【深夜の映画感想:天使の涙】彼の香りはほんの少しの自信と寂しさをくれた。私もかつて、別れた恋人と同じ香水を買ったことがあったっけ
ついに始まる本当のWKW祭り
昨日から公開がスタートした、『WKW4K』。私も多くの人と同じく、胸を躍らせながらこの日を待っていた。小さな画面の中でしか見たことがないあの映像は、パンフレットや劇場装飾など…画面外にも飛び出して来て、私を更にその沼へと引き込んでいく。
残業ばかりで心が削り取られそうになる毎日。
正直言えば泣きそうになる場面もあった。けれどもこの楽しみがあるからと、いつもより早めに会社を抜け出した。
公開初日の20時半、繁華街のネオンを背にして「今日は待ちに待った華金だ」と浮かれる人々をかき分け、その場所へと向かった。
今日からが本当の【WKW祭り】。ネーミングセンスのかけらもないが、浮かれ調子なので引き続きキャンペーン名はコレで行こうと思う。
※この祭りは私がただひたすら、時間があるときにU-NEXTなどでWKW作品を見るというだけのものだ。もちろん個人的に勝手に始めた。
そして今日ここで話したいのは、初日の鑑賞作品として選んだ『天使の涙』についてだ。
※前回書いた『恋する惑星』についての感想はこちら
作品概要
題名 :『天使の涙(堕落天使)』
制作年:1995年
監督 :ウォン・カーウァイ
この映画の魅力
まず初めに、この作品は長年多くの人を魅了し続けている。そのため考察や感想を書き連ねた文章は多く存在しているだろう。私はそれらを見ずにこれを残しているため、他の物と似たような記述や大きな解釈違いがあるかもしれないことを理解していてくれたら嬉しい。
愛する人と同じ匂いを纏う女たち
記憶に残るお気に入りの場面の1つとして、2人の女性が通りすがりに嗅ぎ覚えのある香水の匂いを感じたことで見つめ合うシーンをあげたい。
一見強い女性のように見える彼女。しかし愛する人の真似をして、会えない時に同じ香りを身に纏うなんて、そのギャップに愛おしさを覚えた。
こうして同じ香水を彼女たちが繕う理由。それは単純に愛する人が側にいない間も、可能な限りそばに感じたいということなのかもしれない。
しかし私は香りについて更に深読みしている部分がある。それは遺伝子的な好意について。
どこかで匂いは「人々の相性を表すフェロモン」が関係していると聞いたことがある。そのため愛する人とは匂い(遺伝子レベル)で惹かれあっていることがあるらしい。(そう言えば先日友人が、恋人と別れた理由に「なんとなくニオイが合わなかった」と挙げていた気がする)
これ関しては「男性がHLA遺伝子をフェロモンとして分泌しており…」という少々難しい話になってしまうので割愛しておこうと思う。
より正確に言えば、この匂いは香水などでは真似ることができないものではあるが、相手の心地良い香りに近づきたいという思いがあるとしたら…と深読みせずにはいられなかった。
彼に好かれようとして、彼が気に入っている香りの自分になる。クールな彼女のあざとい一面を知るきっかけになった。
香りという強烈な記憶
また、香りというものはその人の脳裏に深く刷り込まれるものである。数年も前に別れた恋人がつけていた匂いを街中で見つけると、今まで思い出す機会なんてしばらくなかったのに一瞬で過去に引き戻される。
実際に私にもそういう経験があった。
香りという強烈な記憶をこの作品のストーリーに関連させて見てみると、更に切なさをプラスさせる。
カレン・モク演じる派手髪の女性が殺し屋に別れを切り出されるシーンがあった。
きっと彼がその場を立ち去った後も、肩を抱かれた時に移ったその香りのせいで、嫌でも存在を近くに感じてしまうだろう。
本当に残るのは彼女が最後にと腕に残した噛み跡ではなく、記憶だ。服の上から付けられたその跡はすぐに色を変え、ただの皮膚の一部として吸収されてしまう。
「忘れないで欲しい」と彼女が心から願った、顔のアザや派手な髪の毛の色は忘れられてしまう。
「でもなぜかあなたの香りの記憶だけは私を離してくれない」
あの殺し屋は本当にずるい男だった。
サブスクで配信中だとしても、同じ作品を見に映画館へ向かう
エンドロール終了後、どこからともなく拍手が起こった。誰か1人から始まったそれは、見知らぬ誰かを飲み込んでいき、映画館全体を包む大きなものになった。
その時思った、「これだ、映画館があるべき理由の1つは」と。
同じ作品を共有して、同じ場面で堪えきれずにくすっと笑ったり、マスクすらも濡らしながら涙を流したり。多くの見知らぬ人たちと感情を共にする。
毎月お金を払っている配信サイトでも同じ映像を見れるのに、わざわざ映画館に足を運ぶ理由がある。
『WKW4K』はこの時代に、映画館へ行くことの素晴らしさを思い出させてくれる。そう気づいた時胸が熱くなったような気がした。
そして、そんな素敵な体験の後はパンフレットを購入し、外で待ち構えていたおじさんにスタンプを押してもらう。残りのスタンプが4つそろっても、きっと私の【WKW祭り】は終わらない。
これからもずっと好きな作品たちとして、その名前やポエミーなセリフ…そしてパイナップルの缶詰を見る度に、また彼らに会いたくなってしまう。私にとって、強烈な香りの記憶がなくとも心には残り続けていく特別な作品だった。