「ジブリと禅の生き方問答」イベントに参加し、"世の中が不安定な時こそ新しい価値観が生まれる"と希望が持てた
スタジオジブリ代表取締役プロデューサー鈴木敏夫氏と龍雲寺住職細川晋輔師の対談
「ジブリと禅の生き方問答」というイベントに参加させていただきました。
今の時代に元気をいただけるお言葉が沢山詰まったお二人のお話に感動して、皆様にもその叡智をシェアできたらと思いブログに書いてみました。
リモートワークで感じた西洋と東洋の違い
鈴木さん
「リモートワークに切り替えた時に、ジブリ社内の生産性あがった。サボってもいいのに、日本人ってすごいと感じました。
過去に、健康診断を受けるよう外国人の社員に言ったら、プライベートなことなのにどうして会社に指示されるのだ?という反感を受けたことがありました。
コロナで欧米でマスクをつけない主義の人がいるということもあったように、
西洋は個人主義・東洋は共同体なのだと感じた出来事でした。」
"常識の範囲でご自由に"とジブリ映画の壁紙を配布した意図は?
鈴木さん
「まず、著作権の使い方をみんな間違っているんです。皆に見てもらわないと作品は生き残りません。
多くの人にジブリはそのまま愛してもらいたいから、今回広く一般に作品の画像を提供しました。」
鈴木さん
「日本で一番売れた小説家が夏目漱石なのは、著作権についてうるさく言わなかったからなのは知っていますか?
せっかく作った映画だから長く色んな人に見てもらいたいというのが今回壁紙を配った理由です。」
ご住職
「"常識の範囲でお使いください"というのは鈴木さんが書かれたんですよね?常識の範囲でというのが、やや禅問答のようです(笑)」
鈴木さん
「無料配布を手配していたスタッフが、すごい量の紙を持ってきて、そこに壁紙の利用に関する条件が書いてあったんです。
僕はこんなに条件を書いたら誰も使えないじゃん!と言って(笑)
それで"常識の範囲で"と画像配布することにしました。」
ご住職
「私は教えている学校がオンライン授業に変わり、今まで見せられていた雪舟が描いた達磨の絵なんかも、オンラインだと著作権が…となって見せられなくなりました」
鈴木さん
「雪舟は亡くなってから年月経っているから著作権はないですよ。
所有権も写真で撮影してしまえば、違うモノになるから無効だし、更には引用として説明するのに必要という必然性があるから使っていいと理解していいんじゃないでしょうか。」
ジブリ全盛期に子供だった、平成初期生まれの私のSNSには、
この「常識の範囲でご自由にお使い下さい」という手書きの優しい文字がSNSに何度かシェアされてきて、目にする度にその懐の深さに触れる度に、温かい気持ちを抱きました。
私がジブリやっぱり好きだなぁと感じて、その後映画館にもののけ姫を見に行ったように、この壁紙配布で色んな人がジブリに改めて好感を持ったはずです。
著作権にゆとりをもたせる余白は、ジブリが愛される一因なのかもしれません。
余談ですが、西野亮廣さんが「著作権は主張しない方が良い場面もある」という似た意見をちょうど数日前におっしゃってました。
生と死
ご住職
「コロナで死をつきつけられたと思っています。死がリアルになってきた感じがするのですがいかがでしょうか?」
鈴木さん
「本来身内が亡くなる時に人の死は自宅で、家族で看取っていましたよね。今は死をみとるのが病院になってしまいました。
家で看取れば子供ももう少し死を実感できます。
死を実感できれば生きる事に一生懸命になれる、というのが僕の実感ですね。」
コロナから社会が平時に戻るには5年かかると見込もう
ご住職
「数か月後も延期、彼岸もお盆も延期…と、手前から攻めていくと、まだダメか、と残念な気持ちになります。
平時に戻るのに3年かかると思っておいて、一日でも短ければ儲けものと、鈴木さんがラジオで言っていましたがどうお考えですか?」
鈴木さん
「映画や美術館の経営をするうえで、最悪を想定しています。
スペイン風邪を参照すると3年経たないと平時に戻らないと思ってそう言ったんですが、
今みんなジタバタしているので更に延びて5年はかかりそうな気がしています。」
◆そんな中、次の宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか?』について
鈴木さん
「『君たちはどう生きるか?』をやろうと言ったのは6年前で、当時関係者は「いいですね!」という反応の人ばかりではなく、どちらかというと戸惑った顔をしていました(笑)
