古時計とアポロ 旅芝居・ずっと観てゆくということを座KANSAIから
『大きな古時計』という童謡がある。
平井堅がカバーしたやつ。って、古いな。
旅芝居の舞踊ショーでもなぜかよく踊られる。
私はいまだにソレを観ると滑稽だなって笑ってしまうのだけれど。
この日はちょっとほろっと来た。思い出ある劇場で、なつかしい劇団で、観て。
あの頃は「3兄弟の劇団」だった。
長男はサービス精神と愛嬌たっぷりの座長、
次男は男の色気と、なのに一転して美しい女形を見せる渋い副座長、
三男は大きな背丈と、かわいげ、〝弟感〟で大人気の花形。
次男の息子は若武者という肩書で人気のクールなフェイスにで躍動感ある舞踊をみせる青年。
そのすぐ下の弟は、はにかみ屋さんだが、きれいな顔の少年。
さらに食べ物の名前の子役たちがたくさん居た。座長や副座長の子ららしい。
芸名はそれぞれの好物の名で、うどん、だの、やきそば、だの、ベビースターだのだった。「バクダンベイビー・やきそば」。意味がわからないがそうだったのだ。
ベイビーたちは時折出演したり、しなかったりだった。
とはいえ、私は、その劇団に一か月、
いや、しばらくゲストとして来ていた役者にベタ惚れだった。
フリーとして各劇団をまわっていた彼は
ちいさな子供たちや若武者をはじめとする少年たちが大きくなるまでのとして入っていたのだ。
そんな劇団が、今、あの、食べ物の名前だった子たちが中心の劇団になっていた。
若武者は「総座長」、はにかみ屋の弟は「後見」。あの時の座長は「劇団責任者」。
(これは彼が役者を始めた頃から一番仲のよかった役者が同じ肩書を名乗っているからという影響も大きいのだろう)
感嘆のためいきと共に、微苦笑。だって、16~17年前。若い子の成長って早いなあ。嗚呼、こちらも歳をとるはずです。
あの頃から「芸!」って感じの劇団じゃなかった。
特別芝居がうまい劇団かと訊かれたらそうでもなくて。
特別舞踊やショーがすごいと訊かれてもそうでもなくて。
でもなんか、楽しかった。バランスがよかった。なんせ、明るかった。
愛想と元気と愛嬌。だから、関西の地では結構人気で。
浪速クラブの常連劇団として、小屋からも小屋付のお客さんからも、勿論劇団ファンからも愛し、愛されていた、小屋からも、小屋付のお客さんからも、勿論、劇団ファンからも。
座長が率先して若い役者らを盛り上げていた姿が印象的だった。
舞台の上で、または舞踊中に舞台袖から影マイクで、「ちょっとやりすぎかなあ?」と思わなくはなかった、でも嫌味な感じやパワハラめいたものは感じなかった。
とはいえ、やはり、私は、そんな劇団だからこそ、こそ、
愛想もへったくれもなく自分の仕事を淡々としていたひとりだけめっちゃ巧いフリーのその人にぞっこんだった。
当時のどの食べ物君かはわからない。
明るく元気なイケメンたちの内のひとりが踊るのは『大きな古時計』。
袴姿で、人形振りで、とはこの曲を踊る役者たちが好んでやるやり方である。
和楽器ver.邦楽版?な編曲、と、時計の「チクタク」によるものなのだろう。
私は正直この「型」が嫌いだ。なんでこの型でどや顔してるねん。客席も「すごいもの見た」みたいに喜ぶねん。
でも、でもでも、なんだか感慨深くなってしまった。〝チクタク〟に。
あの頃の、副座長はもう居ない、花形ももう居ない。3兄弟とは嘘だと知った。
副座長は消えた。女と逃げたのだと座長や他劇団の座長が舞台で言っていた。暴力もあったのだとも。
私の記憶に残る彼はぶっきらぼうだけれど、どこか、優しい人だった。
口が悪く見た目も怖かった、「俺、ヤンキーちゃうで」とけらけら笑っていた。
でもきっと、幕内の人間、身内の人間たちが言うそれが正しいのだろう。
私の憧れのスターももう舞台には居ない。その後様々な劇団に属するも2年前の8月をもって役者を辞めた。
ネット、SNSなんかに書けることや書かれていることなんて事実真実本音なんて0もしくは何パーセントかだが、あの夏を、私は忘れない。
そして、今も、この業界に対する違和感や不信感は消えないし、全身全力で褒め称えることはしない出来ない。
私はまだこのどうしようもない人間舞台を観ている。
今居るのは座長と副座長の息子たちで、おいしい名前だった子たちは、皆、食べ頃だ。
今の私はこんな立場(?)となると客席のさまざまな人からお悩み相談を受けたりアドバイスなどをさせていただく機会も多い。顔を知る人も、知らない人もだ。
憧れてます、なんて近づいてきて下さる(のにどっか行っちまう)人も多かったりもするが。
私はいろんな人に言っている。言うようにしている。
「長く観てゆくこと」を。きっとそれが面白いのだと。
面白いは語弊があるか。沁みる。これも、違うかもしれない。言葉が薄い浅い。
旅芝居はすべてが滲み出る。舞台、芝居から舞踊から。
生き様、考え方、人への向き合い方、今の気持ちや状況、芸からすべて。
時にみたくないものすら、浮かんでみえる、この人間舞台だからこそ。
だからね、「ぼちぼち、ずっと観てゆきましょう」「ずっと」
時に、切なかったり、悔しかったりも含めて。こちらも年齢や経験を重ねながら。ずっと。
勿論、舞台は一期一会で、正直、花の命は結構長くなかったりもする。
笑えないことが多い業界故に、「明日」がわからないことも少なくはない。
だから、でも。でも、だから、それでも。「ぼちぼち、ずっと」
舞踊ショーの3人舞踊では、もうひとつ印象深いものがあった。
「僕らの生まれてくるずっと昔にアポロ11号が月に行った(のに)」みたいな曲での舞踊だ。
お気楽明るい、軽薄、あ、失礼、某J-POPバンド(嫌いじゃない)のノリノリのnumberでの舞踊。
我々の若い時期にはお馴染みだった曲である。旅芝居の舞踊で使うの?!このリズムと流れで?!
