オリガ・モリソブナの反語法(著:米原万里)【この読書紹介は読書紹介文学賞の第一回受賞作になるだろうね(反語的表現のつもり・・・み、みなさん、反語的表現ですよ)】
米原万里先生はお父さんが日本共産党のえらい人だったとかで、子ども時代になんとソ連圏に留学。チェコだったかな?
そこでの実話エピソードをまず小説として書いたのですが、これが(事実は小説よりも奇なり)という話。
その調子で実話っぽいけど創作のエピソードも書き始めました。
それがこちら。
ではあらすじ。
日本人の少女である主人公は、ソ連の小学校で子ども時代を過ごすのですが、そこで友だちもできます(明らかに著者自身がモデル)
その友だちと大人になって再会。
時はソ連崩壊からそれほど間が経ってない頃。
「そういえば変な先生いたよねー」
「いたねー」
「あの先生、いまどうしてるんだろう?」
「さすがに亡くなってるんじゃない。あのときにはもういい歳だったはずだし」
案の定、というべきか、その先生は行方不明になっていました。
ただ・・・ソ連崩壊のごたごたで、とかじゃない。
そもそもオリガ・モリソブナという名前で調べてみると、全然関係ない女医さんが出てくるのでした。
他にオリガ・モリソブナという先生はいないらしい。
おかしいぞ。
そうして先生を探す旅が始まります。
その旅はソ連の歴史、スターリン時代の秘密の闇へと下っていくのです。
オリガ・モリソブナ先生は年齢よりは老けて見えますが、身体は強壮。
そして記憶にある先生はダンスの先生ときている。
医学関係ないぞ。
さらに反語法とまで揶揄された独特の言い回しを使います。
例えば・・・
「ぼくの考えでは……だって。フン。七面鳥もね、考えはあったらしいんだ。でもね、結局スープの出汁になっちまったんだよ」
「メス豚に乗っかってから考える去勢豚」
彼女が濁声で「美の極致!」と叫んだら、それは強烈な罵倒。
「ああ神様!おお驚嘆!まあ天才!」といったら・・・
芸術的なまでの罵倒の数々で、日本だったら問題になりそうですが、ふしぎと生徒のウケは良かったのでした。女版GTOか。
本作はオリガ・モリソブナ先生の過去に迫るという形式のミステリです。
細い糸を追いかけて、主人公たちの知っている先生を追い求めていきます。
暗黒時代の誰も語りたがらない秘密の中に真実が隠されているはず。
はたして「オリガ・モリソブナ」先生はいったい誰だったのか?
そして何が彼女の身に起こったのか?
さらにソ連時代の様々な時代背景も一緒に出てきます。
アルジェリアという言葉の意味。
(そういえばアウシュビッツの方ではカナダという建物がありましたね)
雰囲気はめちゃめちゃ有ります。
しっとりとした雰囲気なんだなと思いきや、
真相に至ると白熱してカーテンの向こう側から読者を日焼けさせる熱量。
あちち!
知りたい、もっと先が知りたい、とページを繰る手を止められないでしょう。
そして先生はもちろん年齢的に亡くなっていますが、
それでも再会はできます。
砕かれて細かく分かたれていた、
数多の記憶がつながることによって。
文学としての条件をすべて満たし、なおかつ退屈には程遠いエンタメでもあります。
残念ながら作者の米原先生は早逝されましたが。
映画化・・・は、今は無理か。アニメ化かな。こいつは売れるぞ。
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