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【職人図鑑】宝船桂帆柱(1)十遍舎一九×歌川広重


番匠だいく 鍛冶かぢ


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

番匠だいく
のこぎりのめでたき御代のためしとて けふや子の日の松の木をひく
〽 もふひるだらう だいぶんほぞがはずれてきた

鍛冶かぢ
さかへゆくうんは 天からてんからと かねをのばすや 鍛冶の生業にぎはひ
〽 かぢやは ゐながらめしをたく てんから/\

※ 「まつ」は、正月のの日の遊びに引く小松。
※ 「ほぞ」は、ほぞ。木材と木材を接合するときの突起側のこと。これを他方に作った枘穴ほぞあなに差し込んでつなぎ合わせる。


鋳物師いものし かたな拵師こしらえし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

鋳物師いものし
ゐものしの ふみかためたる身代しんだいは 踏鞴たゝらよりして わきいづる金

かたな拵師こしらえし
身上しんじやうのきたひ きたひよければ きれものと人によばるゝ かたなこしらへ
〽 つばはとだいのなんばんてつ めぬきは家の二疋ごし 身は正宗のみだれやき アゝつがもね●

※ 「つば」は、刀のつば
※ 「なんばんてつ」は、南蛮なんばんてつ
※ 「めぬき」は、刀の目貫めぬき
※ 「身」は、刀身とうしん
※ 「正宗」は、岡崎おかざき五郎ごろう正宗まさむね。鎌倉時代末期の相模国の刀工。
※ 「みだれやき」は、みだやき刃文はもんを乱れうねるように表し出す日本刀の焼き入れ方。
※ 「つが」は、刀のつか
※ 「アゝつがもね●」は、「嗚呼つがもねえ」でしょうか。市川団十郎が荒事あらごとのなかで見得をきる際の決まり文句で、江戸時代に流行ったそうです。ああくだらないという意味。


弓箭師ゆみやし 具足師ぐそくし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

弓箭師ゆみやし
金儲かねまうけ あたりはづさぬ弓師とて よりもはやき 立身りつしんまと
〽 ゆみや八まん あたりははづさぬ なんとして/\

具足師ぐそくし
書の中の 金がかたき手にいれて をかためたる 具足師のげう
〽 かつて かぶとのおめでや

※ 「あたりはづさぬ」は、当たり外さぬ。
※ 「ゆみや八まん」は、弓矢ゆみや八幡はちまん。弓矢の神 八幡はちまん大菩薩だいぼさつのこと。
※ 「金がかたき」は、お金のために人は苦しんだり、災いにあったりするものであること。また、お金を得るのは難しいことの喩え。


施物師さしものし 大経師だいけいし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

施物師さしものし
金筥かねばこを さしものやとて 一生のたからは つねに手のうちにあり
〽 ゑりはざし こあなざし 三まいほぞありざし いろ/\ おこのみしだい ひやうばんで 入らつしやい

大経師だいけいし
正直せうじきの そのみのばりの たのしさは いへの風さへ ふくろばりなり
〽 かみを じゆうにするとは きつい

※ 「施物師さしものし」は、指物師さしものし。指物は、釘などを使わずに、木と木を組み合わせて作った家具や建具のこと。
※ 「ゑりは」は、襟輪えりわ。指物で、木材を組み合わせて接合するときの、一方の木材の端につくる突起部分のこと。これを他方に作った襟輪穴えりわあなに差し込んでつなぎ合わせる。
※ 「三まいほぞ」は、三枚さんまいほぞ
※ 「大経師だいけいし」は、ここでは、表具師ひょうぐしのこと。経師屋きょうじや
※ 「いへの風」は、家風かふうの訓読み。代々家に伝えてきた流儀、伝統。または、家庭内に起こるもめごとのこと。
※ 「ふくろばり」は、額やふすまなどを張るときに、紙の縁にだけのりをつけて張ること。


