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ガラスペン230本ぶんの「正」の字を集めたはなし。

 なんの変哲も無い3冊のノート。ここに私の蒐集のすべてが詰まっています。

グラフィーロ5mm方眼A5ノート

 ノートを開くと紺色のインクで「正」の字が書かれています。

ノートの中身

 めくってもめくっても正の字ばかり。たまに長い横線が混じりますが、2冊目・3冊目に移っても書かれている内容は変わりません。

 私が集めているのは「ガラスペンで書いた正の字」です。

 蒐集開始から四年経過したいま、3冊合わせたパターン総数は238。ペン先の修理や調整の後に書いたものを除けばおよそ230本のガラスペンを買って正の字を書いたことになります。

 私がガラスペンで正の字を書き続ける理由は一つ。

「ペン先の性能を知りたい」

 ただそれだけです。


正の字のあつめかた

 まず、新しいガラスペンと道具を用意します。

ノート/インクポッド/ペントレイ/手袋/ペーパーウェイト

 ノートの紙面に皮脂が付かないよう手袋をします。指のところを切っているのはペンを持ちやすくするためです。

紙に接地する小指部分も切っているのは
先端のダブつきが邪魔なため

 ガラスペンのペン先半分までインクに浸し、すぐ引き上げます。根本までにしないのは、毛細管現象でインクが根本まで吸い上がるからです。

付けすぎたらペン先を洗ってやり直し

 インクが全然上がってこないペン先もありますが。

 余分なインクは落としません。キッチンペーパーのインク吸収量をコントロールするのは難しく、条件が揃わなくなるからです。

 瓶のフチでインクを落とすのはペン先破損の可能性があるので論外
 試筆の際に店員がこれやってからお客に渡す店のガラスペン、ペン先最先端が破損してるのがあったんですよぉ……。

 代わりにガラスペンをいったんペントレイに置いて休ませます。

ペントレイは哲磋工房のもの

 ノートに正の字を書きます。書きながら感じたことは頭に叩き込みます。

正の字蒐集中

 ペン先を立てたり寝かせたり回転させたり、とにかく溝からインクが出てこなくなるまで書き続けます。

溝にインクが残っていても書けなくなったら終了

 もう一度ペン先にインクをつけ、ガラスペンの作家名と作品名を記載します。

ガラスペンと正の字が収まるように写真撮影

 最後に、Xに結果を投稿します。

 蒐集過程の説明にメンダコペンを使うご許可をくださった押野さん、本当にありがとうございます!


正の字を集めはじめたきっかけ

 私はもともとインク沼住民で、集めたインクでイラストを描くためにガラスペンを買っていました。

 コロナ禍の影響でガラスペンのオンライン販売が盛り上がり、所有するガラスペンが一気に増えた際に「手持ちのガラスペン全てについて、どれだけ文字が書けるか調べて比較しよう、あと備忘録ついでにTwitter(当時)に結果を投稿しとこう」と考えたのが現在に至る蒐集のはじまりです。

 当初は軸の美しさや携帯時の利便性でガラスペンを買っていたのですが、本業テストエンジニアさがなのか、気がつけば軸よりペン先の性能調査そのものにより強い魅力を感じるようになっていました。

 いまやこんな事を言い出す始末。

 購入の際に最重視するのがペン先というだけで、好きなガラスペン作家の作品であれば今でも軸買いはあります。


正の字からわかること

継戦能力

 私のコレクションから得られる最重要情報です。

 よく「ガラスペンは一度インクを付けたらはがき一枚ぶん書ける」と言われますが、曖昧な表現なので正確な筆記量はわかりません。

 そこで、使うガラスペン以外の条件を固定し「ペン先を一回インクに浸して書ける量」=「継戦能力」として測定しています。

継戦能力に影響する主な要素は
「溝の深さ」「溝の長さ」「線の細さ」
同一作家・同一タイプのペン先でも
字幅の違いで継戦能力は大きく異なる
タマネギ型のペン先はどうしても継戦能力低めに……
条件を合わせないと蒐集の意味が無いので致し方ない
カリグラフィー系の幅広ペン先は
方眼内に正の字が書けないので
引ける線の長さを測定
写真は「リボンニブ」
超極太の字幅も単純にペン先を削るだけでは
実現が難しい特殊ペン先
5mm方眼9マスの中に正の字を書いて測定
写真は「ブレットニブ」

