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『The Last of Us PartⅡ』ゲームに没入させるライティングと色のテクニックを考察する

ども、ルンバです。

今回は私の好きなゲーム「The Last of Us Part2」について、
ゲームCG制作者の目線から、
「ゲームに没入させるライティング&色のテクニック」というテーマで
語りたいと思います。

私がラストオブアスで素晴らしいと思った点は2つありまして。
1つめは「マップがないのにあまり迷わずにすすめること」
2つめは「ストーリーにすごく感情移入してしまうこと」でした。

ストーリーには賛否両論がありますが…今回はそこには注目せず、
このゲームに没入感できるのはなぜか?という点に注目してお話します。


※発売されて大分立ちましたが、ネタバレを含みますのでご注意ください
※はてなブログの記事を書きなおしたものです

なぜラストオブアス2はマップが無いのに迷わずにゲームを進められるのか?

私はゲームをプレイするのが大好きですが、
ゲームをしていてストレスを感じるのが、「どっちにいったらいいかわからない時」です。

ストーリーが良くても、戦闘が良くても、移動で迷ってしまうとすごくゲームの印象が悪くなりませんか?
「迷わずにゲームを進められる」というのは
ストーリーや世界観に没入できる1つのポイントであると思っています。

迷う迷わないの話をするときに、
ミニマップの有り無しが話題にあがったりしますが、
デザインの質が悪ければ、ミニマップがあっても迷うことがあります。

しかし、Last of Usの開発会社であるノーティードッグのゲームは、
ミニマップもマップもないのに、あまり迷うことがありません。

いったいどうやってプレイヤーを進行方向に導いているんでしょうか?

答えは、ノーティードッグのゲームには
以下のテクニックが使われているからです。

・色と状況の紐づけ ~色を限定する~

・ライティングでの誘導 ~光に向かって進む~

誘導についてこの2点に分けて考察していきます。

色と状況の紐づけ ~色を限定する~

ラストオブアスの前に、まずノーティードッグの代表作、アンチャーテッドの例をみてみましょう。

誘導イエローの例

このシチュエーションは、
「扉はあかないので、脇の石を使って上に上ってほしい」
というシーンです。

通常ですと、どうしても扉に視線が行ってしまいますよね。

しかし、ノーティードッグのゲームは「黄色=誘導」の色として使われているので、かなりわかりやすくなっています。

逆に、この黄色(誘導イエローと呼びましょう)を生かすために、
同じ黄色は他にはほとんど使われていません。

ここでポイントなのは、
黄色を誘導にするというルールをゲーム全体通して徹底することです。
そうすることで、初めてこのゲームをするプレイヤーも
すぐルールに気づくことができるようになっています。

ラストオブアス2でも誘導イエローはもちろん健在です。

それ以外にラストオブアス2では
「危険レッド」と「癒しブルー」も意味のある色として使われており、
イエローだけが目立ちがちになっていたアンチャーテッドより、
より自然な視線誘導ができています。

