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アップフェルラント物語(著:田中芳樹)【「なあ、お前スキな女の子ができたときに胸を張って読書感想文が書けるか?」「例え間違ってない?」】

「ゼンダ城のとりこ」
と呼ばれる欧州古典小説がありました。
19世紀の小説です。
プリミティブなお話ですね。
ドイツの小国にやってきて、なんちゃら冒険する話。
映画化もされてたりするんですが。

それを元ネタに、欧州の小さな国を舞台に、
ジブリ的な冒険少年少女物語を、
田中芳樹先生が仕立てました。

***

時は19世紀から20世紀に切り替わるタイミング。
ドイツ帝国はウィルヘルム2世カイゼルの時代。
火遊びが好きというから。やたらと武威を誇る皇帝は、
お隣の小国、アップフェルラント王国を占領せんとする事件を引き起こします。

1904年ころだったかな?

アップフェルラントは、
ドイツ、ロシア、オーストリアの3帝国に挟まれた小国。
大国のバランス政策により緩衝地帯として残されていましたが。

↑ マンガ版もありんす。

***

一方でスリの少年は、いつも追いかけてくる警部に諭されながらも、
とある少女に出会ってしまいます。
しかも。
少女が悪漢にさらわれてしまう~!!

これはラピュタや、カリオストロを彷彿とさせる展開ですね。

少年はそうなったら、少女を助けるっきゃないでしょ。

悪漢には、謎の男装の麗人。
追いかける警部もイメチェンするとイケメン。
その追いかけっこに侵攻してくる帝政ドイツ軍が重なる。

なお本作は一作完結であり、その後の展開は、ありませんっっ!!

コミカライズやアニメ化もされてたのかな?
コミック版は読んだことありますけど。

またラピュタやカリオストロみたいに気宇壮大な背景世界があるわけでもない。
なんとなく最後は寂しくなるくらいに、日常に戻ってくる話でした。
ゼンダ城テーマを忠実にやると、こうならざるを得ない。

最初からこじんまりした話を書こうという趣旨だと思うので、
これはこれでいいのですが。
ジブリ作品みたいな壮大感をもたらすには、
作品世界を作るのみならず、深いテーマリングや哲学性も持たせなくてはいけないんですよね。

ラピュタやカリオストロも最後は日常に回帰しますが、
あちらはミヒャエルエンデ風のモラーリッシェファンタジーになっています。
視聴後感が違う。
観た人を心理的に成長させる作用があります。

アップフェルラントはそれに比べると、
楽しい物語で日常の疲れを吹っ飛ばす程度。
ちょっと寂しい。

ただ歴オタには当時の欧州が美味しいので、
一読の価値はあると思われます。
ドイツ軍中将とアップフェルラント女王との丁々発止は、
さすがは時代小説の書き手といった風。気負い充分です。



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