【介護日記】故郷には戻らない
ふるさと。
それはきっと多くの人にとって帰りたい場所。
でも私にはふるさとに帰る家もなく、
家族はてんでばらばらなので、
待っている人はいないし、帰りたいとも思わない。
ふるさと。
思い出しても苦い記憶しかよみがえらない場所。
ひとりあの街に残り耐えていた母を、私が上京した際に呼び寄せた。
でも、知り合いもいない場所で、一緒に住む娘は仕事に忙しく、どこかに連れだって出掛けたりすることもなかった。
勝手の分からない土地で、話す相手は常にカリカリした娘だけ。
結局は更に孤独にさせてしまった。
だから認知症に早くになったのだと思う。
そんな母を連れ、今年、私は引越しを決意した。
同じ県だけど違う場所。
同じ方言、同じ文化だけど違う土地。
この選択が母にとっていいかはわからない。
それでもまだ体が動いて、まだ意思疎通が少しでもとれるうちに動いた方がいい。
その思いを隠れ蓑にして、私は自分も抱えている心の病をどうにかしたくて、引っ越そうと思う。
母に尋ねた。
「お母さん、かえろっか」
「そうね、帰ろうか」
「家族みんなで住んでたとこはどう」
「 いやねえ」
「お母さんの故郷はどう」
「・・・」
母の故郷は私のとは違う。
それでも母も私も似たような苦い記憶から戻りたいと思っていないらしい。
たぶんどちらに戻っても、父の噂がまとわりつくだろう。
一緒に暮らし続けることが正しいかもわからない。
母は自分がどんどん忘れ行くことに泣き、
私はそんな母に理不尽にあたる自分が嫌で泣く。
介護をしていたり、うつ病になったりしたら、
仕事を辞めたり、引っ越しをしたりしない方がいいとネットはいう。
落ち着け、早まるな。
お金はどうする。
環境の変化に適応できなかったらどうする。
インターネットはやさしい。
不安しかない。
でも海の見えるあの土地へ帰ろうと思う。
だけど私たちは故郷には戻らない。
新しいふるさとを求めて、さあ
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