危険レッドの例

ラストオブアスの危険レッドは、「キャラクターが敵対する組織のエンブレム」に使われています。

危険なイベントが起こる扉は赤、危険な通路は赤く照らされています。
赤=「危ないことが起こるぞ」という誘導アナウンスになっています。

この鉄塔渡りのシーンは特に道には迷いませんが、
赤を使うことで「危険な場所にいる」という、キャラクター心情を表しているといえるでしょう。

癒しブルーの例

今作でのブルーは、上の誘導イエローや危険レッドに比べると、ポジティブ
な意味を含む青、ということで癒しブルーと呼ばせていただきます。

たとえばこちらは町の中の本屋なのですが、この店の中にはエリーをパワーアップさせる「本」というアイテムがあります。

まあ敵も多少いるんですけども…
赤とは逆の色を使って、ポジティブな誘導がされていると思います。


また、ブルーが特に効果的につかわれているのが水族館の例です。

ここはアビーという主人公キャラクターが、
安心して過ごせる場所になっています。

ここも、敵組織の赤と対極のブルーを強調することで、
癒し空間である事が協調されていると思います。

今作ではこうした自然なカラー誘導が随所に使われており、
自然にプレイヤーが誘導されます。

こうして迷わずに世界を探索できたり、危険や安心を予見できる事で、
よりストーリーや戦闘を楽しめる仕掛けになっているのだと思います。

自然にプレイヤーを導くライティングテクニック

ラストオブアスのがミニマップがなくても迷わない秘密は、
色の誘導と、もう一つはライティングによる誘導です。

ラストオブアス2ではマップがないのに、
大きな町を探索するシーンが何度かあります。

1つはエリーというキャラクターがテレビ局を探すシーン、
もう1つはアビーというキャラクターで水族館に行くシーンです。

両者はマップが無いのはもちろん、目的地までの道のりも
単純ではありません。
建物に入ったり登ったり…もちろん敵も出てきますし、
かなり複雑なルートを辿ることになります。

しかし、マップがなくても明確なナビがあるんです。
それは太陽の方向に向かって進む事です。
たとえばアビーが水族館に向かうシーンでは
「夕日の方向に水族館があるわ」という発言があり、
太陽というどこから見ても方向がわかるものがナビとなっています。

光源がコンパスの役目を果たしているんですね。

Follow the Light ~光に向かって進む~


以下例を見ていきましょう。
最初の森でも太陽誘導が使われています。
プレイヤーは明るい方向に進むと、自然に森を抜けられるようになっています。

テレビ局のケースどうでしょう。
テレビ局も光源方向に進んでいくとたどり着くことができます。

また、ゲーム制作者の視点からみると、
目的地を太陽方向にするとわかりやすい以外に
もう一つメリットがあります。
近年のリアルなライティングのゲームは、
ライトシャフト(隙間から差し込む光の筋)や、レンズフレアといった光の演出が使われるのですが、これらは画面内に太陽がある場合のみ発生します。太陽を追わせることで、製作者側としても美しい情景を作りやすくなります。

私が探索パートで一番すきなのは以下アビーというキャラクターが水族館に向かう所です。

夕日を追うことで、印象的できれいな光の情景を
しばしば見ることができます。

わかりやすくて、風景もきれいに見えるなんて、一石二鳥ですね!

また、これ以外でも地下道や洞窟などは、
必ず出口方向があかるくなるように設計されています。
人間はそもそも明るいところに向かいたいという原始的な欲求がありますから、色の誘導よりさらに自然な誘導といえますね。

こう説明してみると、なんだか当たり前の事を言っているような感じがしますが、しっかり意識的にやっているゲームって意外と少ないです。

ひと昔前、PS3ぐらいのゲームだと、
「光を当てないと暗くなってしまう」ので、とりあえず明るくしておけばいいという風潮があったように思います。

しかし、PS4、5世代ではハードのスペックが上がった事で、
高度な間接光表現ができるようになり、
暗いところでも微妙なニュアンスをだしたりできるようになりました。
明るくするだけでなく、明るいところと暗いところの使い分けができるようになったということです。

ラストオブアスの事例をみると、
光源の方向が非常に重要な役割を果たしていることがわかります。
もし作り手の方で、なんとなく光源を決めてしまっている…という方は、
是非ラストオブアス2のライティングを参考にしてみてください。

技あり!誘導ライト

もう一つ、私がこのゲームで地味に感動したライティングを紹介します。

この場面は、
①布がかかった台の上に上り、
②その後ロープによるターザンで反対側の窓から抜ける
というプレイヤーに複雑な動作をさせる箇所です。

ここのライティングがすばらしいのです。
別角度から見ると、
①の台と、②のターザンのルートを誘導するように光が当たっています。

この場所は上にドーム型の天窓があり、天窓の光が落ちているのですが、「この位置に光を落としたい!」という明確な意図を持ってやらないと、
偶然でこんな都合よく光は落ちないと思います。

