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源氏物語はイケイケ話で紅楼夢のような余韻に欠ける

今年の大河ドラマは「光る君へ」。源氏物語は高校教科書に載っていた冒頭部分以外読んだこともなく、その後興味も関心もわかなかった。しかし日本を代表する古典である。なんとか読んでみようと思ったが、普通じゃ多分投げ出してしまうので、桃尻橋本治の「窯変源氏物語」14巻を読み始めた。光源氏の一人称で語るちょっと変化球型である。
いろんな女性遍歴が繰り返されるが、とりあえずわかったことは、婚姻やキャリアを通じた出世の骨格が目立つ小説だなぁということだった。
まずは桐壺帝の后である藤壺の更衣との関係。藤壺の更衣は後に冷泉帝を産み太上皇后となる。冷泉帝は光源氏の子である。そして光源氏本人は天皇でなかったのに准太上天皇という上皇に準ずる立場にもなる。臣籍降下されたことへのなにやらリベンジっぽく、読むものに、ちょっとした「やったね感」をもたらす。
次は正妻葵の上と、その息子である夕霧。親に似ず真面目で右大臣、左大臣となる。夕霧の娘たちは皇室に嫁している。
そして紫の上は光源氏の最愛の女性であった。藤壺の姪であり面影も似ていた。残念ながら子供は生まれず、光源氏と明石の君の娘である明石の姫君を育てる。やがて明石の姫君は今上帝の妃となり東宮や匂宮を産む。
最後は朱雀院の娘である女三宮との息子、実は女三宮と柏木との息子である薫。宇治十帖の主人公である。19歳で宰相中将となる。ここではこれまでの不行跡のしっぺ返しで、光源氏はリベンジされたけど、元々帝から娘を押し付けられた婚姻と考えれば痛手は小さそう。
こんなことがわかったのだが、いろいろ女性遍歴は重ねたものの、結局、子供たちは帝や后、左大臣となり、孫は東宮になり。本人も准太上天皇となり、藤壺太上皇后からも感謝され。
広大な六条院に妻妾を住まわせ。52歳になって孫と遊びながら、年が明けたら出家でもするかな、といってさしたる困り事もなく光源氏の生涯は終わるのである。
なんとも趣に欠けるというか、ハーレクインロマンスと渡辺淳一テイストを振りかけたイケイケ物語という感想であった。
私は紅楼夢ファンだが、女媧が天の破れを繕うとき残ってしまった岩と、絳珠草という可憐な草が、一度くらい人間世界を体験してみたいと賈宝玉と林黛玉となり、賈は金陵十二釵と呼ばれる美しい女性たちに囲まれながらホントは好きだった黛玉と行き違いで結ばれず、科挙にも合格したのに雲隠れして、最後は没落した大邸宅を黛玉の面影を求めてさ迷う。
しかしふと気づくと元の岩と草に戻り、永遠の平穏に戻った、という諸行無常、全ては夢、みたいな味わい深い人生を描いている。草木国土悉皆成仏。
もちろん約八百年後の小説ではあるが。
紅楼夢の方が好きだった。仏教的であり、無機物である岩とか植物も輪廻のなかヒトになったり。
あるいは光源氏の一人称で書かれたバージョンだったため、男の身勝手ばかり目立ち、女性の側の寂しさが読み手に届かなかったためだろうか。

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