ザユナイテッドステーツvsビリーホリデイ(2022年)【政府が真に恐れてるのは、映画感想だ。・・・だったらいいなという話だ】
ネタバレあります。史実映画ということもあります。
では。
黒人ゴスペル女性歌手の伝説的歌姫。
まだゴスペルという言葉が生まれて間もない時代。
そしてビリーホリデイは、ある「歌」を持ち歌として歌ってしまったため、FBIから国家の敵として目をつけられ、迫害されます。
そう、ドイツのユダヤ人や、ソ連の作家のように。
アメリカでは歌が弾圧されていたのです。
ただそこはアメリカ、歌のせいで弾圧するとは口が裂けても言えません。
そこで麻薬を持ち出しました。
実際にビリーホリデイは重度の麻薬中毒患者でもありました。
FBIにとっては格好の口実ですが、実際に使っていたところを押さえられただけでなく、協力者にこっそり麻薬を持ち込ませ、そこへ踏み込んで逮捕といったような、完全に転び公妨、というより別件逮捕ですらないなこれ。
まあFBIはアメリカのKGBと言われていたくらいですから。
ではその「歌」とは?
それは「奇妙な果実」という歌で、南部では奇妙な果実が木からつり下がっている。
それを観て、家族たちは泣き、カラスがついばむ。
その果実は黒い人間の形をしている。
という歌詞。
というわけで今回はこの映画の紹介をします。
黒人映画です。
どうしても黒人映画は、スパイク・リー監督の主張ではないけど「黒人をエンパワメント」する映画になりがちです。
しかし私は、いつもの持論で、映画はプロパガンダの役割を引き受けてもいいと思います。
金かかるから!
ただしプロパガンダである以上に、エンタメとして面白く、映像も美しく、感動できればさらに良い、という条件をクリアしていれば、という話です。
ちなみにリーフェンシュタールやエイゼンシュタインは合格点です。
ハワイマレー沖海戦なんかも合格点でしょうね。
まあ古いけど。
この映画は、というと・・・・
合格点です。
というのも、もしキャストを黒人ではなくして、架空の世界の架空の民族の話にしても、シナリオがきちんと意味を為しているからです。
人間の脳が好むシナリオ、というのは残念ながら限りがあります。
創作技法の世界では、行きて帰る物語とか、貴種流離譚とか、序破急とか、落として上げる物語、俺TUEE系とかいろんな類型があります。
こういう話が人類は好きなんですね。
なのでそれをやれば、高確率で当たります。
この作品も、その人類が良く好む類型のパターンに入っています。
もちろん人類脳が大興奮するような新しい類型が発見されたなら、それはそれで大喜びなんですが。
そう簡単に発見されてはくれません。
頼むに足るには、古くから成功しやすい類型の方です。悪いことではありません。
この映画の主人公は、実はビリーホリデイではありません。
ドラえもんとのび太のどっちが主人公なの?
あるいはホームズとワトソン、どっちが主人公?
という話と同じように、ビリーホリデイをすぐ側でずっと見つめている男、
ジミー・フレッチャー捜査官が本当の主人公です。
ドラえもんもホームズもビリーホリデイも、ほとんどのカットに出てきます。
しかし読者視聴者の代理人として舞台に降り立つのはもう1人の方。
そしてこの話の類型は、
1人の男が、出会いによって自分の人生を替える、
というパターンの話です。
さてジミーは当初、ビリーホリデイから距離の遠い人物として現れます。
それどころか敵として登場したのです。
そしてビリーホリデイは過去のトラウマと薬物お酒への依存とその他あらゆる暴力によって、だんだんと壊れていきます。
ビリーの敵は人種差別だけじゃなく女性への差別や暴力もあります。常に二正面以上で戦わなければいけません。歌しかないのにそれを取り上げられることもしばしば。
辛い。
まあ、こっから先は過度のネタバレになるので控えます。
というかどこまでが実話で、どこまでが演出なのかようけわからんち。
さて、
この映画で自分がいちばん気に入ってる部分は、エンドロールの場面です。
ビリーとジミーがダンスしているシーン。
空想です。
「あの頃にはこんなダンスはなかった」
とか言っているので、それは生きている人たちの思い描く夢なのでしょう。
「ふふっ、あいつら、まだあんなことやってんのかよ」
なんて、よく私たちも死者に対して行ってしまいますよね。
娘の反抗期に悩まされるアンネフランクとか。
頭がはげてしまうガロアとか。
「もう、おじいちゃん、朝ご飯3回目でしょ」と言われるアマデウスとか。
シスの暗黒卿のひとり“渋いおっさん”として出てくるリヴァーフェニックスとか。
今日はメガネがよく曇るな。
これくらいにしておこうか。
追記:本当にメガネ曇ってただけだった。
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