【小説】路地裏【ショート】
僕の弟の名前はアキ。
僕の名前はハル。
「ねえ、アキ。おじさんがまたギター弾いてるよ」
「相変わらず下手くそだな」
「うん。でも楽しい音」
・
「ねえ、アキ。今日はおじさんいないね」
「雨だからな」
「なんで雨だからいないの?」
「ギター濡れちゃうだろ」
「そっか」
・
「ねえ、アキ。今日、お母さん帰ってくるかな」
「アイツに帰って来てほしいのか?」
「アイツじゃないよ。お母さんだよ」
・
「ねえ、アキ。ヒーローって困ってる人を助けるんだよね」
「そうだな」
「お母さん、連れてきてくれるかな」
・
「ねえ、アキ。おじさんはなんであんな所でギターを弾いてるんだろうね」
「誰も聴いちゃいないのにな」
「僕たちが聴いてるよ」
・
「ねえ、アキ。おじさんがスーツの人に怒られてるよ」
「あれはオーナーだな」
「オーナー?」
「おっさん、コンビニの店長してるからな。店長のくせにサボってあんな所でギター弾いてたら怒られるだろ」
「へえ。アキってなんでも知ってるね。僕がお兄ちゃんなのにアキがお兄ちゃんみたいだ」
「俺は後から生まれたから弟だ」
・
「ねえ、アキ。おじさん、キラキラ星弾いてくれないかな」
「紙飛行機に曲名書いて飛ばしてみれば」
「届くかな」
「届くさ」
・
「ねえ、アキ。昨日、キラキラ星弾いてくれたね」
「下手くそだったけどな」
「うん。でも楽しい音」
・
「ねえ、アキ。…アキ?」
「アキ、どうしたの?」
「ねえ」
「苦しいの?」
「わ、すごい熱!」
「つらい?」
「氷枕持ってくるね…あと体温計…」
「お水飲む?」
「お母さん、帰ってこないかな…」
・
「ねえ、アキ。つらい?」
「まだ、お熱さがらないね」
「お水飲む?」
・
「ねえ、アキ。ヒーローっているのかな」
・
「ねえ、アキ。まだつらい?」
「お水飲む?」
「あ、お母さん!」
「アキ、お母さん帰って来たよ!」
「ヒーローはいるんだよ!!」
・
「お母さん、大変なの!アキがお熱出ちゃって…さがらなくて…どうしよう…苦しいって」
「#なんのはなしですか」
「…お母さん?」
「#なんのはなしですか」
「なんのって、アキがお熱出たんだよ!」
「#なんのはなしですか」
「お母さん、どうしちゃったの?」
「アキが苦しそうだよ…早くお医者さんに…」
「おまえなんか#どうでもいいか」
「…え?」
「おまえなんか#どうでもいいか」
「おまえなんか#どうでもいいか」
「おまえなんか#どうでもいいか」
「おまえなんか」
・
「ねえ、アキ。ヒーローっているのかな」
・
「ねえ、アキ。お母さんがいっぱいお金置いてってくれたよ」
「これでお医者さんに行けるね」
「お腹すいた?」
「おじさんのコンビニでなんか買ってくるね」
・
「おい!!しっかりしろ!」
「救急車呼んだからな!」
「…あれ?おじさん…」
「おお、目覚めたか!!」
「あれ、僕…」
「お前、いきなり俺の前でぶっ倒れたんだぞ」
「…倒れた?」
「何しても起きないから救急車呼んだ」
「救急車…」
「…アキは?アキ、熱があってつらそうなの!僕じゃなくてアキをお医者さんに連れてってあげて」
「それ、ぶっ倒れる前に言ってたけど、誰もいなかったぞ?お前って紙飛行機のガキだろ?あそこの部屋見たけど誰もいなかったぞ」
「そんなはずないよ…よく見てよ!アキ、お熱出て死にそうなんだよ…よく見てよ…」
「熱で死にそうなのはお前だろ」
・
「おーい、アキ。いるか?」
「最近、あんまり出て来なくなったな」
「今日、母さんに会いにいったよ」
「10年ぶりくらいかな」
「アキも会いたかったか?」
「#なんのはなしですか」
「まあ、そうだよな#どうでもいいか」
「母さん、俺の事忘れちゃってさ」
「話も通じなかった」
「なんであんな風になっちゃったんだろ」
「俺のせいかな」
「#なんのはなしですか」
「なにそれ。違うって言いたいの?」
「#なんのはなしですか」
「アキなりに慰めてくれてるんだな」
「#なんのはなしですか」
・
「おーい、アキ。いるか?」
「俺、コンビニでバイト始めたんだ」
「あのおじさん、元気かな」
「あの後、入院やら施設やらでお礼も言えなかったな」
「まだあの路地裏でギター弾いてるかな」
「またオーナーに怒られてたりして」
「ギターは下手くそだったけど、俺たちのヒーローだよな」
「うん」
「アキも俺のヒーローだ」
・