【語源】日本釈名 (7) 宮室(社・千木・鰹木・鳥居・玉垣・叢祠など)
社
「屋代」なり。上古の時、かりそめなる神ノ祠はたゝ人家のかたばかりにつくりし故に「屋代」と名付しにや。神殿の大になりしは、其後の事なるべし。一説、うや/\し也。「ろ」は助字也。神社はうやまふべき處なり。
千木
「ちぎ」は「ちがひ木」なり。神殿の上なる打ちがへたる木也。かたそぎにする。伊勢内宮は内をそぎ、外宮は外をそぐ。是、陰陽の意なるべし。大社は、長一丈三尺、中社は一丈、小社は八尺、数は皆四支也。
※ 「かたそぎ」は、片削ぎ。千木の先を斜めにそぎ落としたもの。
鰹木
鰹をあめるごとくならべる故にいふ。大社は八丸・長さ五尺・わたり九寸、中社・六丸・長さ四尺わたり五寸、小社は四丸・長さ四尺・わたり七寸なり。或、加棟木とかく説あり。用べからず。凡、和語は、もと皆わが国のことば也。音を用るは後代の事なれば、上代より称せし名と詞とは訓を用てとくべし。
鳥居
神門なれば「へり入」と云意也。「通入障子」を「とりゐしやうじ」といへるがごとし。又、神門の上に雞の栖し故、鳥居と云説もあり。然るに『下学集』に「とりゐ」を「華表」とかけるはあやまり也。華表はかたちちがひ、殊 神門にはあらず。和 漢 制ことなり、しゐて同じくすべからず。今の人おほくは華表とかく。習● 不 察と云べし。
※ 「通入障子」は、紫宸殿のうしろの七間の中の間の障子の名前だそうです。参考:『語学叢書 第1編(通入障子)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
※「雞」は、鶏。
※「下学集」は、室町時代に編纂された国語辞典。『下学集』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
※ 「華表」は、神社の鳥居のこと。かひょう。
※ 「かたちちがひ」は、形違い。参考:『秋田叢書 第8巻』(国立国会図書館デジタルコレクション)
瑞垣
めづらしき垣也。「み」と「め」と通ず。下を略す。「めづらし」とは、神威の竒特なるを云。
※ 「竒特」は、奇特。非常に珍しく、不思議な様子のこと。
玉垣
朱にてぬりて、ひかりかゞやく故に「玉垣」と云。「みづがき」は、内にあり。玉垣は外にあり。
叢祠
小社を云。「ほ」は「細」也。「こら」は「座」なり。座する所を「くら」と云。「あぐら」など云が如し。神の座するほそきくら也。
宮
「みや」は「御屋」也。「御」はたうとぶことば也。
※ 「たうとぶ」は、尊ぶ。
屋
「やどる」也。
家
「い」は「居」也。「ゑ」は「よし」也。いよしと云意。「よし」と「ゑ」と通ず。「日吉」を「ひゑ」と云。「住吉」を「住の江」と云の類也。
室
「むろ」は「こもる」也。上を略す。「も」と「む」と通じ、「る」と「ろ」と通ず。「むろ」は、おくの間にて人のこもる所也。又、説、「むれ」なり。人のむれあつまる所也。前説よし。
位
「くら」は「座」也。人のおる所也。「ゐ」は「居」なり。座の居處によりて、位の高下わかるゝ也。
公
「大宅」也。君の家は大也。「やけ」は「いゑ」也。御宅などいへり。
桁張
けたのはれる長短によりて、やねの急なると、ぬるきとあり。故に「かうばい」と云。是、後代のことばなるゆへ、音を用ゆ。「はい」は「はり」也。
※ 「ぬるき」は、温き。ここでは緩やかなという意。
局
「つぼ」は宮中の道なり。桐壺、梨壷などの「つぼ」なり。宮中の道につくれる家也。「ね」は「寝所」なり。字書に宮中の道を壷と云。
臺
「うて」は「内」也。「な」は「無」也。高き所にありて、かべなければ、内なしと也。
宿
「や」は「家」也。「と」は「所」也。「いゑ所」なり。「やど」は「宅」也。やしきを云。又、「やどり」とは「や」は「家」也。「とり」は「とゞまり」也。
樓
「弥くら」也。いやが上につくり重ねたるくら也。「くら」は「座」也。おる所を云。矢を入るくらと云説あり。不 可 用。
門
「外戸」なり。「ほ」の字を略す。
戸
「通る」なり。人のとほる口なり。下略なり。
棟
「むね」は「みね」也。「む」と「み」と通ず。山のみねのごとく、屋の上最高地所なり。
梁
「内張」也。家の内をはれる木也。
※ 「梁」は、屋根の重みを支えるための横木のこと。はり。
楣
「眉ごし」也。眉より上にこして、高き也。「こし」と「くさ」と通ず。
※ 「楣」は、窓や出入り口などの上に渡した横木のこと。
欄
「おびしもと」也。通音也。帯のほどにたかくあるしもと也。下略也。らんかんの事也。
※ 「欄」は、てすりのこと。
※ 「らんかん」は、欄干。
甍
家のやねを「いらか」と云。「い」は「家」也。「ら」は語の助の詞。「か」は「皮」の義。是『直指抄』の節也。愚謂、「か」は上の意なるべし。
蔵
「くら」は財をおく所也。物をおく所、人の身をおく所、神をおく所、すべて「くら」と云。「くら」は「おく」也。「お」を略せり。「ら」は助字也。一説に、財を入るくらはまど小して、内くらし故に、「くら」と云。されど、物を置所をくらと云説よし。中臣祓にも「ちくらのおきぐら」といへり。
※ 「まど」は、窓。
※ 「中臣祓」は、宮中で、六月と一二月の晦日に、罪けがれを清めるために行なった神事のこと。また、その祓の詞。なかとみのはらえ。
※ 「ちくらのおきぐら」は、「千座之置」のことと思われます。参考:『新撰神道祈祷全書』(国立国会図書館デジタルコレクション)
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