インク保持力

 余分なインクを落とさないので時にボタ落ちしたりしそうになったりしますが、ボタ落ちの原因は大半が溝の構造です。

 特に溝のひねりが多いと浅くなりがちで、インクを保持しきれず落ちてしまいます。

ムックの付録に多いペン先形状は
筆記仰角(後述)が高いとボタ落ちしやすい
(このガラスペンも危なかった)
珍しいトルコ製のガラスペン
ソフトクリームのように捻られているが
溝が深いためインク保持力は問題なくボタ落ちしない

紙当たり

 正の字を書いていると、

「このガラスペンはヌルヌル書けるな」
「書いてる最中にサリサリ音がして気持ちいい」
「……この引っかかり、もしかしてペン先が破損してる?」

と言った書き味の違いを感じます。(最後の破損はともかく)書き味は人によって好みがあるので、私の主観ではありますが「紙当たり」と称して評価しています。

主観を無理やり図にしてみた

筆記仰角

 ガラスペンに限らず「筆記用具の持ち方」には個人差があります。

 たとえば、私はわりとペンを立て気味に持つ癖があります。

 一方でガラスペンもペン先の研磨状態によって最も書きやすい持ち方が異なります。

代表的な筆記仰角
45°を推奨する作家が多い

 私が「筆記仰角」と呼んでいる「ペン先と紙が作る角度」が自分の持ち方に合わない場合、まともに文字が書けないことがあります。

 そのため、正の字を書くときは垂直から極端な寝かせ状態までインクの出具合を確認しています。

最先端に向け急激にすぼまるタイプのペン先は
ペン先側面が紙に当たって邪魔をするので
(物理的に)筆記仰角を下げられない

 普通に字を書くぶんには筆記仰角が30°を下回ることは殆どありませんが、寝かせ気味に持つとペン先側面が紙に当たるのを逆手にとって1本で自在に字幅を変えられる造りにしたガラスペンも存在します。

2019年末に先駆が登場し2020年中ごろに
現在の形状となった「ぽちょニブ」
今でも非常に人気が高い

購入時期によるペン先性能の違い

 私が集めているのは主に「日本国内で製作されたガラスペンで書いた正の字」なのですが、年単位で活動している作家でペン先のクオリティが活動開始当時のまま、という方は殆どいません。

 ペン先のクオリティアップ、特殊ペン先の開発など方向性は様々ですが、「よりよいガラスペンを作る」ためにたゆまぬ努力をされています。

2019年に購入した作家の作品を5年経過後に再度購入
店頭で選ぶ際ペン先の個体差が大幅に減じていると感じた

 直接面識があり、私の蒐集をご存じの方の場合、購入時にペン先をどう改良したか教えてくれることもあります。

 一年で劇的に性能が良くなったケースもあり、同一作家の新旧ガラスペンの性能比較は心躍ります。

なるべく同じ作家を同じページにまとめるようにしている

今後やりたいこと

 これ以上ガラスペンの数じたいを増やすのは真面目に破産しかねないのでセーブしたい、と思っています。

 実際に我慢できるかどうかは別、ですが。

 正の字を集めるときは「書きやすい!」と思ったガラスペンでも日記などを書くとき「い、インクが全然出ない……」ということがよくあります。

 今度は使用するガラスペンを固定し、紙とインクの条件を変えて正の字を書くことでガラスペンの書きやすさがどう変わるかを検証したい、と考えています。

準備は進めています
インク沼界隈で有名なやべーやつ

コレクション全容はこちら

Togetterの「編集部イチオシ」にも選ばれました。

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