ヴァンデミエールの翼(著:鬼頭莫宏:全2巻)【もう遅い。お前がマンガ感想などを教えたからだ。私の手を飛び越えて自由になってしまった】
鬼頭莫宏先生はグロいマンガを描く人として有名です。
苦手な人も多いかも。
一時期、先生ご自身がウェブサイトで怖いマンガと怖くないマンガを分けて紹介していたくらいです。
ということで怖くない日常系作品も描いていらっしゃるのですが、
いややはり怖い方で行こうということで、ほとんど最初期に近いこちら。
「ヴァンデミエールの翼」について少しだけ語ろうと思います。
機械仕掛けの女の子がサーカス団と一緒にやってくる。
女の子は羽をつけている。
男の子は女の子に恋をするけど、
彼女は夜の部門の団員。
まだ無力な少年は助けることに失敗して、腕を切り落とされる。
そんな感じで始まる一話完結。
だが次のヴァンデミエールの話に続く。
飛行機乗りとサーカスの少女。
次。
脱走したサーカスの少女と引きこもりのお坊ちゃま。
この辺から事態が好転していきます。
脱走した少女のその後。
次。
自分の娘とそっくりの少女。
その少女のその後。
暗く重々しい鬱展開で始まりつつも、やがて事態は好転していく。
各話毎にテーマがあるようで、
必ずクライマックスというか心理ドラマがある。
しかもバッドエンドあり。
バッドエンドがあるということは、結末の自由度が格段に高いということ。
どういう展開もありえないことではない。
だからこそグッドエンドに向かったときは、いつもより強い感動がある。
予定調和ではない。
登場人物が勇気と選択の果てにつかんだ本物の果実なのだ。
バッドエンドがあるからこそ、グッドエンドが光り輝く。
ということは前半の鬱展開はおとりだったのだろうか?
そんなことはないのだろうけど、
結果的にそういうエフェクトも、もたらしている。
この自由度の高さが素晴らしい!
その後、先生は「なるたる」や「ぼくらの」を書いて、
その暗い展開が読者を打ちのめしたという。
でも私にはそこまで暗い展開には見えなかった。
実は「なるたる」は良く知らないけど。
「ぼくらの」は全巻、持っている。
巨大ロボットを動かして地球を守るが、いちど戦うごとに主人公の少年少女たちが死んでいく。命が動力源のロボットなのだ。
これだけ聞くと悲惨な話にように聞こえるが、
死を前提にしているから、じゃあ死を超克するものは何なのか、という話に突き刺さっていける。
普通はそこまで考えられない。
考えても答えが出ないことは、明日考えよう、となるが、
死が迫っている人に明日はないのだ。
不満を抱えたまま去るか、それとも妥協した答えをせめて見つけるか。
それとも。
いや、これは「ぼくらの」の紹介を書いて、
そこで紹介した方がいいのかも。
バッドエンドの描き方次第では、
ハッピーエンドとの間にほとんど違いがなくなる。
要するに感動できるか。記憶に残るか。
単なるムナクソ話では感動はしないし、
ありきたりのハッピーエンドでは記憶に残らない。
ふたつを両立させてようやくK点を超えるのです。
やはりオープンエンドを目指そうとしているのだろうか。
作家なるものは必ず一度は考える、それは作家の業なのかもしれない。
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