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寒気団散歩と高原英理『詩歌探偵フラヌール』
お寒うございます。
なんでも今季一番の寒気団がやってきているそうですね。大雪が降っている地方もあるとか。
私が住む横須賀は太平洋側、しかも比較的温暖な地域ということで、よそに比べれば寒さも控えめなのだろうと思います。しかも、乾燥しているせいか、冷たさでピンと糊付けしたような空気になっていて、けっこう気持ちがいい。それにお日様が出てさえいれば、お散歩すると体があたたまります。冬の晴れた日のお散歩、大好きです。
お散歩といえば、近頃「詩歌を巡るゆるふわ探検散歩小説」と銘打たれた高原英理さんの新刊『詩歌探偵フラヌール』がでました。
この本はまず、物体として素晴らしい。ハードカバー角背栞ひも付きは私の理想とする本の形態であり、カワグチタクヤさんの装画もそれを活かしきった名久井直子さんの装丁も素晴らしい。
経験上言えるのは、こういう「物体として素晴らしい本」の内容に間違いがあることはまずない、ということです。
なぜなら、本の顔を素晴らしくするのは中身の力だから。
というか、このタイトルだけで「うむ」ってなると思うんですよね。こちら方面の人なら。内容については、ひとまず出版社の紹介文を下記に引用しておきます。
「フラヌールしよう」を合言葉に、詩歌に導かれるように街に飛び出すメリとジュン。そこで出会う、奇妙で豊潤な詩歌溢れる小宇宙――萩原朔太郎、大手拓次、最果タヒ、左川ちか、ランボー、ディキンスン、シュペルヴィエル、斎藤史、紫宮透、渡辺松男、石川美南、高浜虚子、桂信子、鷹羽狩行、閑吟集……詩歌を巡る「ゆるふわ」探検散歩小説。
世の中には内容を説明をしようとすると野暮になっちゃう本というのがありましてね。本書なんかまさにそれなわけです。だから、装丁とタイトルにビビビときたら、迷わず手にとってみてください。
と、ここで終わらせるのもあんまりなので、私が推薦する本書の読み方だけはご紹介しておきましょう。
まず手を洗い、十分に乾いてから本を手に取ります。
表紙や背表紙のフォルムを手のひらで味わいます。
心が落ち着いてきたら、ひとつ深呼吸してページをめくりましょう。
中表紙のツルツルを楽しみ、目次に並ぶ文字列で目を喜ばせてから、章扉の装画に想像力を刺激されつつ、いよいよ本文に入っていきます。
ここからおすすめしたいのが音読です。
「フラヌールだって」
「え?」
「ベンヤミンだって」
「何」
「行こう」
ほら、音そのものを楽しみたくなるでしょう?
知らない人名や詩集の名前がでてきてもひとまず無視です。
先へ先へ。ひるまずたゆまずテキストを耳で味読することで、この物語は完成するんじゃないかな。
そんな気がします。
音読すると一気読みは難しいけど、この本はそういうタイプじゃないと思うんですね。到来物の高級ビスケットを毎日一枚ずつうふうふしながら食べる、みたいな感じで読むのが一番じゃないかな。
騙されたと思って一度やってみてください。
なに、大丈夫。騙されたところで失うものなどありませんから。
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