美郷
面積ばかりがだた広く
特筆するべき点のない
わたしのふるさと
どちらかと言えば貧しくて
疑いようのない程 学力は低く
例に倣って高齢化の一途をたどる中
なぜか初婚年齢だけがいつまでも若い
そんなわたしの
大嫌いなふるさと
(もしかすると“私たちの“かもしれない)
数年前の大地震で
大嫌いなふるさとは大きく揺れて
町の ほとんどが消えてしまった
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消えてしまった
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あの道に転がっていた思い出
ばあちゃんの味
飼ってた和牛のたい肥の臭い
橋の下の秘密基地
川面のきらめき
光さす一面の田畑
好きだったあの人
消えた
消えた
ほとんど、全部
消えちゃった
ふるさとがほぼなくなって
帰る家も失って
わたしのふるさとは
いよいよ潰えた
どこに行ってもいいのだけれど
どこに行っても居場所はない
結婚とともに
姓も消えた
わたしに残ったのは
名前だけ
お父さんがつけてくれた
「美郷」という
名前だけ
いつか
お母さんになった時に
子供にとってあなたが
美しい故郷であるように
と
お父さんがつけてくれた
この名前だけ
「美郷」
美しい故郷
帰るべき場所。