『心の回復をするために動いた日々の思い出』~假屋崎省吾花教室に通って~
最近、テレビで目にした假屋崎省吾個展。何と今回の場所は表参道の自宅だそうです。きらびやかな邸宅が写し出され、懐かしさで気持ちがいっぱいになりました。
大学を卒業して小さな出版社の営業職をしていた20代後半、都内の顧客約200件と地方6県の出張に心身ともに擦りきれ、帰宅する電車の中で涙がこぼれてしまった時期がありました。食べるのも辛く、頭が働かず、仕事がどんどん溜まり、上司には心配され、パンク寸前。今思えば、心が限界になっていたのですが、当時はとにかく仕事しなきゃ、自分の代わりがいない、と会社を休む選択肢なんて自分の中にありませんでした。
そんな時に、美輪明宏さんの著書「ああ正負の法則」に出会い、美輪さんの言葉の数々が弱った心に染み渡りました。少しずつ立ち上がり、美輪さん繋がりで、假屋崎省吾花教室を見つけ、通うことにしたのです。
美輪さんの世界観を感じながら、一流の華道家に生け花を習う。
仕事帰りのくたくたな体で、青山の假屋崎先生のご自宅でお花を生けるひとときは、扉を開けた瞬間から別世界に入り込めて、とても楽しい時間でした。
先生はテレビで活躍され始め、とてもお忙しい中、生徒さんに優しく丁寧に接してくれました。何よりも明るく、パッションに溢れ、時にユーモアがあり、必ず誉めてくださり、魔法のようなお直しを間近で体験し、常に楽しく高揚した気持ちで帰宅したものです。
スピードよ、初めのインスピレーションが大事よ、美意識高いわね、足元締めてね丸見えにならないように、不当辺三角形を作るの、美しゅうございます等々。言葉のすべてが心のエッセンスでした。
目黒雅叙園の展覧会に参加させていただいた経験も、貴重な思い出です。いつもは朗らかな先生が一転、真剣な眼差しで現場で厳しく指示しなから生けていく様は、プロの崇高なまでの姿勢を垣間見ることができたいい経験になりました。
レッスンの合間に、ご自宅を見学させていただいたこともありました。美しく気品溢れる空間は、もはや感嘆のため息しか出なかったのを覚えています。いつも使わせていただいていたトイレすら、キンキラキンのゴールドで施され、中尊寺金色堂のようにきらびやかでした。コロナ禍でなければ家族で伺いたかったです。またいつかご自宅で開催されますよう願っています。
先生のご縁で、時々、美輪さんの舞台や音楽会のチケットを買うこともできました。それはそれは夢のような時間でした。舞台から降りて近くを通った時の強烈な香水の匂いと、尋常じゃないオーラ、気高く美しい圧倒的な存在感。忘れられない思い出です。
更に、美輪さんの舞台を演出していた寺山修司を知りたくなり、青森県三沢市にある寺山修司記念館を訪れてみました。人間の奥底に潜んでいるすべてが押し寄せて来るようで圧倒されました。
瀬戸内寂聴さんと美輪さんの対談本「ぴんぽんぱんふたり話」が出れば、岩手県にある寂聴さんゆかりのお寺、天台寺を訪ねたりもしました。山寺のそこかしこで愛らしい表情のお地蔵さんが迎えてくれて、温かいお寺でした。
鮮やかな記憶と共に、記念館とお寺にドライブがてら連れて行ってくれた秋田の両親と、心が回復するきっかけになった出会いに今でも感謝しています。その後、結婚して子どもを授かり会社を退職し、数年間通っていた花教室もやめましたが、假屋崎先生と美輪明宏さんのご活躍をメディアを通して拝見し、元気をいただいています。子ども4人を育てて行くうちに、すっかり心臓に毛がボ~ボ~に生えて、たくましい肝っ玉母ちゃんになりました。
假屋崎省吾先生の言葉「花は心のビタミンです」
忙殺されがちな日常ですり切れそうになったら、お花を少し飾ります。野の花、生ける花、子どもが摘んで来た花、すべて美しく凛とした佇まい。都会の片隅で小さな秋を見つけては、嬉しくなるこの頃です。