【ジェイン・オースティンが好き】ファニー・ナイトの小旅行 / ワイト島。
ジョージ王朝時代に小説家として活躍したジェーン・オースティン。「分別と多感」「高慢と偏見」「マンスフィールドパーク」「エマ」「ノーサンガーアビー」「説得」の6作品が出版されました。当時、皇太子だったジョージ4世が熱狂的なファンだったことも有名。その後も名作として読み継がれ、1900年代後半からは映画化、ドラマ化もされて現在でも人気があります。
彼女の家庭は、アッパー・ミドルクラスと呼ばれる階級で、父親は牧師。兄6人、姉1人、弟1人の兄弟と姉がいました。教育熱心な家庭で、男の子達は高等教育を受けた後、兄達は、牧師、資産家、銀行家、海軍元帥になり、弟は海軍に入りました。オースティン一家は、兄弟姉妹の仲が良くて各々が結婚後も家族ぐるみで交流を深めました。ジェインと姉のカサンドラは、生涯独身で子供はいませんでしたが、甥や姪を世話することが多く、子供達から慕われていました。
ジェインの兄、3男のエドワードは、親戚のナイト家の養子となり莫大な資産を相続。その娘で長女のファニー・ナイトは、ジェインのお気に入りの姪で、ジェインの書簡にたびたび登場します。
今回は、ファニー・ナイトが書き残した旅行記のお話です。
この時代の旅行は、馬車か船に乗って移動します。ジェインも含めて、オースティン家の人々は、家族や親戚を訪ねるため、またはホリデーに南イングランドのかなりの広範囲を旅しています。今回の旅行記は、ファニーが父と共にワイト島へ旅した時の記録です。
私がワイト島を旅した時の記録と合わせてご紹介します。観光案内にもなる内容なので、ぜひご覧ください。
チョートン村からワイト島へ行く
【ファニーの旅行記 1日目】6月7日
朝の8時に馬車に乗って出発。
チョートンから近くのピータースフィールドで朝食。
ポーツマスのドックヤードで観光して食事。渡り船(Wherry)に乗り、夜にワイト島へ出発。ライドで宿泊した。
ヘンリーとファニーは、
Curricle(カリクル/2頭立ての二輪馬車)
エドワードとルイーザは、
Gig(ギグ/1頭立ての二輪馬車)
という乗り物で移動しました。
彼らが朝食をとったピータースフィールドは、チョートン村から12マイル(20キロ弱)離れた小さな町。ここから更に、馬車で海岸線のポーツマスまで移動しました。今なら2車線の国道を車で30分ぐらいの距離ですが、田舎道を馬車で移動したとすると、かなりの時間がかかったことでしょう。そして夜になる頃、ポーツマスにある港から船に乗ってワイト島に向かいました。今のようにフェリーに車をのせていくことはできないので、乗ってきた馬車はポーツマスに置いていきました。
乗った船は、Wherry(ウェリー)と呼ばれるイングランドで使われていた渡り船で、貨物や乗客を運ぶためのボートの一種。エドワードはかなり裕福だったので、大き目のボートに乗ったと思われますが、それでも夕刻にボートに乗って、対岸のライドで宿泊。というのは、今とはかなり違う旅の様子です。現在は、ポーツマスからワイト島のライドまで、ジェットボートで20分、カーフェリーなら1時間強で渡ることができます。
このような日程で、旅の初日は、エドワードの屋敷チョートンハウスからポーツマスまで馬車で移動し、ボートに乗り換えてワイト島に向かいました。
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ワイト島の名所を観光する
【ファニーの旅行記 二日目】6月8日
馬車を借りて、ワイト島の南東部を観光。
プライオリー・ベイ、シャンクリン・チャインの素晴らしいこと!
美しい、ボンチャーチの村!
ヴェントナーの宿で朝食を食べた。ここで、エドワード(たぶんファニーの弟)も加わり、ナイトンの近くにあるサンド・ロック・スプリングのホテルに宿泊した。
旅の二日目は、ワイト島の南東部の観光。
現在でも観光名所とされる場所ばかりです。
この日の移動は、
Sociable(ソーシャブル/4輪の荷台がある馬車。囲いがついていないオープンタイプ)で、4人だったら、二人ずつ向かい合わせて座って移動できます。
プライオリー・ベイは、ライドから東部を南下するときに通過する海岸線。船で到着してから馬車に乗り換え、海岸線を南下。そして、シャンクリンに到着。この村は、現在も人気の観光名所。坂になっている村の通りには、藁ぶき屋根のコテージが並んでいます。彼らが向かったのは、海岸線沿いにあるシャンクリン・チャインです。
自然豊かな渓谷シャンクリン・チャインを歩く。
チャインとは、サクソン語から由来する地方の言葉で、南イングランドの一部にある狭くて深い渓谷を意味します。有名なチャインは、ワイト島、東デボン、ドーセット、ハンプシャー州にあります。これらの渓谷では、古くから漁業や海賊たちが密輸をするときに利用していたことでも知られ、ワイト島には20のチャインがあると言われます。
渓谷の中を歩き、美しい滝を楽しんでいたのは一部の人たちだけでしたが、彼らが訪れた少し後、1817年以降に人気のアトラクションとなりヴィクトリア時代には多くの観光客が訪れました。
外からは全く見えないので、どんな風になっているのか?かなり謎なアトラクションですが、ここでしか見られない自然の景観を楽しむことができます。歩いて10分ぐらいで通り抜けられるので、気軽に行けます。シャンクリン観光の際にはお勧めです!