時計師とけいし 袋物屋ふくろものや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

時計師とけいし
はんぜうは ときをたがへず とけいしの 仕懸しかけくるはぬ 家のおさまり
〽 とけいは 時にあふ人だ

袋物屋ふくろものや
正直せうじきのところは 袋物師とて いつもたからの いれものや
〽 しつかり まふかる

※ 「ときをたがへず」は、ときたがえず。
※ 「くるはぬ」は、くるわぬ。
※ 「まふかる」は、もうかる。


扇折おふぎをり 職 篭細工かございく

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

扇折おふぎをり
金持となるを 肝心かんじんかなめにて ほねを折人のひさぐ あふぎ屋
〽 あふぎや 人のにはかぐらの わるひ てんがうじや

篭細工かございく
千早振ちはやふる かみのかごやの はんじやうは 竹のすぐなる 御代みよのいさほし
〽 たけで あかさぬ よいもなし

※ 「ひさぐ」は、ひさぐ。売る、商いをすること。
※ 「にはかぐら」は、庭神楽にわかぐら。舞台を設けずに、庭に篝火かがりびをたいて奏する神楽。
※ 「てんがう」は、ふざけること、たわむれること。点合てんごう、転合、転業。
※ 「千早振ちはやふる」は神にかかる。
※ 「すぐ」は、ぐ。ここでは、竹が直線的で曲がっていない様子。
※ 「いさほし」は、勤勉であること。いさおしし、功し。


錺師かざりし 挽物師ひきものし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

錺師かざりし
きんぎんを 自由じゆうにするは かざりの ふいごの風の 福の神より
〽 めつき ふくさ 上ケき なゝこ いろゑ いろ/\ あります

挽物師ひきものし
ひきものゝ 丸きは 角のなきゆへに 銭金までも よくまはりたり
〽 かねのつるを ひきものし くる/\まはる しんだいとは ありがたい/\

※ 「めつき」は、鍍金めっき
※ 「ふくさ」は、袱紗ふくさ
※ 「上ケき」は、上木あげきでしょうか。鷹匠たかじょうが用いる人の背たけぐらいの長さに切った竹の先に鉄をはめたもの。
※ 「なゝこ」は、魚子ななこ。金属彫刻法のひとつ、または、絹織物の魚子織ななこおりの略称。
※ 「いろゑ」は、色絵いろえ。ここでは、金銀などの薄い板を他の金属の彫刻した部分に焼きつける技法のこと。


版木師はんぎし 陶工すえものつくり

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

版木師はんぎし
かせげ たゞ 細工ざいくながらにも 黄金こがねほりす 板木師のわざ
〽 しやほんが くどいと ほねがおれる/\

陶工すえものつくり
このうちの たからなりけり 大黒だいこくの つちもてつくりりいだす やきもの
〽 じゆうじざいに まはりのよいとは めでたい/\

※ 「しゃほん」は、写本。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻


佛師ぶつし 建具師たてぐし

佛師ぶつし
せいして ほとけつくれば ふ自由じゆうなく 極楽ごくらくなりしこそ たのしき
〽 ほとけつくつて たましゐを 入れるは じつにぶつしだ アゝおそるべし/\

建具師たてぐし
金持かねもちと人も 建具師なればとて いへのしまりも 見えてたのもし
〽 はいがしら きりこがかしら いろ/\あり

※ 「はいがしら」は、紐の結び方のひとつ「へいがしら」でしょうか。男結び。
※ 「きりこがしら」は、切子きりこがしら。四角のすみをそれぞれ斜めにカットした金物の頭部の形。調度類の金具の頭部に用いられる。


