亡くなった人に夢で逢うこと
亡くなった祖父が夢に出てきたあの日から、専ら眠れない日々が続いている。
祖父の居た時間は思い出になって久しく、彼を象徴した細かな仕草も記憶から消えつつあった。彼の輪郭を緩やかに、着実に失う私の頭。だが、不思議なことに数日前の私の頭はしっかり祖父を夢で捉えた。確かに居たのだ。タバコの匂いを燻らせながら。
あの日の夢の中でただ静かに佇む祖父は、歯を見せずに微笑んでいた。茶けた肌に薄緑の血管が大きく浮き出た手は冷たそうだった。少しふっくらした祖父の頬。首は少し前に落ちていて、それが一層寂しそうな雰囲気を纏っている。
懐かしい葉タバコの香りがした瞬間、私は少女へと変わった。仕事も、洗濯槽に残る洗濯物も、再来月の同僚の結婚式も、今住んでいる場所も、明日さえすべて忘れた。
考えるより先に重心は前に傾き、つま先で走った。目にかかる髪は柔らかく、子どもらしい髪質をしていた。目線は上に、祖父を見上げて近寄る。「じいちゃん、もっちゃんて呼んで。」心が叫ぶのに声が出なかった。意気地がなく、涙だけが出てくる。
結局、手も声も届かず目が冷めた。急いで頬に触れて、涙が出ていないことに安堵したが、時計の針が深夜の3時を回っていることを確認した後、静かに涙が溢れ出した。枯れるのを待って、しばらくして寝た。
ゆっくりと忘れ、傷も癒えつつあると認識していたので、かの夢はかなり衝撃的だった。私の頭が作り出した彼は、まるで生きていたのだから。
忘れていたはずの些細な仕草や香りを、他の誰でもなく忘れているはずの私自身が教えてきた。
一時の夢が引き金となって、記憶がパチ、パチと意思に反して流れ出す。
嫌だ。痛い。と拒絶するも、ここ数日眠る前は呪いのように流れ続けるのだ。
忘れていたのではなくて、無意識に忘れようとしていたのかもしれない。
痛む心を抑えながら、今日も忘れるのを待つ。失ってしまったことを受け入れ、失ったこととして割り切るのは思ったより難しい。もしかしたらずっと、忘れたふりをするだけなのかもしれないと、薄ら気がついているが、今日も見て見ぬふりをする。