コロナ状況下になり、当時やや反対だった人から「いや~良いタイトルですね」と言われて、何か変化を感じたというのがあります。」
これまで以上にどう生きるかという価値観を問い直す機会が増えましたよね。
世の中が不安定な時には新しい考えが生まれる
鈴木さん
「世の中が不安定な時には新しい考えがあがってきます。
今回のコロナの社会変化は、1970年前後の学生運動の頃に似ています。
当時、日本中大騒ぎになって、アメリカでもベトナム戦争があって、世の中の価値観が変わりました。
僕が大学入学した年から学生運動が起き、それは数か月や1年の問題ではなかったんです。
当時、学生がやっていたのは、"新しい価値観の模索"だったと思います。
僕も渦中にいながら、「ここで価値観が変わる」と身をもって体感していました。
今のこのコロナが二度目の似たような変化だと感じます。
自分は団塊の世代だが、世の中が不安定な時は新しい考え方が生まれる
と楽天的。今回も見てみたいです。」
余談ですが、ニュートンが万有引力を発見したのは、ペストのロックダウンの時期だったと言われてます。
そういうイノベーションがこのコロナでも生まれるかもしれないと思うと楽しみですね。
オンラインの可能性
ご住職
「円覚寺の横田南嶺老師がYoutubeを始めて懐の深さを感じています。
臨済宗青年の会も全国の僧侶で輪番して、400回開催で2万人以上が参加したようです。オンラインの可能性を鈴木さんはどう思っていますか?」
鈴木さん
「整理すると、コロナ前まで世界の人々は移動する時代でした。
でもコロナ初期にはグローバリズムは嘘だった、世界の人は繋がったと思っていたけどまやかしだったと言う人が多かったんです。
ですが、今ここにきて、ZOOMで繋がれたりして、オンラインで世界が繋がったと再度言っています。
どうなのでしょう?」
鈴木さんが結論をハッキリとおっしゃる前に別の話題に移ってしまったのですが、口調としては、オンラインで再度繋がったという感触に対して疑問を持たれている印象を受けました。
若い人が言葉を求めている
ご住職
「ジブリ作品は、どこを切り取ってもメッセージに溢れていますよね」
鈴木さん
「ジブリ作品は社会でみなさんが感じているストレスを少し解放できるものであればと思っています。
日本の絵画は絵言葉といって絵の中に文章を入れる絵の描き方が古くからあります。海外にはこれはないんです。
日本人は言葉が好きなんでしょう。」
ご住職
「著書『禅の言葉とジブリ』にも書いたのですが、もののけ姫が面白いんです。
アシタカがモロに「娘を幸せにできるのか?」と聴かれて「わからない。ただ共に生きることはできる」というところが一番好きです。」
鈴木さん
「わからない、というのが本心ですよね。
宮崎駿監督は79歳の今までずっとアニメーション映画を作ってきた人。
それだけの年月やりながら、
「おれ監督に向いてないよね。俺はやっぱりアニメーターじゃないかと思う。誰もいないからやるのであって、やっぱり監督は向いてない」と言うような人なんです。
彼は個室にこもるタイプの監督じゃないんです。
チームメンバーと同じフロアにいて、自分も含めて全スタッフがOne of themという姿勢。
そういう意味で、「共に生きる事ができる」という言葉は実に宮崎監督らしいですね。」
人間が生きるのに宗教は必要
鈴木さん
「6~7年前に作った映画『かぐや姫』の主題歌を歌った二階堂和美さんは、アーティストでありながら寺の住職でもあります。
高畑勲監督が亡くなった時に、
「人間ってのは宗教必要なんですね。」とぽつりと僕が言ったら
「鈴木さん、(息を溜めて)そうです」と言ったのが印象に残っています。」
ご住職
「臨済宗にもオンラインで色々試している僧侶がいます。オンライン化でどうなるでしょう?青年僧侶にメッセージをください」
鈴木さん
「お坊さんは、精進と修行を積んでいただくのが良いんじゃないでしょうか。色んなものに煩わされないで。
気が散ってどうでもいいことを一生懸命やっていると本筋を忘れることもあります。
その意味ではなぜ宗教が必要なのか?を自問するのもお坊さんがやっていく意味があることかもしれません。」
「我思う故に我あり」ではなく、「我あり故に我思う」
鈴木さん
「「我思う故に我あり」というデカルトの言葉がありますが、これは危険な思想だと思っています。
本来、先に自分がいるわけだから。
相対的にものを見るのではなく絶対的に見ると、「我あり、故に我思う」が正しいと思います。」
ご住職
「禅ではよく「我思う故に、我無し」なんて言いますけどね。無我という意味で。」
禅の魅力は?