瓦師かわらし 仕立物師したてものし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

瓦師かわらし
たかきやに のぼりて見れば けふりたつ かまどにぎをふ 今戸いまど瓦師かはらし

仕立物師したてものし
縫針ぬひはりほそきながらも せいして 身上したてあげし たのしさ
〽 さゝづま ● 月がたは 手とりものサ  

※ 「たかきやにのぼりて見ればけふりたつかまどにぎをふ」は、仁徳天皇の御歌「たかのぼりてればけぶりたみのかまどはにぎはひにけり」からきています。
※ 「今戸いまど」は、東京台東区今戸。焼き物が盛んな地域で、日用雑器、茶道具、土人形(今戸人形)のほかに、瓦の生産もされていたそうです。
※ 「さゝづま」は、笹褄ささづま。着物のすそが、細長く笹の葉のような形をしているもの。
※ 「手とりもの」は、得意とすること。手取物、手取者。


縫箔師ぬひはくし 石工いしきり

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

縫箔師ぬひはくし
ぬひはくの 金糸きんし銀糸ぎんしは 手のうちに いへはん昌の 模様もやう見せたり
〽 そうもやうの いろ糸入りは 手がかゝる/\

石工いしきり
正直せうじきこゝろはかたき 石切いしきりのゆるがぬ身こそ たのしかりける
〽 てん六さんの仕入で いそがしい/\

※ 「そうもやう」は、そう模様もよう
※ 「いろ糸」は、色糸いろいと


左宦さくわん 傘張かさはり

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

左宦さくわん
金持かねもちとなる 下地したぢよきかべなれば 左官さくわんも こてをきかしてやぬる
〽 これから すなずり 大なをしだ

傘張かさはり
大切たいせつに 家業がげうまめなば ふくかみ 大こくがさを はるゆたか
〽 かゞりは ねんを 入れて下さい

※ 「すなずり」は、砂摺すなずり。砂を加えて土蔵などの壁を塗ること。
※ 「大なをし」は、大直おおなおし。荒壁塗りの後に、表面を平らにするための塗りのこと。荒壁塗り→大直し→中塗り→上塗り。
※ 「大黒がさ」は、大黒傘だいこくがさ番傘ばんがさの総称。
※ 「はる」は、大黒がさを「張る」と 掛詞かけことば になっています。
※ 「かゞり」は、装飾と補強を兼ねた傘の内側の糸飾りのこと。


木履屋げたや 塗師ぬし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

木履屋げたや
鳳凰ほうわうもいづべき 御代みよ長閑のどかさに さかゆる桐の 下駄げたにぎは
〽 まるまさの 利久げた ずいぶん ねんを入れて さし上げます

塗師ぬし
生業にぎはひも 堅地かたぢにすれば いつまでも 大丈夫だいじやうぶなる ぬしの身代しんだい
〽 木がため こくそ さび きりこ 中ぬり 上ぬり したてが かんじんじや

※ 「利久げた」は、利久りきゅう下駄げた日和ひより下駄げたの一種で、薄く低い二枚歯をつけた下駄のこと。
※ 「こくそ」は、木屎漆こくそうるし。厚塗りができる漆で、塗り物などの割れ目、合わせ目を接着するのに用いられる。漆糊に木屎をねり合わせたもの。
※ 「さび」は、錆漆さびうるし。下地に用いる漆のひとつ。水で練った砥粉とのこ生漆きうるしをまぜたもの。
※ 「したてがかんじんじや」は、仕立てが肝心じゃ。


畳師たたみし 桶屋おけや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

畳師たたみし
さかへゆくいへ 繁昌はんじやうや 一畳いちでうの たゝみかさぬる 小判こばん 山ほど
〽 十五とふりとは かくべつ 上ものだ

桶屋おけや
せいしてかせぐ 手桶ておけのたが目にも 輪をかけて ます 家の賑ひ
〽 たがなんといふとも かまはずに おけやトン/\

※ 「たが」は、たが。竹などを編んで輪に作ったもので、おけたるの外側を堅く締めるために用いられるもの。
※ 「たがなんといふとも」は、誰がなんと言うとも。たがたが掛詞かけことば になっています。


