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スヌーピーたちと出会う夏

暑さをしのぐために、保冷剤を活用し始めた。

首や額を冷やすように、三角巾で小さめの保冷剤を包んで、必要箇所に巻いている。なかなかよい。
その三角巾はレッドXホワイトのギンガムチェックで、赤と緑の糸で縫われているものだ。普段は、魚や肉など、髪に匂いがつきやすいものを調理する際にだけ、頭を覆うために使用している。

日曜日の午前中、窓の外からグループで歩いて来た人たちの声が聞こえて来た。
それは、何も特別なことではないのだが、家の前に立ち止まって何か検討しているよう。ひとり、咳が止まらない人がいて痛々しい。

しばらくして、家の呼び鈴が鳴る。
そのグループの人たちが、水をボトルに入れさせてもらえないかと尋ねて来たのだ。
外の水道からどうぞと、許可を出す。

彼らは、ロンバルディア州はコモ湖畔の町から来た男子三名・女子七名のスカウト(ボーイスカウトXガールスカウト)だった。大学生と高校生(職業訓練校生含む)のグループ。大人の付き添いはない。
ジェノヴァ周辺で決めたルートを徒歩で回っているとのことだが、紹介された山小屋にたった一晩のために向かっているところだと。その道のりが分からなくなってスマートフォンの地図で確認していたのだ。他の日には、教会や各地のスカウト本部などに宿泊する手配を取っていると言う。B&Bやホテルなどに宿泊してはいけないルールで、その他で自分たちで手配をしなければならないそうだ。それも訓練の一部なのだろう。

この暑い中、たった一晩のために千メートル程の山小屋まで行くのもどうなのか……(まあ、それも訓練のひとつなのかもしれないが)と思っていたが、また、しばらくして呼び鈴が鳴る。
近隣の家々にも尋ねてみるが、屋外の敷地内に一晩だけ身をおかせてもらえないかという打診だった。屋内ではなくて、屋外の屋根のあるポーチでよいのだと言う。

TV番組の「Pechino express(北京エクスプレス)」か?と脳裏に浮かぶ。
その番組では、何組かのペアが、外国の地で、一日につき1ユーロの所持金で、バックパッカーとして移動はヒッチハイク、宿泊地も自分たちで一般の所(ホテルなどの有料の宿泊所ではない所)に泊めてもらえないかと交渉する。そうしながら、指定の場所にアクセスし、ミッションXゲームをこなし、最終目的地を目指すのだが、決勝まで残れるのはたった二組のみなのだ。
2017年の第六回エディションでは、「日出ずる国の方へ」というタイトルで、フィリピンから出発し、台湾を経て、日本・東京までの約6千キロの旅だった。日本国内では、姫路城から始まり、中山道を通って、東京までアクセスしていた。



他の家の呼び鈴を鳴らしているのが聞こえる。

その家の呼び鈴は、カランコロンと、放牧のヤギや牛が付けているカウベルのような音で、窓を開けていると、うちからでも聞こえる。設置されてから一年は経っていないのだが、最初に耳にした時にはそうとは分からず、近隣の家で新しい動物でも飼い始めたのかと思った。いや、何のことはない、カランコロンは、その家の人が帰って来たから「門を解錠して」という合図か、誰かが尋ねて来たかだった。

窓から様子を見ていたが、誰も返答する様子はない?(不在ではないと思うが)

しばらくして、またこちらの呼び鈴が鳴る。
結局、誰も返答がないか、外から様子を見てみんなでいられるスペースがなさそうかのどちらかだったとのこと。
こうして、彼らはうちのポーチに落ち着くことになった。

お昼時になったが、食事は自分たちで作るのでご心配なくと、アルミの容器でパスタを作っていた。火は外からは見えず、内側にアルコール燃料のものが入っているので、誤って火事にはならないとのこと。
手がかからない急な客人に、おやつとしてヨーグルトとお気に入りのバーチ・ディ・サンブーコ(「バーチ・ディ・ダーマ/貴婦人のキス」という名の菓子のその店特有アレンジで、ふたつのココア生地のビスコッティ/クッキーにホワイトチョコレートをサンドしたもの)を提供する。


バックパッカーのような出で立ちで移動しているので、その十人分の荷物を広げたら、所狭しといっぱいになっていた。
食後、サラウンド効果の蝉時雨に包まれながら、マットの上でうつ伏せに昼寝をしている女子、木陰にマットを敷いて休んでいる男子と女子数名。

めいめいが寛いでいるところで、起きているリーダーの男子、その参謀であろうかと思われる女子2名&男子1名と話してみた。

前日は、電車で到着して、教会に付属する所に宿泊して、海に行ったとのこと。教会の施設に泊めてはもらうものの、彼らは宗教系スカウトではないと言う。スカウトには宗教系と非宗教系とあるそうだ。

