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本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞作『海をあげる』心震える本当のことばたち

この本をどうしてもたくさんの人たちに届けなきゃ

なぜかわたしがそんなせっぱつまった気持ちになってしまって、今これを書いています。

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↑こちらのちくま書房のサイトから、先日発表された本屋大賞ノンフィクション本大賞授賞式の著者上間陽子さんのことばが聞けるので、ぜひこちらを聞いてみてください。

スピーチ全文を読むこともできます。

息を呑むほど素晴らしいのでぜひ。

わたしはこれを聞いて、いてもたってもいられなくなり、自分の本棚の中でひっそりと積読になってしまっていた『海をあげる』を引っ張り出して、即読みました。

正直難しいところはまったくなく、ページ数も文字数もそこまで多くないので、数時間あれば読めてしまうであろう作品なのだけど、わたしは読むのに何日も何日もかかりました。

読み進められなかった。なかなか。

それほど、どのページもどのページも胸を打ち、上間さんの書くことばすべてが突き刺さって痛かった。

こんなにシンプルでただ日常を綴った文章だけど、これを書ける人というのはものすごい覚悟が備わっている人だという気がしました。

それほどのリアル。

沖縄、そして沖縄で生きる女性たちのリアル。


この本をノンフィクションだということに対してはきっと様々な意見があると思います。

わたしもこれは厳密に言えばエッセイだと思うし、著者の上間さん自身もそう仰っています。

ただ、この本にはノンフィクション本以上のリアルがある。それはほんとうだと思います。

読んだ書店員たちがきっとそういう風に感じたから、この本をノンフィクション本大賞にと投票したのだろうと思うし、この本を読んだ後でそれはとても頷けることでした。



この本は、沖縄で生まれ育ち、大人になって子供を産みまた沖縄に帰ってきた上間さん自身の日記のような本です。

幼い我が子への視点がそこここに溢れ、鋭いなぁと思う子供の感性や、思わず笑ってしまう微笑ましいやり取りなども書かれていて、同じ女の子を育てる母としては、共感できるところがたくさんあります。

でもこの本はいわゆる子育てエッセイでは全然ありません。

あくまで上間さん自身の日記であって、そこには ”沖縄” という2文字が強烈に張り付いています。



上間さんは若くして子供を産む女性たちのお手伝いをしています。

そうして時々その人たちの声を聞き、書き留めたりしています。

海には今日も土砂が入れられていきます。

上間さんは娘さんにごはんの作り方を教えます。

そうして

『風花。今日お母さんがあなたに教えたものは、誰にも自慢できない、ぐちゃぐちゃした食べ物です。それでもそれなりに美味しくて、とりあえずあなたを今日一日、生かすことができて、所要時間は3分です』

と書いたりします。

海には今日も土砂が入れられていきます。

上間さんはおばあさんの最期の日々を、丁寧に距離をとって書き綴り、

『何とまぁ見事に生ききったことでしょう。104歳です、みなさん』

とお坊さんからの言葉を書きます。

海には今日も土砂が入れられていきます。

上間さんはムーチービーサーと呼ばれるお祝いに、ムーチー(鬼餅)というお菓子を作り、生餅を食べてしまう娘さんを嗜めて笑っています。

海には今日も土砂が入れられていきます。

上間さんのお嬢さんは今日も元気に幼稚園に行き、新しい歌を歌っています。

海には今日も土砂が入れられていきます。


沖縄と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。

わたしはまず青い海、白い砂浜、のんびり歩く牛車や、三線の音色などが浮かびます。シーサーのちょっととぼけた顔なんかも思い浮かぶかもしれません。

そこに不穏な空気は感じられず、むしろ平和でピースフルなイメージに溢れてしまっています。

それは沖縄の一部であり、それもまた沖縄の良い面とも言えるかもしれませんが、やはり作られた沖縄のイメージであるということは否めません。

この本を読んだ今、わたしは、わたしたち無関心な本土の人間たちが、米軍基地という面倒なものを沖縄に押しやり砂をかけ見ないようにして、その上にきれいなものをかぶせてさらに見えなくし、沖縄は楽園だ、沖縄ほど美しいところはないなんてのたまっているだけなのだということに、気がついてしまいました。

それがどれだけ沖縄の人たちを傷つけているのか考えもせずに。

その結果、沖縄の人たちは今もなお被害を受け続けています。


この本は家族への、生きようとする女性への、そして沖縄への愛に溢れていますが、同時に静かな怒りを湛えた本でもあります。

ひたひたと広がっていく怒りが巨大な絶望に変わり、それを丸々こちらにぽんと手渡すような本でもあります。

この絶望を受け取って自分は何ができるのか、

考えて考えました。

そして、この絶望はみんなで受け取るべきものだと思いました。

日本中の人たちがこの絶望を知る義務がある、そう思いました。


だからわたしは本を売る。

今日も、本を売ります。




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