紙漉かみすき 筆師ふでし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

紙漉かみすき
かせぎさへすれば 家内かない機嫌きげんよく わらふかどには ふくのかみすき
〽 くらいうちから くさをたゝき すき上るまでが 大ぼねほり

筆師ふでし
すぎはいの得意とくゐは ふへ●て 大文字おほもじの筆の 命毛いのちげ ながきはんじやう
〽 もろてんふでをつくる と りよししゆんじうに 見へたり ふでは 打ものといふから さきが●●る

※ 「ふくのかみすき」の「かみ」は、神と紙の掛詞になっています。
※ 「すぎはい」は、生業すぎはい。(生業すぎはいくさたね=暮らしを立てるための職業は、草の種のように多い)
※ 「命毛いのちげ」は、筆の穂先の長い毛のこと。
※ 「はんじやう」は、繁昌はんじょう
※ 「もろてんふでをつくる」は、諸点もろてんふでを作る。
※ 「りよししゆんじう」は、『呂氏りょし春秋しゅんじゅう』。しんの雑家書。


提灯屋ちやうちんや 木挽こびき

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

提灯屋ちやうちんや
にぎはひは いへ得意とくいや 商売しやうばいみちにあかるき 挑灯屋てうちんやとて
〽 てうちんに つりがねの まふかるのだ

木挽こびき
さかへゆく めぐみぞ あらん大ぼくを ひくもすぐなる 心たのもし
〽 めいたは 手とりものだ ザらり/\

※ 「てうちんにつりがね」は、提灯ちょうちん釣鐘つりがね。つり合いが取れていないことの喩え。
※ 「まふかる」は、もうかる。
※ 「めいた」は、切目板きりめいたのことでしょうか。切り目えんに張る板のこと。
※ 「手とりもの」は、得意とすること。手取物、手取者。


足袋屋たびや 人形屋にんぎやうや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

足袋屋たびや
はんじやうは いへ徳用とくようむきなれや 毎晩まいばんつなぐ ぜにのさしたび

人形屋にんぎやうや
いやましに おさまる御代みよの ありがたさ 武者むしや人形にんぎやうに かねまふけする
〽 つ●だしは さいごの事だ したじの上りが きめう/\

※ 「さしたび」は、刺足袋さしたび。細かく刺し縫いにした足袋のこと。
※ 「いやまし」は、いやし。ますますもっと、さらにいっそう。
※ 「きめう」は、奇妙きみょう


鏡磨かゞみとぎ 家根屋やねや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

鏡磨かゞみとぎ
身上しんじ●うを みがき出せらば 正直せいじきに こゝろくもらぬ かゞみとぎなれ
〽 天下一は 上せ●だ

家根屋やねや
せい出して 家業かげうで あつき屋ねいた富貴ふき 自在じざいなるみこそ たのしき
〽 せきかやには なまぞりがつきものだ

※ 「富貴ふき」は、板を「き」との掛詞になっています。
※ 「なまぞり」は、彫刻のみの一種のなまりのことでしょうか。


櫛挽くしひき 造花屋つくりばなや

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『宝船桂帆柱2編4巻

櫛挽くしひき
はんじやうは 櫛のをひくいそがしさ これ正直せうじきの かうべよりして
〽 お六に●くしげは ひくによつぽど てとりだ
〽 はをひくやうに あきなひがあるから めでたい/\

造花屋つくりばなや
あきなひは 今はさかりぞ 売ものに かざはなやの みせのにぎは

※ 「はんじやう」は、繁昌はんじょう
※ 「お六」は、おろくぐしのことでしょうか。木曾街道藪原やぶはらの宿の名物のすき櫛。
※ 「はをひくやうに」は、歯を引くように。人の往来や物事などがひっきりなしに絶え間なく続くことの喩え。櫛は、歯を次々とひくようにして削って作ることから。



筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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