三服文学賞及び金魚屋新人賞落選作 連作俳句『旅は濤』
『旅は波』
驛驛に童子捨てゆく春の川
驛から驛岸から岸へかぎろへり
旅の吾を誰も知らずや貎よ鳥
抽象の宿に夜櫻生きてあり
さかづきの如おとがひを月朧
よぶこ鳥夢寐に聽きたる出湯かな
減衰はうしろ姿の蜃氣樓
異鄕にて鍵穴失くす貝合
藏書印捺されてありし跣かな
夏瘦の文字の窪みをなぞりけり
闇を夜を愛撫せしごと古茶焙ず
詩一篇いくたび裸身となりたるや
古酒の時を愛せり文連ね
心臟の海をかへしに鶴來る
冬濤の消してくるるや詩の書ける
さよならは窓拭くやうに息白し