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『スタジアムの神と悪魔 —— サッカー外伝・改訂増補版』発売に寄せて

『スタジアムの神と悪魔 サッカー外伝 改訂増補版』は、南米・ウルグアイ出身の作家、ジャーナリストのエドゥアルド・ガレアーノ(1940-2015)による稀代のサッカー・クロニクルだ。

1930年代から2014年まで各地でサッカーがみんなにもたらしてくれた煌めきと「摩訶不思議」が熱い言葉で描かれている。サッカーを軸に政治、経済、文化を縦横無尽に横断するドキュメントとして、そして超一流の南米文学として国や時代を超えて読み継がれきたし、これからもそうだろう

いろいろな分析ができる大著だが、ガレアーノとこの本についてまず思うのは、ジーコやペレやガリンシャ、マラドーナ、バッジオといった「10番」や「7番」のプレーの魅力と偉大さ(あるいはマネーゲームやまやかし、政治の酷悪さ)を、ここまで言葉でとらえきったジャーナリストはいないんじゃないだろうかということだ。何度読んでも感動するし、言葉が、サッカーが、あの美しいプレーが時を超えてぼくらを興奮させ続けるということが本当にあるのだと知ることができる。

だからサッカーについて考えるとき、いつもこの一冊に立ち戻ってきた。世の中にサッカーの本はたくさんあるが、あの日の自分や、これからのサッカー少年・少女に読んでもらいたい、絶対いいから、と思える本は、この他にはなかなかない。

そういうわけで、もちろん多くの方々に読んでいただきたいが、特にこれからの子どもたちに、この本を届けたい。ガレアーノの言葉を読んで、これは自分のために書かれたのだ! と感じる子どもがぜったいにいると確信している —— サッカーはなんと楽しいことなんだろうか、自分の好きなことはこれであり、こうしていてもいいんだ、と少しでも感じていただけると嬉しいです。難しい数年を過ごしたいま、これからの日々ために。

ガレアーノは、新聞記者として仕事をスタートした。クーデタによってカタルーニャに亡命し、後年母国に戻ってからもその独特の筆致でラテンアメリカと世界と人々を描き続けた。邦訳既刊書に『収奪された大地――ラテンアメリカ500年』(新評論/藤原書店)、『火の記憶』(全三巻、みすず書房)、『日々の子どもたち あるいは366篇の世界史』(岩波書店)がある。どれも偉業だ。サポーターとしては、ナシオナル・モンテビデオのファンとして一生を遂げた。

今回の2023年増補改訂版では、テキストの全般的な改訂、1998年以降にスペイン語版原書で増補されたエピソードの追加に加え、スペイン語版に入っていたものの旧版には収録されていなかったガレアーノ本人によるイラストの全面的な追加をした。全156篇のエッセイ集として原著と同じステイタスにアップデートされている。

古くからのサッカーファン、若いかたがた、スポーツやノンフィクションが好きなかたがた、そして普段は本を読まない皆さんやサッカーファンではないかたがたにも、この本を手に取っていただきたいと思います。サッカーを通して、世界と人を想像し、理解するための一冊だと思っています。

翻訳者の飯島みどり氏には大変な労力をおかけいたしましたが、ガレアーノの声を感じるすばらしい日本語訳文にしていただきました。スペイン語圏のみならず数十の言語に翻訳されて読まれているガレアーノの著作群が「日本ではあまり知られていない」とするとそこにはもちろんいろいろな要因があるわけですが、この度の日本語版『スタジアムの神と悪魔』はこれからも読み継がれ、ぼくらのうちに、みなさんのうちに物語が広がっていくことを確信しています。

2023年2月 (2023年5月補足を追記して更新)
記:木星社

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『スタジアムの神と悪魔 サッカー外伝 改訂増補版』
エドゥアルド・ガレアーノ Eduardo Galeano(1940-2015)
ウルグアイ東方共和国モンテビデオ生まれ。作家、ジャーナリスト。週刊『エル・ソル』紙にまずイラスト、次第にルポをも寄稿し、10代半ばからジャーナリズムの道に進む。1959 - 1963年『マルチャ』誌主筆、1964 - 1966年日刊紙『エポカ』編集長。1973年の軍事クーデタを逃れ居を移したアルゼンチンでは『クリシス』誌創刊・編集に携わる。その後スペイン - カタルニャへ亡命。1985年初頭モンテビデオへ帰還。その筆は文学のジャンルと称する境界線を侵犯し、魂の深みから発せられる声、市井の声なき声をすくい上げ、現実と現実の奥に潜む記憶とをひとつのテクストに編み上げる。 ウルグアイ文化大臣賞、米国のアメリカン・ブック・アワード、デンマークのフロア賞、ランナン財団の「文化の自由」賞などを受賞。邦訳既刊書に『収奪された大地――ラテンアメリカ500年』(新評論/藤原書店)、『火の記憶』(全三巻、みすず書房)、『日々の子どもたち あるいは366篇の世界史』(岩波書店)など。

飯島みどり(翻訳)1960年東京生まれ。ラテンアメリカ近現代史。立教大学教員。訳書にサルマン・ラシュディ『ジャガーの微笑――ニカラグアの旅』(現代企画室)、ロケ・ダルトン他『禁じられた歴史の証言 中米に映る世界の影』(編訳、同前)、 歴史的記憶の回復プロジェクト編『グアテマラ 虐殺の記憶――真実と和解を求めて』(共訳、岩波書店)、ダニエル・エルナンデス - サラサール写真集『グアテマラ ある天使の記憶』(編訳、影書房)、エドゥアルド・ガレアーノ『火の記憶』(全三巻、みすず書房)、アリエル・ドルフマン『南に向かい、北を求めて――チリ・クーデタを死にそこなった作家の物語』(岩波書店)、エドガルド・コサリンスキイ『オデッサの花嫁』(インスクリプト)ほか。




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