『料理綱目調味抄』(6) 刺身の部/可用 刺躬魚の部
刺身の部
一書、何魚にも両身をさして、右板、左板といふ事有り。又、めなます、おなますといふ事あり。又、さしみとは、左の身、うち身とは右の身をいふと云々。
※ 参考:『南総乃俚俗(めなます喰ふ)』(国立国会図書館デジタルコレクション)
「熬」と書は
いり酒也。「芥」と書は芥皷、「生」と書は生姜皷、蓼酢、うど皷、葱皷、山葵皷、胡椒皷、大根しぼり汁。
※ 「皷」は、味噌のこと。
「取」と書は
取合也。魚に魚、又、貝ゑびの類。權は、しそ、蓼、はじかみ、針糸くりせうが、又、橘類。
※ 「權」は、權。
切方
刺線の差別誌也。
醤交
精進の指味、初より熬酒と掛るを云。冬には温てかくべし。いり酒にはいつもわさび、又、生姜。
可 用 刺躬 魚の部
鯉
糸造り、子は煎り、ともにかはかし、いり酒、山葵。「取」水松、松菜。夏は冷水にって洗、平造り。しそ、たで、ともに洗、交盛。
※ 「取」は、取合。
鮒
右におなじ。洗 事、未勘。
鮅
右におなじ。洗てよし。
鮭 鱒
いり酒、山葵、生酢、酢皷、葱酢皷。
鯛
平造り。春は子付もよし。かき鯛にも。「取」こたゝみ、さ●ゑひ、糸蚫、糸いか、きす、さより。いり酒、生酢、山葵酢、蓼酢。
鱸
平造り。調味、取合、右におなじ。
鰈
右におなじ。からしぬた。
鯧
右におなじ。鯃もおなじ。からしぬた。
鰹
平造り。強玉酢は、中原、善徳寺。芥蓼、生酢、大根擦汁、葱皷、塩酒にも。東國にては夏系物。上方は冬。
※ 「中原」は、中原酢。相模産の良質のお酢。
※ 「善徳寺」は、善徳寺酢。駿河産の良質のお酢。
※ 「系物」は、景物のことと思われます。四季折々の趣のある事物、またその場に興を添える珍しい料理など。
鮪
右におなじ。かつほに劣れり。
■にべ [■は魚+㚇]
平造り、紅腸ともに造る。いり酒、蓼生、芥酢、葱皷。夏日、● 前の系物也。他国になし。像、大鱸のごとし。
鱣
皮を引、薄く筒に切り、ゆがく。芥酢、芥皷、葱蓼酢、同皷。皮の引様、くびすじに刀めを入れ、尾の方へむく。
鯨
皮身ともにうすく切、ゆがき、水に晒し、調味右におなじ。
鮮鱈
皮を引、平造り。雲子はゆがきて盛交。いり酒、生芥、蓼酢。
※ 「雲子」は、鱈の白子のこと。
交魚
あぢ、さより、きすご、ゑび、いか、蚫、赤がい、等は 二三種交盛。水松など ● 合てよし。いり酒、酢、皷、取合物によるべし。
※ 「水松」は、海藻の一種。海藻ミル。水松。海松。
海鼠
こたゝみ、いり酒、山葵、魚に取合ても、一種もよし。冬はいり酒あつくしてかくべし。茶碗に入、むすもよし。
精進
熬酒、冬は温て。生蓼、酢皷、芥皷、蓼皷、番椒皷。
焼麩、あげふ、隠元どうふ、糸こにやく(味付)、ところてん、かんてん、わらび、うど、山のいもめ●、土筆、せり、じゆんさい、川苣、蓮根、慈姑、はじかみ、めうが、防風、ちよろぎ、ゆりね、こく、うこぎ、なすび、瓜、唐なすび、椎茸、かうたけ、いは茸、松ろ、笋、むし笋、長さゝげ、わかめ、昆布(●●といふあり)、みる、松菜、ゑんす、いちご。
※ 「番椒」は、とうがらし。
いちこ●ときは、九年母か、だい/\を、袋をひらき、こまか成肉をよくほぐして、種を去べし。す、夏のいり酒、差味に加てよし。菓子には、砂糖をかくる。
なすび生漬の色よきを 引刺、加ふるもよし。
菊花に、料理きくと云ものあり。いり酒、わさび、くりせうがを加へ、さしみによし。差味の取合ものによるべし。
右、差味、醤交、精進鱠、大様ことなる事なし。右の品々の内にて、時節の取合、作意次第 成べし。
※ 「いちこ●とき」は、苺擬と思われます。大根をおろして、酢と蜜柑をあえて、苺に似せて盛ったもの。
※ 「九年母」は、ミカン科の常緑低木。くねんぼ。
※ 「だい/\」は、橙。
※ 「こまか成」は、細かなる。
※ 「くりせうが」は、栗生姜。
※ 「成べし」は、なるべし。
筆者注 ●は解読できなかった文字、□はパソコンで表示できない漢字を意味しています。
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