マハ初め #書もつ
読むと元気がもらえる、読めば落ち着く、小説は日常から離れることのできる仕掛けのような存在かも知れません。
まるっきり今の自分と同じ主人公なんていないでしょうけれど、どこか似ていたり、憧れたりする部分があると、なおさら物語の世界に没頭してしまうものです。
毎週木曜日は、読んだ本のことを書いています。
立ち寄った本屋で、思わず手に取ってしまったキラキラと主張するクリムトの表紙。著者は、僕の好きな作家でした。1枚の絵画から紡ぎ出される物語は、読み手の憧れであり癒しです。
観たこともないような作品も、どこかで観たことのある作品も、鮮やかな額縁に飾られたように印象深いものになるのです。
そして、読んだ後には必ず、その絵の前に立ちたくなります。たとえ、それがスマホの画面だとしても。
〈あの絵〉のまえで
原田マハ
6枚の作品からなる短編集は、どれも女性が主人公でした。それぞれに年代も境遇も異なり、隣には友達、あるいは夫、彼氏、それともひとり、など設定も鮮やかでした。
アート小説と呼ばれている作家の世界は、どれも違うように描かれているのに、大きな部分には、作家がかねてから訴えている「美術館は友達の家」という思いが滲み出ているようです。
この投稿を読まれている方は、どのくらい美術館に行ったことがあるでしょうか。
果たして、この作品に出てくる主人公たちは、みんなが美術館通いをしているわけではありません。物語の中では、初めて美術館に行く者もいました。
もしかしたら身近な美術館が描かれているかも知れません。僕は、読みながら何度もドキッとしました。それは、知っている場所、行ったことのある場所がいくつか出てきたからです。
作家が海外の美術館をメインに書いた短編「常設展示室」とは趣が異なり、全て日本国内の実在する美術館が舞台。
さぁ、どうぞ友達を探しに行ってみてください。
何かを切り取って伝えたいのですが、どの作品もそれぞれに良さがあり、また読み手にとって何か救いのようなものがあるかも知れなくて、うまく選べません。
ゴッホ、ピカソ、セザンヌ、クリムト、東山魁夷、モネ・・モダンアートの粋をあつめた物語をすぐにでも読んで欲しいなぁと思うばかり。あとがきには、全ての美術館の学芸員さんによる作品の解説があり、フィクションである物語と、実在する絵画の解説の対比もまた、アートが身近になるように感じられました。
ちなみにこれまでの僕の旅行経験から言えば、モネが紹介されている場所、その美術館は絶対に行くべきです。(物語の答えになってしまうため、あえて伏せています)
詳細は避けますが、その美術館では、コンセプトが計算され尽くしているにもかかわらず、現代的な装置のない展示空間を設けています。絵を観るよりも、そこにいるだけでも価値があるとさえ思いました。
有名な作品が「記号」として消費されるのではなく、主人公たちの人生を応援していく様は、羨ましくもあり、爽やかでした。