うん、案の定「踊れて」はいない。
ご機嫌にくるくるひらひらして、いぇいいぇい、だ。
センターで踊る総座長は、それでも、
両隣の若い2人を見て「着いていけない~! 振りがむずかしい~!」みたいなリアクションをしていた。 「若いっていいなあ」みたいな苦笑いと共に。
で、個人舞踊では中村美津子だの橋幸夫だのを踊っていた。そんな歳ちゃうやん。
そうか、そうだよな、「現代の旅芝居は舞台レベルが……」などと言われることも多い。
でも、そうだよね、もう世代じゃないんだもんね。そうなってゆくし、きたし、ゆくのだものね。
こうして、時代や、芸や、内容が、変わってゆくのは、仕方ないんだよね。
仕方ないと言うのは言いたくないし違うけれど、良くも悪くも。良いことも悪いことも。
だってアポロ11号が月面着陸をしたのは1969。この曲がリリースされたのは1999。今2022。
あれから、17年ほど経って、今、私は〝古時計〟みたい。
そして旅芝居の世界には古時計たちがたくさんいる。劇場もまた古時計だ。
チクタクチクタク、ずっと、観て行こう、観て行かねばね、いや、強制はしない。
でも、私はみていきたいな、と思っている。
旅芝居を。
あ、旅芝居だけじゃなくて。
むしろ旅芝居はやっぱりたぶん(この頃から)そんなに好きじゃないんだけれど。
じゃ、なにを。〝人間〟を。
って、なんや、なんか格好良ぉキマらんなあ!(笑)
(劇団 座・KANSAI 2022.7・28@オーエス劇場)
■omake■
ふたりとも、かつてのお父さんにそっくりに見えた……とは正直な褒め言葉やけど、この劇団や彼らにとっては褒め言葉にならないのだろう、と、苦笑い。
他のomakeは、思いついたら貼るかもしれませんが、この話に関してはありすぎてないかもですね(笑)
◆◆◆
まだまだ暑いですね。いろいろ不安や心ざわざわな世の中ですが、どうぞ、皆、無理なく、気ぃつかいすぎとかもなく、らしく、たのしくあれますように!に!あー、言葉って軽くて浅くてもどかしい悔しいヤキモキ🙏
◆◆◆
大阪の物書き、中村桃子と申します。
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。
人間に興味が尽きません。人間を、書く、書きたい。
以下、各種SNSとプチ自己紹介など。遊びに来ていただいたり、ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。お仕事のご連絡や、それ以外のご連絡もお待ちしています。
ブログ「桃花舞台」
【Twitter】と【Instagram】と【読書感想用Instagram】
ブログのトップページに簡単な経歴やこれまでの仕事など書いております。パソコンからみていただくと右上に連絡用のメールフォーム✉も設置しました。
現在、関東の出版社・旅と思索社様のウェブマガジン「tabistory」様にて女2人の酒場巡りを連載中。最新話12回もアップされています。と、13回&14回も入稿したよー!!
と、あたらしい連載「Home」。皆の大事な場所についての文章、も、ぼちぼちと。こっちも更新せなあかんなー。
旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。あ、小道具の文とかも(笑)やってました。担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中(貴重映像ばかりです)。
仲良くしてくれたら、とても嬉しい。あなたとご縁がありますように。お読みいただき本当にうれしい。今後ともどうぞよろしくお願いします。
皆、無理せず、しんどならんよぉ、どうぞどうぞ、元気でね!