見出し画像

あの芝居小屋なお化け屋敷のこと

夏だけその芝居小屋はお化け屋敷になっていた。
かつては道頓堀五座と呼ばれた芝居小屋が立ち並んでいた地に
大々的に出来た昭和大正コンセプトのフライングショーありのフードテーマパーク、館内には飲食店などと共にひとつの芝居小屋があった。
いつもは寄席や演劇などちいさくも幅広い出しものを上演していたのだが、
夏の期間だけお化け屋敷となった。
 
ちいさいながらも本格的で毎年コンセプトも決められていた。
安珍清姫道成寺だったり人形心中だったり怨霊人形屋敷だったり、
始まったときは松竹との共同プロデュースだったからというのもある。
とは云えパーク自体の母体は某ゲーム会社だったので、
最後の方のコンセプトは呪怨(ホラー映画のあれ)だったけれど。
芝居小屋には毎年おどろおどろしい装飾が施され、
中は迷路みたいに道がつくられ、日本人形だの柳だのが飾られ、
突然音が鳴ったり、そして、出てくる。お化けが!
これは、小劇場役者とのコラボ。つまり、そういうこと。
 
わたしは、いや、わたしも、そこに駆り出されていた。
残念ながら演者ではない。やりたかったけれど。
それは別会社からの劇団員派遣。
受付として働いていた。
いつもは別の部署や階でバイトしていたのだけれど、
その期間だけのお手伝いだ。
館内で行われているショーの誘導スタッフもやっていたからというのもある。
お客さんグループの人数確認をし、
1グループに共に持ってもらうロープ(着物の腰ひも)を渡して説明をして、
中の準備(え? お化けさんらの準備)が出来たら、
「行ってらっしゃい」とお客さんを場内へと入れる。
 
平日などで集客がいまいちな場合は皆で呼び込みなどもしていたのだが、
面白いことに入口前まで来た人のほとんどがおそるおそる訊く言葉はこれだ。
 
「こわいですか??」
 
「こわくないですよ」「こわくないから入って下さい」がいいのだろう。
でもあまりに毎日毎日毎回何回この言葉ばかり言われるので、中盤くらいから私たちは否定するのをやめた。
 
「こわいですか??」「はい。こわいです(笑)」「めっちゃこわいですよ!(笑)」
 
他の業務よりも夏のこのバイトは結構好きで、
その後のお化けさんとの打ち上げとかも含めて当時の夏の思い出で、
結構年月が経っても毎夏のたびにふと思い出すのは、
なんかね、「これも、ひとつの「舞台」やな」と改めて思うからかもしれない。
 
入る前のソワソワ、
場内から聞こえる「きゃー」
何かあったとき用のモニターで覗くお客さんの反応や様子(笑ってごめん)
「怖かった!!」と言いながらもものすご楽しそうな顔。
伝わるわくわくと、そわそわと、きゃー、の、共有。
 
お化け役(あ、役言うてもうた)の友人は、
次々に押し寄せるカップルに「くっつきやがって腹立つわー(笑)」ばかり言っていて、
「ちょっと怖めに脅そ(笑)」とか色々パラドックスなことを言ったりやったりしていた。
「お化け屋敷は人間観察に持ってこいやんなー」
「可愛い怖がり方とか!」などとずっと話してた(笑)
 
大きな場所ではなく普段は畳敷きのちいさな寄席のような場所で、
夏だけそこを改造して、人がメイクしてお化けになって、
人がタイミング見計らって人形などを落として、
そんな芝居小屋なお化け屋敷はもうない。
毎年のお化け屋敷の台本と構成を担当していたこの芝居小屋の席亭は、
関西を中心に活躍していた劇作家で、
この人は同じ大学出身の大先輩でしかも私が所属していた劇団のライバル劇団の創始者だということもこわ、もとい、不思議だったのだけれど、
この人も若くはないけれど若くして亡くなってしまった。熱中症で倒れたと後に知った。
カメ止めの何年も前にあの構造と構成の芝居を書いていたひとだった。
パーク自体ももうなくなってしまい今は新しい商業施設が建っている。
 
「こわいですか??」「はい。こわいです(笑)」「めっちゃこわいですよ!(笑)」

あほやな! 夏!



夏、楽しんでね、暑さや体に気を付けながらね、の気持ちを込めて!


あの頃(遠い目。笑)


◆◆
【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
【Twitter】【Instagram】 など、各種フォローも、とてもうれしいです。

詳しいプロフィールや経歴やご挨拶は以下のBlogのトップページから。
ご連絡やお仕事の御依頼はこちらからもしくはDMでもお気軽にどうぞ。
めっちゃ、どうぞ。

Webマガジン「Stay Salty」Vol.33巻頭に自己紹介エッセイを寄稿しました。

12月Vol.34からは不定期コラムコーナー「DAYS」も書かせていただいています。

東京・湯島の本屋「出発点」では2箱古本屋もやっています。
営業日と時間は「出発点」のXをご参照ください。
ぜひぜひ遊びに来て下さい!  自己紹介の手書きペーパーもあり!

読書にまつわるエッセイ集(ZINE)、
tabistorybooks『本と旅する』もお店と通販で取り扱い中。

旅と思索社様のWebマガジン「tabistory」では2種類の連載をしています。
酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在21話)と
大事な場所の話「Home」(現在、番外編を入れて4話)。

noteは「ほぼ1日1エッセイ」、6つのマガジンにわけてまとめています。

旅芝居・大衆演劇関係では各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
YouTubeちゃんねるで過去映像が公開中です。
こちらのバックナンバーも、さきほどの「出発点」さんに置いていますよ。

あなたとご縁がありますように。今後ともどうぞよろしくお願いします。


この記事が参加している募集

楽しんでいただけましたら、お気持ちサポート(お気持ちチップ)、大変嬉しいです。 更なる原稿やお仕事の御依頼や、各種メッセージなども、ぜひぜひぜひ受付中です。 いつも読んで下さりありがとうございます。一人の物書きとして、日々思考し、綴ります。