁判をする『六人の熱狂する日本人』、られた音声をもとに犯人を推理する『盗聴された殺人』、そして、リアル脱出ゲームのイベント中に本当の監禁事件が起こる『第13号船室からの脱出』の四編からなる作品集です。

 表題作の『透明人間は密室に潜む』は、「透明人間病」という、細胞の変異によって全身が透明化してしまう病気が存在する世界が舞台という、特殊設定のミステリーです。初めての症例が確認されてから百年余り、現在、日本全国で約十万人、全世界で七〇〇万人の患者が確認されています。戦争に利用された暗い歴史を経て、透明人間と共存する社会の在り方が模索されるようになった、そんな世界です。

 現在の技術では、透明人間化を完全に抑制することはできない。そのため、傷を確認することは出来ず、DV被害者の供述も、原則として自己申告に頼るほかない。もちろんDV加害者は暴力を否定する。証拠が見つからないことが、透明人間の被害者の立場をさらに弱くさせているのだ。
 われわれは透明人間と共生する社会のあり方を模索し続けてきた。透明人間は、その姿を非透明にすることを義務付けられている。服を着る、化粧をほどこす、髪を染色する――そして極め付きが、五年前、ようやく日本でも認可されたアメリカ発の新薬だ。透明人間化を抑制するこの新薬は、やや不完全、かつ、決められた色での再現しかできないが、服薬による治療に初めて成功した。透明のままでは不可能だった医療処置も施せるようになった。老廃物すら透明にしてしまう透明人間病の前では、血液まで透明になり、血液検査も不可能だったのだ。その状況は新薬により改善された。

『透明人間は密室に潜む』p8 - p9

 彩子あやこが広げた新聞には、上記のことが書かれていました。まず、この彩子の視点で殺人までの経緯が記され、次に夫へと視点が切りかわり、殺人計画が発覚までの流れが描かれます。

 透明人間病研究の大家である川路かわじ教授が新薬を開発した、という記事を彩子は目にするのですが、人混みも歩けずに就職もできない、不便な透明人間を脱せるかもしれない新薬の完成を妨害するため、教授を殺害することになるのですが、その動機は最後の最後で判明します。

『六人の熱狂する日本人』では、登場人物の名前が一切出てこず、「裁判長」「右陪席」「左陪席」といった役職や、裁判員は「1番」から「6番」までの番号で呼び合っているので、誰が誰なのかという覚えづらさは感じました。それに引き換え、アイドルグループ名が「Cutie Girls」で春に開催されたライブ名が「Spring Festival」、曲名が「over the rainbow」というのは、覚えやすい、というよりも安直なネーミングのような気がします。

 トリックは納得のいくものでしたが、結末は釈然としませんでした。

『盗聴された殺人』は、常人よりも耳のいい女性・山口美々香やまぐちみみかと、探偵事務所の所長・大野糺おおのただすとのバディ物。浮気調査のために仕掛けていた盗聴器に、殺人の様子が録音されてしまっていたところから話は始まります。

 コメディとシリアスのバランスがよかったです。

『透明人間は密室に潜む』が74ページ、『六人の熱狂する日本人』が70ページ、『盗聴された殺人』が76ページで、70ページ代なのに比べ、『第13号船室からの脱出』は100ページと多いです。

 個人的に好きだったのは、最後の『第13号室からの脱出』です。高校生のカイトとマサル、マサルの弟のスグルの三人の視点が交互に入れ替わって物語が進んでいきます。

 後半「ん?」と引っかかる部分があり、それが見事に回収されたのには驚きました。普通にリアル脱出ゲームとしての完成度も高くありつつ、最後にカイトが途中の問題をすっ飛ばして導き出す、リアル脱出ゲームの最終問題と大仕掛けの解答に、無理がないように感じました。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集