ティールームでお茶を
話は現代に戻ります。シャンクリンにはいくつか素敵なティールームがありますが、その中のひとつがペンシルコテージ(Pencil Cottage)です。藁ぶき屋根のコテージが並ぶ坂の一番下にある小さなコテージ。
海岸線の方からの道だと、シャンクリン・チャインを通り抜けた所にあります。手作りのスコーンとクロテッドクリーム、ジャムのセット「クリームティー」がおすすめ。
もうひとつ、思い出のティールーム。
20年以上も前にワイト島へ旅した時に立ち寄った「Old Thach Tea Shop」
数年前にシャンクリンへ行ったときに、ここにも行こうと思ったのですが、その時は閉店?しているような雰囲気だったので残念に思っていたのですが、今回この記事を書くにあたり調べたところ営業しているようです!こちらのティールームは、古き良きイングランドの藁ぶき屋根が残る店内でスコーンを楽しめます。
再び2003年に行ったときは、ランチを食べましたが、おいしかったです。最近、訪れた方がいらしたら、是非どんなメニューだったか教えてください!
ボンチャーチの美しい海岸
では、ここからはファニー・ナイトの旅行記に戻りましょう。
ボンチャーチは、シャンクリンからさらに南下した海岸線にある小さな村。険しい坂の中腹にあり、そこを歩いて海岸線に出るとそれはそれは美しい風景が広がります。芸術家たちも愛した場所で、ヴィクトリア時代にはチャールズ・ディケンズも滞在して物語を執筆しました。
ファニーが、この場所を美しい(beautiful!)
と、書き残した理由は、よくわかる。
谷の中にある村の景色は独特。小道を抜けると、一気に広がる海岸線。とにかく、村全体が美しい。ケントやハンプシャー州の比較的平たい丘陵地が広がる場所で暮らしていたファニーには、驚きの景観だったでしょう。
サンドロック・スプリングのホテル
二日目に宿泊したのは、ナイトンという村の近くにあった宿でした。
ナイトンは、ワイト島の最南端に位置する村。古くより島の南側を馬で旅するときには、停泊所として重要な場所で、旅する人々に飲料を提供したり馬を休ませるための厩舎がありました。宿場としても利用されました。
1700年代の終わりごろ この地にRock Cottageというホテルが建設されました。
1808年 ニューポートの外科医トーマス・ウォーターワースが鉱泉(チャリピートの泉)を発見し、ホテル改築のきっかけとなる。コテージは訪問客のための診療所となり、鉱泉の上に建てられた。万能薬として多くの病気の治療法として利用され人気となる。
ホテルの名前は、
Sand Rock Spring Hotel
Sandrock Hotel
Royal Sandrock Hotel
Royal Sandrock Inn
と、名前を変えながら受け継がれたが、1979年に地滑りのため建物は消失。
ファニー・ナイトの記録より、彼女たちがこの宿を利用した時には、
「 Sand Rock Spring」
と呼ばれていたことがわかる。この地に鉱泉が発見された後なので、父エドワードもこの泉で体を癒したことでしょう。
王族も訪れた避暑地
さらに、ここにはヴィクトリア女王が少女時代に母と訪れたことで知られています。ヴィクトリア女王は、若かりし頃にワイト島でホリデーを過ごしていた記憶からこの地を気に入り、結婚後はアルバート公と別邸オズボーンハウスを購入しました。少女時代のヴィクトリアは、イーストカウズにあったお城に滞在しており、南部にあるシャンクリンやナイトン村にも足を運んでいたのでしょう。ヴィクトリアが1832年以降に書き始めたジャーナルにも、この地の記録が登場します。
ヴィクトリアは、「Sandrock Hotel」という小さな愛らしい宿に訪れた。と書き記しており、彼女の訪問の後に、この宿にロイヤルという名前が加えられたと想像できます。
ヴィクトリア時代のナイトンは、近くにあるヴェントナーと同様にリゾート地として人気の場所でした。現在のナイトンには、宿場町の名残りはなく観光名所としては知られていないが、閑静な高級住宅地というイメージです。
参照:
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島の中心部から南西部へ
【ファニーの旅行記 3日目】6月9日
ワイト島最南端にあるナイトンから中心部のニューポートへ馬車で移動。
食事をしてから、西海岸にあるフレッシュウォーターへ。ボートに乗ってニードルズを観光してから、そのまま北上してヤーマスまで行き、宿泊した。
この日も、ワイト島の観光名所を巡っています。
