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【語源】日本釈名 (14) 人品(父母・妻・継母・兄弟姉妹など)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本釈名 3巻 [2]

人は、萬物のレイにて、人にならぶ物なし。天下にたゞ一の物なる故「ヒトツ」と云意。又、天にある物、日より高きはなく、地にある物、人よりたかきはなし。「日の友」なり。故に「ひと」ゝ云。「も」を略す。但、上古の自語ならば、しゐてみだりにときがたし。

「たみ」は「たうとみ」也。いふ意は「民は万物のレイ」也。万物の内、人を尤たうとむべし、いやしむべからず、中の二字を略せり。「民」の字を古書に「おほんたから」とよみしも此意なり。「たみ」と「人」とは同物也。天地に對しては「人」と云。国土のもろ/\をさして「はたみ」と云。一説に「たみ」とは「田の實をくらふもの」也といへり。前説にしかず。もし上古の自語ならばみだりにとくともあやまりなるべし。

※ 「尤たうとむべし」は、もっともとうとむべし。
※ 「對して」は、対して。

ヲヤ

ヲヒてやしなふ」意か。但、上古の自語なるか。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本釈名 3巻 [2]

父母

上古の自語なるべし。今の小児の「父母」を「とゝかゝ」と云が如し。又、いにしへ「かぞいろ」はと云ふ。父を「かぞ」と云ふ。母を「いろは」と云ふ。𦾔説に、父は第一の人にて、かずの初なり。「かぞ」は「かず」也。母は我形 色の出るはじめ也。故に「いろは」と云。今案に、此説 タクミに過たるやうにきこゆ。「かぞいろは」とは、上古の自語なるべし。凡、上古の自語をみだりに義理をつけてとくべからず。必あやまりあるべし。

※ 「𦾔説」は、旧説。

祖父ヲホヂ

大父オホヂゝ」也。祖母ウバ大母オホハゝ」也。「お」と「う」と通ず。

曽祖父ヒオホチ

おほぢのおやなれば、「ひたをほぢ」と云意。曽祖母ヒウバ同。

ツマ

『万葉仙覚抄』に「つ」は「つゞく」也。「ま」は「まとはる」也。『詞林采葉抄』曰、「つ」は「つゞく」、「ま」は「まとはる」也。夫婦枕をならべてまとはりぬると云詞なり。

篤信曰、右両説いぶかし。只、むつましの上下を略せりと見て可なるべし。或、上古の自語なるべし。

※ 「万葉仙覚抄」は、『万葉集註釈(仙覚抄)』のこと。参考:『萬葉集註釋 20巻【全号まとめ】』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※ 「詞林采葉抄」は、南北朝時代に編纂された『万葉集』の注釈書。参考:『詞林采葉抄』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
※ 「篤信」は、『日本釈名』の著者、貝原かいばら益軒えきけんの名。

自語なるべし。或、おやの大なるに對して「こまやか」といへる意か。

息男ムスコ

「むつこ」也。「むつましき子」也。又、「むす」は「生」也。「うめる子」也。苔のむすも生の意也。中華に子を息と云がごとし。「息」は「生」也。息女「むつましきめ」也。一説「むす」は「生」なり。うめる女也。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本釈名 3巻 [2]

「また子」也。子の子なる故に名づく。孫は、子の孫なれば「ひたまご」なり。「ひた」は「つゞきたる」意。玄孫ヤシマコは、曽孫の子也。「や」は「いや」也。「いよ/\」なり。「いやまご」也。「し」はやすめ字也。一説「やし」は「いやし」也。

伯父オヂ叔父

小父ヲヂゝ」也。父の兄を「伯父」と云。父の弟を「叔父」と云。

伯母オバ叔母

小母ヲバゝ」也。父のあねを「伯母」と云。父の妹を「叔母」と云。

継母マゝハゝ

上の「ま」は「又」也。下の「ま」は「まうくる」也。「又まうくる母」也。

アニ コノカミ

「あに」は「かみ」也。「かみ」と「あに」とよこの音相通ず。この「かみ」は「子のカミ」也。又、兄を「せをと」ゝ云は「兄男セオト」也。「」は自語也。

オト/\

「おと」は「あと」也。「あ」と「お」と通ず。「おと/\」とは、「あとをとこ」也。あとよりむまれたるおとこなり。一昨日を「おとつひ」と云も「あとつひ」也。一説に「おとる男」也。弟は兄より年おとれり。

※ 「あとよりむまれたるおとこ」は、あとより生まれたる男。

|弟兄《オトゞヰ

「おとゞ」は「おとゝえ」也。「い」と「え」と通ず。「え」は「兄」也。「弟兄ヲトゝヱ」也。

アネ

「あに」也。「に」と「ね」と通ず。女兄なり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本釈名 3巻 [2]

イモウト

「いろと」也。弟を「いろと」ゝ云。「ろ」と「も」と通ず。「いもうと」の「う」は引音なり。一説「いも」は「女」也。「おと」は「弟」也。此説ならば「いもおと」也。「いもうと」にあらず。

姪男オヒ

兄弟の子は、ナヲ子のごとし。されども人情ニンジヤウよりいへば、少親疎シンソ有。ワガ子をばまへにいだき、兄弟の子をうしろにおふ。故に「おひ」と云。一説「オヒ」也。兄弟よりおひ出る也。もろこしにて兄弟の子をシユツと云が如し。又曰、兄弟の子はわが子の如く思ふ。故「おもひ」と云意也。

※ 親疎シンソは、親しいことと疎遠なこと。
※「もろこし」は、唐土もろこし

姪女メイ

「めおい」也。中略也。

ヨメ

「よめ」は「よはめ」也。「よ」は「わかくしてちからよはき」意。「たをやめ」の意なり。

※「たをやめ」は、手弱女たおやめ

従兄弟イトコ

「いづこ」也。父の兄弟よりいづる子也。一説、他人の子よりいとおしき子なり。

シウト

「したしうど」也。中略なり。

ムコ

むつまじき事、子の如し。「つまし」を略す。からの意に、むこを半子といへるが如し。

※ 「から」は、から
※ 「半子」は、女壻のこと。はんし。

キミ

「かみ」なり。「か」と「き」と通ず。人のかみに在人也。一説、陰陽のクンを「ぎみ」と云。人君は天道にしたがひて陰陽と調理テウリするをシヨクとす。されど前説のやすきにしかず。



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