晩秋の車内にて
夕暮れ時の電車は、日本ほどではないにせよ、通勤通学の乗車客でわりと混んでいる。
座れないかと思いきや、探せばどこかには席が空いているぐらい。
二階建ての二階に上がり、適当なところに腰掛ける。
今の時季は暖房が少し強く感じられる。
ボックス席の通路側に座ったが、他の三席は高校生ぐらいかと思われる友だち同士の女子三人。いずれも上下黒ずくめ。仲間同士で座っている人たちはたいてい話していることが多い。特に高校生ぐらいの子たちが集団になると、賑やかを通り越すことも多々ある。
ちょうど空いた別の席に移動したものの、彼女たちは二駅で降りて行った。
入れ違いに、ローレルの冠を頭にのせた白いワンピースに黒いスニーカーの女子と白いトレーナーを着た男子がその席に座る。ローレルの冠は、大学卒業の際に頭にのせるものなので、彼女はまさに卒業ほやほやなのだろう。彼の方は恋人だろうか。四人掛けのボックス席に隣同士に座り、そのうち肩を寄せあいながら眠っていた。
イタリアの大学生はみんな一斉には卒業しないと言うが、年に三回ぐらいその時期があるとのこと。
秋はその時期のひとつ。
日本のように同じ大学の学生が一斉に卒業式に参列するということは皆無ではないだろうが(実際に、ヴェネツィアのサンマルコ広場に集まっての卒業セレモニーの写真を見せてもらったことがある)、どちらかと言えば、稀な方ではないか。
ちょうど今週、お付き合いのある人の甥が卒業するとのことで、見に行くと聞いていた。
わたしが移動した席の近くには、後から乗って来たであろう黒ずくめの男子高校生らしい子たちが座った。制服ではないので、背丈や雰囲気や振る舞いでそう判断している。イタリアの中学生は、日本の中学生よりも年若いので、パッと見は幼く見えることが多い。大学生だと、高校生よりは落ち着いた雰囲気で、複数でいてもむやみに騒がしくしないように見受けられる。
ひとりはわたしの前に、ひとりは通路を挟んでその子の並びに、もうひとりはわたしの前に座る子の後ろにある長椅子の席に。近くとは言え、それぞれが別々の席に座っていたが、身体はお互いの方向を向き、それぞれの携帯で何か面白いと思われる動画やページを見せ合っていた。やがて、各々、携帯の画面に集中する。
長椅子の反対側には、大学生ぐらいだろうか?と思われる女子が二人並んで座っていた。
ひとりは長いストレートの髪を手を上に伸ばしておもむろに束ね出した。ショート丈のスカートかパンツから二十か四十デニールぐらいのうっすら肌色が見える黒いタイツを履いた足が伸びている。
その隣の女子は眼鏡をかけて、マルチカラーの大きめトートバッグを膝の上にのせていた。
雰囲気が異なるため、二人は友人同士ではない、たまたま隣り合わせに座った人たちかと思ったが、追い越す電車が通り過ぎるため、しばらく途中停車していた際に、眼鏡女子が隣の女子に何か話していた。もしかしたら、その状況について何か言っただけかもしれないので、それだけでは、二人が友だち同士か、他人同士かは分からない。
タブレットで電子書籍を読んでいた女性もいた。
わたしの位置からはその手元だけがよく見えていたが、この人は仕事帰りかと想像した。
それにしても、秋冬はダークカラーの服装の人が多い。
そういうわたし自身も概ねネイビーの服装だったので、他人事ではないけれど。