ひょっとしたら、“calling”かも知れない
「なんで、そんな体育会系の会社に入ったの⁉︎」
僕が体育会系とは程遠い性格をもち、驚くほど運動神経が悪いことを知る周囲からは、新卒で入社した社名を伝えると驚かれることがありました。
社名を聞けば、誰でも知っているような企業でした。体育会系のイメージは引っ越しや宅配便のような、物流という業種だったからでしょう。
単に興味があった、それだけの理由で、さんざん時間がかかった就職活動にケリをつけたかったのです。人よりも苦手なことだと自覚していたからこそ、事前の準備は早めにやったつもりでした。
春が過ぎて、周囲が内定をもらう中、僕はひとつも内定をもらえていませんでした。最終面接まで行けば、あとは確認だけだから大丈夫、なんて言われていたのに、4社も落ちてしまったのです。
志望する業種を変えて、何度も本を読み、自己分析も検討しなおしました。SPIも何十社も受けたので、全く違う業種だったけれど「昨日と同じ問題だ!」と驚いたことも。面接官からは「試験の成績はいいけどね・・」などと言われたりもしました。面接が1日3社ということもありました。
就活での挫折は、自己嫌悪が原因になることが多いらしいのですが、まさにそんな感じでした。
そして、ようやく内定をもらえた、その会社に入ったのです。選んでいる場合ではありません。エントリーシートには、ジブリの映画で印象に残っているセリフのような文章を書いたのを覚えています。
「誰かからの贈り物の箱を開けるときは、とてもワクワクする。その思いも届けられる仕事がしたい。」
体育会系かどうかなんて、考えたこともなく、入ってみて驚きました。もともと体育会系すら経験したことがなかったので、部活のような感覚でした。
3年くらい働いて、なかなか馴染めないので、結局、辞めることにしました。辞めて何するの?いろんな人から聞かれたけれど、実はもう決めていました。
やめる少し前、公務員に転職した先輩から話を聞きました。仕事内容というよりも、どうやって勉強したのか、とか、受験のスケジュールのことを。
「もつには、公務員が合ってるよ」
そう笑う先輩。だからこそ、仕事内容ではなく、どう勉強を進めるかを熱心に語ってくれたのです。
ちなみに、僕が学生時代に所属していたゼミは、行政法の研究をしていました。そして、僕以外はみんな、公務員になっていました。17人と人数の多い学年でしたが、僕ともうひとり以外みんなでした。嘘でしょ。全然知らなかった。
「なんでもつ君が公務員にならないのか疑問だった(笑)」
ゼミ仲間の飲み会でも、そんなことを言われてしまったのです。早く言ってよ・・。
実は、他人から見たら、僕は民間企業に就職するのではなくて、公務員になることのほうが正解だったのです。
僕が公務員に興味を持ったのは、その”民間”である企業と行政の違いからでした。
引越しの営業をしていた当時、ほとんど全ての評価軸は、お金でした。
どれだけ稼いだか、どれだけ価格を下げたか、なんでもお金で表現していました。引越しの荷物が壊れたり、新居の壁を凹ませたりして、事故が起きれば保険で直し、クレームがあればお菓子を買って謝りに行き、新しい家具を購入したりしていました。
お客さんを”選ぶ”のも、お金でした。面倒臭そうなお客さんには、選ばれないように提示価格をつり上げて”逃がし”、企業契約の案件や繁忙期には少しでも稼ぐために、価格を操作するようなこともありました。
その感じが、僕には納得ができなかったのです。
いいサービスは値段が高い、だからお金が払える人にしか提供できません。当たり前なのですが、それでいいのかなと立ち止まった時、お金を超えたサービスの提供という視点で、公務員であれば地域や社会への貢献ができるのではないかと考えたのでした。
その頃、家族や親戚に公務員をしている人はいませんでした。仕事内容は、全くの無知でしたが、それは逆に希望でした。嫌なところも、いいところも、やってみなくちゃわからない・・そんなふうに思えたのです。
それまで、サービス残業は当たり前で、有給休暇もほとんど使ったことがありませんでした。公務員なら、法律や制度の前提があってこそ仕事をしているのだし、儲け云々ではないから働き方も無理はさせないだろう、そんな期待もありました。
前職を離れてすぐ、公務員になるための試験に向けて猛勉強を始めました。幸か不幸か、高校も大学も入学試験を受けていなかったこともあり、後にも先にもあんなに勉強した期間はありませんでした。
結果、国家二種、裁判所事務官、労働基準監督署、東京都特別区、地方上級の5つの区分で内定をもらうことができました。これはちょっとした自慢です(笑)
公務員になってみて、「こんな仕事があるんだなぁ」と思うことばかりでしたし、今でもそうです。そんな日々の発見に助けられて、飽きることなく働くことができています。
「あなたは、どんなところにいても、
楽しみを見つけて働いているよね」
妻は、そんなふうに言ってくれます。必死に楽しそうにしているわけではなくて、たまにする仕事の話が楽しいのかも知れません。
職場でも、そしてお客さんである住民の方からも「もつさんだから言うけど・・」と言う前置きでお話しいただくことがあります。それは、とても嬉しいことです。そして、なんだか緊張することでもあります。
公務員ってどんな人が向いてますか・・と聞かれたら、僕はこんなふうに考えています。様々な業務があって、それぞれに合う人がいるのは当然ですが、総じて「人が好きな人」が向いていると思うのです。
タイトルに入っている”calling”と言う英単語、呼び出し・・と言う意味の言葉ですが、”天職”の意味もあるのをご存知でしょうか。
周囲の人から見た僕のイメージ、そして楽しそうに仕事している僕の姿、ひょっとしたら公務員は、僕にとって天職なのかも知れない、そんなふうに思うのです。
そう思える環境であることに感謝を込めて、これからも働いていきたいと思います。
みなさんの仕事は、いかがでしょうか。
公務員に転職して1年目に起きた、東日本大震災。ある親子と出会って”公務員になって良かった”と心から感じた瞬間を綴っています。