島の中心に位置するニューポートで食事。現在、島の重要な施設はここに集まっている。観光名所としては、イングリッシュ・ヘリテージが管理する「カリスブルック城」が近い。
ワイト島の内陸部は、このような丘陵地が広がっています。
ワイト島最西端のニードルズへ
フレッシュウォーターから船に乗り換えて最西端にある石灰岩でできた絶壁ニードルズを観光。
ここは、陸からみても素晴らしい景色だが、水上からその姿を見ると、また違う風景が楽しめる。ファニー達が、船に乗ってまでこの景観を楽しんだというところからも、オースティン家は好奇心にあふれる活動的な人々だったのかなと思いました。
ここから船で半島の西側を北上してヤーマスまで移動して宿泊した。
ワイト島での観光は、ここで終了。
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ワイト島から本島へ
【ファニーの旅行記 4日目】6月10日
ワイト島から船でリミングトンへ渡り、馬車でニューフォレストからリンドハースト、サウサンプトンへ移動した。そこで、旅した人達全員で食事した。私はネットリーアビーを見に行った。アナには明日には帰ると手紙で知らせた。親愛なる弟のエドワードは、馬車でオックスフォードへ向かった。
ワイト島のヤーマスからは、船に乗って対岸のリミングトンまで移動。
現在は、ヤーマスからリミングトンまでカーフェリーで40分で渡ることができます。
ニューフォレストを通過する。
そして、ヤーマスからワイト島の向かい側にあるリミングトンへ渡り、美しい森が広がるニューフォレストを抜けて、サウサンプトンまで移動した。
サウサンプトンの近くにあるネットリーアビーは、11世紀に建てられた修道院で、ファニーが訪れた時にはすでに廃墟化していました。別の時に、ジェインとも一緒に行ったことがあるようです。中世の修道院跡は、ゴシック小説を執筆していたジェインにとって、興味深い場所だったに違いありません。
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【ファニーの旅行記 5日目】6月11日
馬車でドロックスフォードまで行き朝食。その後、帰宅。
最終日は、馬車でハンプシャー州を旅しながら帰宅しました。
ドロックスフォードは、サウサンプトンからチョートンへの帰り道にあるハンプシャー州にある田舎の村。
オースティン家の旅とジェインの作品
この旅行記を含め、オースティン家の人々の手紙や記録を読んで驚くのは、かなり広範囲な地域を旅していること。このワイト島への旅行では、5日間で124マイル(200km)を移動。チョートンからポーツマスが、31マイル。ワイト島内では、42マイル。帰り道のリミングトンからチョートンまでが、51マイルとかなりの長距離を旅しています。大富豪のエドワードだったら、何日でも滞在して、のんびりとした旅ができたと思うのですが、当時は「ゆっくりと旅する」という概念がなかったのでしょうか?
ジェイン自身は、ワイト島へ行ったことがなかったのに「マンスフィードパーク」(1811~1813年に執筆)の中でワイト島について触れたのは、もしかしたら仲の良い姪から聞いたこの旅の話からインスピレーションを得たのかもしれません。ちなみに、マンスフィールドパークを執筆中だったジェインは、1813年の7月と9月に海軍の大佐である兄フランクへの手紙の中で、「(フランクが)乗っている船かそれまで乗った船の名前を物語の中で使ってもいいか?」と、尋ねています。
【まとめ】
ファニー・ナイトの父エドワードは、ジェインの作品「高慢と偏見」に出てくるミスター・ダーシーよりも年収が高かったことからも、イングランド国内でも有数の大富豪だったと言えるでしょう。
彼らはどんな旅をしたのか?
1800年代初頭、車も電車もない時代に、現代と同じような日程でワイト島を旅しています。短い滞在なのに見どころをしっかりと押さえて旅していたことに驚きます。ポケットブックと呼ばれる日記の彼女の記録から、若かりしファニーがワイト島の美しさを満喫した様子が伝わってきます。
ワイト島には、離島独自の風景が広がり、放牧的な雰囲気が漂う。彼らが旅してから200年以上たった今でも、初夏から夏の観光地としてシャンクリン、ボンチャーチ、ニードルズは、イギリス人にも人気のスポット。自然豊かな、古き良き風景が残されています。今度、ワイト島に行くときには、ファニーはどんな風にこの風景を感じていたのだろう?と、思いをはせながら、旅してみたいと思う。
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ワイト島シャンクリン、ニューポートのティールームめぐり。サウサンプトン、ネットリー・アビーについて。