【ファクトチェック】「オーガニック」な有機栽培野菜は本当に身体にいいのか?調べてみた
「オーガニック」と聞いて何をイメージするだろうか。自然を重視して作られた身体に優しい野菜だろうか。農業に造詣が深くなければイメージ先行しても仕方がないが、公的な社会的役割を持つマスメディアがイメージだけで記事を書いてはいけない。先日、そんな例を見た。
ことに気付くきっかけになったのはX(旧Twitter)のこのポストだ。
マスメディアが記事か何かを削除したのか?誤報訂正も出さずに?それはまずいのではないか。これはきちんと確認せねばと調べ始めた。
まず分かったのは中京テレビNEWSのX(旧Twitter)アカウントで一度ポストされたものが削除されたらしいということだ。
削除されたポストのURLは分かっている。こちらだが、もう存在しない。
https://x.com/ctv_news_nnn/status/1871871192111649126
こちらだが、SITO.(シト)氏のポストによるとコミュニティノートが付いたという。コミュニティノートの内容はSITO.(シト)氏のポストにあるスクリーンショットで確認できる。記事内容に疑問を呈する内容だ。
中京テレビNEWS側がなぜX(旧Twitter)のポストを削除したかの理由は釈明が見当たらないため不明のままである。
ただコミュニティノートで指摘された内容が記事内容に反映され、記事初出時から更新されて内容が変わった。
記事初出時はこちらの内容だった。
更新時はこちらの内容に変更された。
変わった箇所は以下の2箇所。
まずタイトルが
「岐阜の保育園で毎日約800食の『オーガニック給食』を提供 便秘やアトピー症状が改善したという報告も『大人になったときに、自分で体に良い食べ物を選べるように』」
から
「岐阜の保育園で毎日約800食の「オーガニック給食」を提供 『大人になったときに、自分で体に良い食べ物を選べるように』」
に変更された。
また本文から以下の箇所が削除された。
「担当者によると、オーガニック給食の導入後に、園児の便秘やアトピー性皮膚炎の症状が改善したという報告があったということです。同じ給食を食べている職員からも、生理痛や肌荒れが落ち着いたという声が上がっているといいます。」
「便秘」「アトピー」「生理痛」「肌荒れ」が改善するには、給食に出された食物に何らかの薬効があったということになる。今回は「オーガニック」な給食を出したとのことなので、オーガニック、「有機農業」による野菜などによる薬効があったかどうか、というところが焦点になる。
実際に薬効があったどうかについて、記事から該当箇所が削除されたということは証左がなかったということと言えるだろう。それでも更新後の記事のタイトルには「大人になったときに、自分で体に良い食べ物を選べるように」という言葉が残されている。様々な言葉の関係性を見るに、「体に良い」のは「オーガニック」な野菜などを指していると思われる。
ここでまず「オーガニック」という言葉に着目してみたい。日本では「オーガニック」という言葉について明確な定義付けはない。ここで農林水産省のページを見てみたい。
この「有機農業とは」のトップページには「オーガニック」という用語も出てくるが(「オーガニックビレッジ」など)、「有機農業の推進に関する法律」と法律にある通り公式な言葉としては「有機農業」となる。
有機農業の規定(簡単に言うと化学農薬や化学肥料を使わず自然界の力で生産されたもの)を満たして栽培された野菜類は「有機JASマーク」を付けることができる。「有機JASマーク」がないものに対しては「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されている。
有機JASの詳細についてはこちらおよびこちらを参照されたい。
中京テレビNEWSの該当ニュースについて、納入された野菜類が「有機JASマーク」を付けていたのかどうかは不明である。つまり本当にオーガニックな野菜だったかどうか、分からないのだ。オーガニックである根拠は不明である。
もうひとつ着目したい点がある。記事更新時に削除された「担当者によると、オーガニック給食の導入後に、園児の便秘やアトピー性皮膚炎の症状が改善したという報告があったということです。同じ給食を食べている職員からも、生理痛や肌荒れが落ち着いたという声が上がっているといいます。」と、更新後のタイトルにも残っている「大人になったときに、自分で体に良い食べ物を選べるように」という部分である。
この2箇所は、要約すれば「体調が改善する」ということになる。記事の流れとしては、「オーガニックな農産物を導入した給食を食べたら体調が良くなった、大人になっても体に良い食べ物を選べるように」ということになるだろう。
果たして有機農業による野菜類に体調を良くする効果はあるのか?
これについてはこちらの論文を参照したい。
栽培条件(有機栽培と慣行栽培)の違いによる葉物野菜の栄養成分と官能特性
野菜によって体調が良くなるには栄養成分が優れていることが必要になる。論文の最も重要な部分を抜き出すと「有機栽培と慣行栽培による野菜に優位な差は認められない」となる(「慣行栽培」とは簡単に言うと化学肥料や化学農薬を使用した栽培のこと)。つまりオーガニックな給食を食べたから体調が良くなった根拠は無く、「体に良い」という根拠もない。
野菜そのものは食べることで食べないより体調が良くなることはあるだろうが、それが有機栽培か慣行栽培か、どちらの野菜であっても優位な差は現れないだろうということになる。
日本政府は今、有機農業の裾野を広げようとしている。詳しくはこちらを参照されたい。この一環で今回の給食が実施されている可能性は否定できないが、これにより体調が良くなったということについては根拠不明と判断したい。
中京テレビNEWSの該当ニュースについては、初出時はタイトルと内容が根拠不明、更新後はタイトルが根拠不明となる。