鈴木さん
「気持ちが静かになるのがいいですね。
今日、天文台に寄ってきました。森がこんもりしていて、歩くだけで気持ちが静かになります。
円覚寺の坐禅に大学時代通っていたのも、平静でいたかったり、心を静かにしたかったからです。学生運動全盛期で嫌なこともあったので。」
宮崎駿監督は42年間おかずが同じ愛妻弁当
鈴木さん
「宮崎駿監督は五感が優れています。特に味覚。
42年間ずっと昼も夜も愛妻弁当を食べているんです。
土方弁当でおかずは42年間変わらない(笑)
お箸で真っ二つに分け、右が昼、左が夜。
食べる時間は5分。毎日同じもの食べています。
その上で、一年に1回か2回美味しいもの食べるんです。
毎日美味しいもの食べてたら何も美味しいと感じなくなるけれど、
毎日はどうでもいいもの食べていた方がいざっていうときにおいしさを感じることができるということです。」
ごちそうばかり食べていると、味覚が鈍る感覚って誰にでも経験があると思います。
反対に海外でパンとジャガイモに飽きた時に、何の変哲もない日本米とお味噌汁とたくあん漬けが食べられた時の幸せ感。
おいしさって、相対的なものなんでしょうね。
あの大きな仕事を成し遂げる宮崎駿監督が、42年間地味なお弁当を食べているとはおもしろいお話しでした。
五感を磨くこと、我々も日常の中で意識したいですね。
まとめ
●作品は皆に愛されて広まることに価値がある
●死を実感すると生きる事に一生懸命になれる
●今は"新しい価値観の模索"の時期。世の中が不安定な時は新しい考え方が生まれるので、楽天的に楽しもう
●日本の古くからの絵言葉に分かるように、日本人は言葉が好き
●日々の食事を質素にすると、おいしいものを食べた時に本当においしく感じられる
心が震えて成長するような気持ちを味わわせてくれたジブリ作品に、禅の精神も宿っていると思って見返すととても面白いですね。
五感が豊かなことは、禅の教えでもある"あるがままに受け取る"ということと繋がっている気がします。
一生懸命聞き取る"Listen"リスニングではなく、なんとなく聞こえてくる"hear"ヒアリングという差のような、そういう降りかかってきたものを受け取るような器を持って五感の刺激を受け取ることが、感じる力を育むことになるかもしれません。
個人的には、宮崎駿監督がシンプルなお弁当ばかり食べるということも聞けて、私がご提案しているZenEatingに通じる面もあり嬉しかったです。
■Who am I? このブログを書いた人のプロフィール
Zen Eating 主催 にしむらももえ
星野リゾートウェルネス担当、インドへの2年間の移住、Cookpadを経て、現在は食を通して心を調えるZen Eatingを主催。
オンラインで開催するZen Eating(食べる瞑想)のワークショップでは、4か月で30か国500名の心を食事を通して調えることに貢献。
同プログラムはGoogle米国本社やアクセンチュアなど大手企業の研修や、国際カンファレンスのアクティビティにも採用されている。
山を所持して野生の山菜やきのこを採って暮らす祖父母から、自然と循環する生活を学び、
インドでは自分と他人の境界線は曖昧だということを学んだ。
中央大学総合政策学部卒。比較宗教思想専攻。精神探究が趣味。
ZenEatingって何?
Zen Eatingのワークは、瞑想のような食事時間を過ごした後に対話をする、約1時間の体験。
食べながら瞑想を体験いただけるこのワークで、禅的な丁寧な時間を過ごしていただけます。
日頃は無意識に行いがちな「食べる行為」を丁寧に行うことで、「身体の感覚を研ぎ澄ませることができた」と参加者のほとんどが感じるようです。
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