わたしも小学校中学年から中学校の受験前ぐらいまでガールスカウトをしていた。
とはいえ、イタリアのスカウト活動に比べると全然サバイバルではなかった。
まあ、今回の彼らよりも年齢が下だったということもあるが、夏にキャンプに行くことはあっても、宿泊地や移動手段のオーガナイズはすべて大人のスタッフがしてくれていたので。
予定変更の際にも、それを自分たちでどうにかしなければならないということはなかった。

「でも、他の事で自分たちで色々することがあるでしょ?」と尋ねられた。
たしかに、テントを張ったり、食卓用のテーブルを竹とロープで作製したり、飯盒炊飯など野外で食事の準備をしたり、キャンプファイアーでグループごとに出し物をしたり……
個人的には、積極的なアウトドアの人ではないので、ガールスカウトに参加していたからこそ、そんな活動経験ができたのだろうなぁ、と。

制服やユニフォームの話をした。
国や時代によって異なるが、似かよったところもある。
実は、冒頭のレッドXホワイトのギンガムチェックの三角巾は、ある年の夏のキャンプ用チーフだったような気がする。物持ちが良いにもほどがあるが、ほとんど色褪せていないのが不思議。
それを、いつもとは別にチーフ的に使ってみたら、スカウトがやって来た!引き寄せの法則???
引き寄せの法則の件は言っていないが、ちょうどそれをチーフのように使ったところだったという話はした。
彼らは、それぞれ別々のTシャツやランニングシャツにハーフパンツかショートパンツという服装だったが、何人かは首からチーフを下げていた(リーダーの彼は色別のものを二本)ので、わたしのチーフがどんな色かと興味を示して、聞いてきた。

ガールスカカウトには、モットーや「やくそくとおきて」があったが、イタリアでもあるのか尋ねてみた。
それも時代と共に変化しているのだが、基本はだいたい同じなので、場所や時が変わっても共通していることは多かった。「人を助け、人に役立つ」と言っているのをイタリア語で聞いて、ああ、あったあった、と。

ノルウェー開催のスカウトヨーロッパ大会に参加して来たばかりだという彼女は、ヨーロッパ外からのゲスト国で、アジアからは台湾のグループが来ていたと言う。
スカウトの全世界大会をジャンボリーと呼ぶが、何年か前に日本で開催されて、その機会にイタリア人の友人の娘さんが参加していた。その話をすると、「ああ、それはたぶん2015年頃で、わたしの上の人が行っていましたね」と。

夏にはこの辺りでは、各地で花火が行われる話題をあげれば、彼らのコモ湖畔では、六月末と九月末に打ち上げ花火があるから、花火が観たければぜひその日程でと言う。人でごった返すから、車でアクセスしない方がよいという助言もくれた。

彼らの地方の今の気温はジェノヴァよりも高く35度ぐらいだそうだ。湖があるが、盆地で山に囲まれて暑いのだと。そのせいか、ここは過ごしやすく感じると言う。
それでも、ミラノの方がより暑いとのこと。
お近づきになった機会に、そちらを訪れてみるのもよいかもと思ったが、できれば、もう少し気候が穏やかな時の方がよいかな。
(Wikipedia日本版のコモ湖のページ↓には、「避暑地」とあるが、どこから行くかにもよるのだな……と)


夕方、二時間ほど彼らと交流した後、翌朝の出発予定時間を尋ね、おひらきに。
四時には起床して、次の場所に出発するのだと言う。早朝の方が涼しくて歩きやすく、まだ暗くても、ヘッドライトを点けて行けば問題ないと。7キロ程の行程。

休んでいたメンバーも起きて来て、夕食準備。
座を囲んで、食前の歌(だろうか?)をみんなで歌っているのが、ロールシャッターを下ろした窓に近付くと聞こえた。


翌朝、平日の起床時間六時過ぎに目覚め、朝食後、ポーチに出てみると、何事もなかったかのように、すべてが元通り。ゴミひとつなく、汚れているところもない。
ほぉ、さすがだ。礼儀正しくてすばらしい。

テーブルの上にヨーグルトのカップを入れて出したかごの返却と共に、置き土産としてチーフとスヌーピーのワッペンとお礼の手紙が残されていた。

手紙の文面と十人の署名は内側にも続く



目的地に到着しただろう時間に、無事に着いたかの確認を兼ねて、置き土産のお礼を伝えるために電話してみる。応答がなかったが、しばらくして折り返し連絡あり。無事に到着して、教会の宿泊場所に荷物を置いたところだと。確認したら、なんとなく想像していたが、その電話番号は参謀の彼女のものだった。
「またすぐには顔を合わせないだろうけれど……」と言う彼女を通して、みんなに「ブォン ヴィアッジョBuon viaggio(よいご旅行を)、ブォン プロセグイメントBuon proseguimento(このあとも楽しんでね)」と伝える。彼女の周囲からも「グラッツェGrazie(ありがとう)」「チャオ~」という声が聞こえた。


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