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難題。
「コケコッコー!!!!」
熟女の顔に飛び散る白い液体。
安心してくだい、唾液ですよ。
私は家族の中でイジられ役だ。
リーダーは夫、手下の長男。
それに加え、わたしの言動を常に監視する恐ろしい監視官、長女。
昨日も、歯を磨いていたら、無防備な私の後方から夫が忍び寄ってきた。
そして耳元で突然「コケコッコー」とバカでかい声で叫んだ。
驚いた私の口からは、歯磨き粉で白く濁った唾液が飛び散った。手を空中でばたつかせ、足踏みをし、襲ってきたコケコッコーの声を振り払おうと必死に踊り狂った。
悲鳴をあげて荒れ狂う私の姿を見て笑う家族達。それが彼らの最高の喜びであり、ストレス発散なのだ。
そんな可哀想な私にも相棒がいた。
次男だ。
家族の中で最年少の彼はいつも優しかった。
長らく私をかばってくれる存在でもあった。
飛び散った唾液だって、一緒に拭いてくれるくらい優しかった。
しかしそんな次男も、やはりあちら側に行きたいのだろうか。
それとも成長の過程なのだろうか、最近私をターゲットにしたマウンティングが激しさを増している。
キッチンで朝ご飯の準備をしていると、起きてきた次男が「おはよう」の挨拶よりも先に、自分の優位を示してくる。
次男「『まだ水飲んでない』って、今日一番先に言ったのは誰か知っているか?」
内容を理解するのに一苦労する質問。
1000歩譲って、まだ一度も水を飲んでいない自分を自慢するならまだ許す。でも「まだ水を飲んでいない」と今日一番先に言ったのは誰か。と、そんなところからも自分が上だと示したい下らなさに腹が立つ。
「次男だね。」と笑顔で認めれてあげれば満足するのだろう。しかし、日頃のマウンティングハラスメントによるストレスで、そんな寛容な気持ちにはなれないのだ。
私「ママだな。起きてすぐ「今日一回も水飲んでない」って言ったもん」
マウント返し。しかも嘘。
それでも、私より優位に立ちたい次男のマウントは続く。
「俺の舌の筋肉ってめっちゃ強いんだぜ。」
「俺のかかとめっちゃ硬いんだぜ」
「俺の腹みてよ、この筋肉」
それは、あばら骨。
クズの寄せ集めのようなマウントばかり。
毎度いちいち反応するのも嫌になるけど、それでも私は勝ちに行く。
そして夕方。
トイレに入っていると静かにドアが開かれる気配を感じた。
我が家のトイレに鍵はない。扉が閉まっていれば、誰か入っているという合図なのだ。
次男「ママ?」
可愛らしい声で中にいるのが愛しの母親なのかを確認する次男。
チラッと開いたドア隙間から私の姿を確認すると、ドアを全開にし、個室に侵入、マウントをとり始めた。
次男「俺の爪見て。この爪で消しゴム切ったんだよ。この人差し指の爪が一番強いんだよ。多分ママの爪より強いよね?」
尻が丸出しでも、私は勝ちに行く。
私「ママの爪の方が強いよ、だってママの爪は君のよりもこんなに大きいんだよ。」
自信満々で自分の爪を見せつけた。
トイレに座る私を恨めしそうに上から下まで無言で見つめてくる次男。
あまりにも下半身を中心に見つめてくるので居心地が悪くなった私は「用事がないなら出ていって欲しい」そう言おうとした時、突然何か閃いたように、次男が再び喋りだした。
次男「…俺は立っておしっこできるけど。
ママは…できないよね?」
一瞬戸惑ってしまったが、すぐに思考をフル回転させる。
立ちションができるか、できないか。
便器に綺麗にホールインワンしなくて良いのなら、下半身や床をびちょびちょに汚して良いのなら・・・できる!
私「できるよ。」
次男「じゃあ、やってみせて。」
私「もう全部出ちゃったから、無理。」
次男「次、トイレに行くときやって見せて」
私「うん。分かった。」
そして現在こちらは、もうすぐ22時,
膀胱はもう限界を超えようとしている。とんでもない約束をしてしまった。万が一、今くしゃみでもすれば、もれなく飛び散るであろう下半身。
「できる」と言ってしまった以上、マウントティング鬼の次男は確認するまで諦めないだろう。
子ども部屋から話し声が聞こえなくなってきたから(寝た)、今日は無事に乗り越えられそうだけれど、明日からが問題だ。
日中は学校があるからいい。
とにかく、極力水は控えよう。
こうなったら、女性用立ちション器具でも買おうか。でも器具を使うのは卑怯だろうか。
それともやっぱり、正々堂々と立ちションするしかないか。
やるか、やらないか。
結局、人生はいつだってその2択。
自己啓発本を読み漁る意識高い系の私に、どちらを選ぶべきかなんて愚問は不必要。
答えは、いつだって「やる」だ。
迷った時こそ困難な道を選ぶんだ。
膀胱炎になる前に。
そう分かってはいるけれど、でも、そんな母親の姿を子どもに見せてもいいのだろうか。だめだと頭では理解しているけど、でも、勝ちたい。
最悪引き分けでも仕方ないか‥‥。
でも、どうすれば引き分けになるのだろうか?
これは、とんでもない難題じゃないか。