『料理綱目調味抄』(10) 鍋引重箱引の部/醬物の部/浸物の部
鍝引重箱引の部
貴人には別■、茶碗飣たるべし。[■は宛+皿]
※ 「鍝引」は、鍋引。
烹肴
漿仕立、皷かけ、すみそ、わさびみそ、からしみそ、生がみそ、又、葛引にも。魚鳥は右に出す。
※ 「漿」は、醤油。
※ 「皷」は、味噌。
※ 「生がみそ」は、生姜味噌。
煎鳥
此類、委別にしるす。
※ 「委」は、くわしく。
張煮
なまこ、籠に入、わらと砂を交、よく振て、わたともに丸に切り、甘湯、酒、漿にて加減、したの液かへらし、なまこを入、そのまゝ出す。或は、わさび皷に柚酢を加へ、掛るもよし。
いりこの煮様前に註。仙臺金こ同。当座いりこは、わらと砂糖入、かへし/\にる。
※ 「かへらかし」は、煮立たせ。かえらかす。
※ 「仙臺」は、仙台。
※ 「いりこ」は、腸を取り除いたなまこを塩水で煮て、
干したもの。
※ 「金こ」は、金海鼠。なまこの一種で、宮城県金華山産のものが賞味されたそうです。
蚫 蚶 の類
皷煎はうすく切、山葵か、生がみそを鍝にいり付、●●に切、身を入、かきまぜて、其まゝ出す。ふくらには漿仕立、如 右。
※ 「鍝」は、鍋。
鱆|《たこ》
ふくら煮は如 常。桜煮はうすく切、さは/\と煮る。江戸煮は、たこを一寸斗に切、煎茶、酒、同分にしてかへし/\煮。半に、漿、柚酢を加れば、やゝかたき成。
皷煎煮
鳬、其外ぼとしぎの類、扣きみそに漿を加へ、鍝にいり付、鳥肉を入、かき交て煮。山葵、山椒。
※ 「ぼとしぎ」は、ぼと鴫。山鴫の別名。
煎鯛
前にしるす。一書、鱝のみそいりは、胡椒みそをなべにてしり/\と煮たて、ゑいを入、打かへして煮焼にすべし。
煎葱
葱を酒斗にて、能茹いりにて、後に漿にて味付。おろし大根、花かつほ、かけてよし。
※ 「斗」は、ばかり。
※ 「能」は、能く。
煎松茸
松茸を常のかげんに漿にていり、生がみそに、柚酢を加へ、温て掛る。ごまのいりたるもよし。
豆腐
丸焼を筒切、昆布、酒にてかへし/\煮、漿にて味付、からしをたふ/\と掛て ●●●● よし。
麩
生麩、器に入、酒を加へかへし/\ ●みて、だし、酒にて半日斗煮、漿にて味付、𣏐子切にして、平かつほ置てよし。くるみ、わさび。
右の外、精を引物、麩に品々あり。うば、牛蒡、芋、ずいき、干瓢、茸の類、其所多ければ略 之。
※ 「かへし/\」は、「久しく」かもしれません。『日本料理法大成』の「麩筋料理方種々」に「久しく揉みて」と記されています。
※ 「𣏐子切」は、杓子切。
醬物の部
醬物は
青皷、木芽皷、からしみそ、山椒みそ、生姜皷、唐からし皷、何れも胡麻、けしを摺加へ、白和は豆腐に加ふ。
生鶴
だし、漿にていりて、山葵みそにて和る。其外、鳥肉如 此。塩鳥、小鳥不 用。
鯨 鱣
ゆがきて、芥子、山葵みそ、にんにくみそ。
烏賊
ゆがきて、木のめみそ。酢を加。取合、木くらげ。
田螺
灰にてもみ、能洗、茹て、漿にて味付。青さんせうみそにてあゆる。
※ 「青さんせうみそ」は、青山椒味噌。
貝類
蚫、蚶、たいらぎ、みるくい、蛤、蜆、あさりの類、漿にて味付、皷あへ。取合、くわへ、なし、きくらげ、ゑび類も同。
※ 「みるくい」は、みる貝のことと思われます。
※ 「くわへ」は、慈姑。
鱧皮
うなぎも同じ。かば焼ほそく切。こせう、さんせうのみそあへ。
■子 [■は魚+巨+木]
青山椒みそ。取合、くわゐ、木くらげ。
※ 「■子」の読みは、誤読しているかもしれません。
精進
菜蔬の類、時節取合次第、所多して略之。
浸物の郭
浸物
漿 煮かへし 冷て、或は、いり酒、酢を加。いり酒ばかりも、又、ごま酢、すり山椒、けし、ごま、くろごま、くるみ、くり。
魚類は
熨斗くらげ、唐くらげ、うみたけ、此類に菜類を加、針ぐりせうが、又、わり栗、くるみ。
※ 「針ぐりせうが」は、針栗生姜。
菜類
菜、芹、ちさ、ふき、みつば、たんぽゝ、葱、よめな、うど、はす、菊花、はうれん草、わらび、芋のくき、ちよろぎ、めうが、はじかみ、くこ、うこぎ、なすび、瓜、干瓢、松だけ、かう茸、きくらげ、笋、同白皮、もずく。針柚、くりせうが、くしがき、くるみ、ごま、けし、同葉、いちご、青豆、ざくろ、おのみ、● の ● を以すべし。
五加 齋蒿
此類は、湯をたゝせ、ざつと茹て、冷水にて晒し、針栗生姜、いり酒かくべし。青くするは、茹湯にあくを加ふ。
裙帯菜
十八と云。豇を、湯をたゝせば、いかにも茹て冷し、四寸斗に切、生漿、ごまを掛る。さゝげ、長過たるは悪し。
※ 参考『童蒙単語字尽重宝記(裙帯菜)』
牛蒡
扣牛蒡は、ふときは悪し。いかにもざつと茹て、水にひやし、丸ながら生牛蒡にて扣き、五六分に切、ごま、漿に一両日ひたし置べし。又、如 右茹、五六分●切、温成を器に入、酒をそゝぎてひたとふりたるもよし。
※ 「温成」は、温かなる。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