【介護日記】認知症母との春・夏
新しい街に越してきて冬がすぎ、春がきた。
そして夏の訪れを暦からも、新緑の美しさからも感じる。
母の認知症の進行は、ゆるやかに訪れている。
トイレの粗相は毎日。
筋力の衰えからよろめくことも毎日。
簡単な受け答えにも、ちんぷんかんぷんな返事しか返ってこない。
それでも、
それでも、今、私は、母を愛していると断言できる。
数ヶ月前までは私は鬼だった。
土地を変えても、仕事をやめ介護に専念するようにしても、母のぼんやりとした表情は変わらず、毎日泣いてばかりだった。
そんな母に苛立ちからきつい言動をぶつけていた私。
朝は母の泣き声からスタート。
そのすすり泣きを聞くと、体が重くなり、起き上がりたくないと自分に駄々を捏ね、しぶしぶ起きると棘のある物言いで叱りつける。
行動範囲も限られているから、馴染みのある土地とはいえ、また、二人で殻に閉じこもりそうになっていた。
そこにケアマネジャーさんやデイサービスの方々、病院の医師、看護師さん。
母の友人たち。
たくさんの方々が母に目を向けてくれ、私以外の誰かが、母の存在を認識し、眼差しを注いでくれることに、まず私の心がほぐれていった。
すると、母の涙の頻度も少し減り、表情が穏やかになっていった。
介護の状況が好転したわけではなく、むしろどんどん手がかかるようになっている。
それでも、小さなため息をつきながら、しようがないなと優しくハグをして、母に向き合えている。
すやすや眠る母の寝顔をみて、
大好きだよ、スペシャルだよ、と
囁く夜。
そんな夜を超えて、季節は初夏になった。
今は街角の紫陽花が少しずつ咲き始めている様子を、散歩しながら眺めるのが日課になっている。
暑い夏がやってくる。
おかあさん、秋を迎えよう。
美しい銀杏並木をみよう。
枯葉の音を楽しむ散歩に出よう。
さあ、夏だ。