別の方法として、台をあからさまに誘導イエローにすることもできたとおもいますが、このシーンは背景の光を生かすことで、自然でより美しい誘導になっていると感じました。

ビジュアルでストーリーを強調する ~ハリウッドのライティング手法~

海外の映画のライティングの考え方で、
その場面の感情と、ライティングの色(=画面の色)を完全に一致させる、という手法があります。

たとえば、
ロマンティックなシーンは夕暮れでオレンジやピンクの画面にしたり、
戦いの場面は雷鳴とどろく雨の中でダークな画面にする、
といったような具合です。

日本映画でもそういった手法はもちろん取られていますが、
ハリウッド映画はそういった気配りが徹底されています。
海外のAAAゲームタイトルはハリウッド手法と同様の理論で
作られるので、
ゲームでも感情とライティングを紐づける手法がとられます。

(詳しく知りたい方は↓伊藤先生の講座がおススメです)

邦画、和ゲーだと、
シリアスな戦いなのにきれいな青空…というのも時々見かけますが、
ラストオブアス2ではそういったミスマッチは一切ありません。

・安心と希望:温かみのあるオレンジの光
・恐怖と怒り:赤
・不穏:グレー

この3つが全体でしっかり使い分けされています。

この3つの色設定はオーソドックスなので、
赤は人間の本能で「怖い色」として感じる方が多いでしょう。

もしそう感じない人がいても、ゲーム内で何度も繰り返し行うことで、
「赤い色の時は怖いシーンだから、赤は怖いシーンなんだろう」と
無意識に刷り込みを行うことができます。

もちろん、ストーリーを伝える直接的な要素は
キャラクターの演技とセリフです。
しかし、そこにライティング演出をプラスすることで、
より強くストーリーを表現することができる
のです。

いくつか例をみてみましょう。

安心と希望:温かみのあるオレンジの光

オレンジの光の例です。
これらは主人公エリーが心の安らぎを感じるシーンです。



上から「恋人とダンス」、「楽しい誕生日」、「家族と住む家」です。
まったく違う絵ですが、オレンジの温かい色味は共通しています。

不穏:グレー

これについてはわかりやすいのが農家のシーンです。
上のオレンジの農家と、下のグレーの農家と比べてみましょう。


こちらは、物語のエンディング、「家族がいなくなった家」です。
これは絵の構図は同じですが、空は曇天で、白黒のような味気ないイメージになっています。

こういった天候操作は偶然ではなく、ライティングアーティストが
ストーリーに紐づけて意図的に行うものです。

Lastofus2は、不穏/不安なシーンが多いので、全編を通して曇天、雨、夜、などのグレーなシーンが多用されています。

重苦しい場面が多くてプレイヤーとして疲れる部分もありますが、
その反面、ドラマティックな夕方や、きれいな晴れのシーンが、
特に印象的なものとして感じることができます。

主人公エリー、アビーの幸せな回想シーンは、双方とも晴天となっており、
さわやかな思い出という印象で残っていると思います。

恐怖と怒り:赤

最後に赤についてみてみましょう。

こちらは地下鉄のシーンですが、敵が多く難易度が高い場所では
こういった赤ライト演出がされているポイントがいくつかあります。

また、ストーリー的にも恐怖や怒りの感情が爆発するシーンは
必ず赤が使われています。

最後のカットは、主人公二人の決闘のシーンなのですが、
勝者の赤い影が敗者の上に覆いかぶさり、
ライティングによって両者の関係があらわされている、
とても印象的なシーンです。

これらの赤いライティングですが、
ラストオブアスでは感情が際立つ箇所で使われているので、
逆に言うと他のシーンでは一切使われていません。

赤い光というのは、地下シーンの非常灯などで、
現実では意外と普通にあるライティングです。
以前プレイした某和ゲーでは、特に感情とは紐づけずに、
地下施設で赤いライティングが普通に使われていました。

もちろん、地下のカッコいい赤い光源という使い方も
アリといえばアリなのですが、
プレイヤーに強くストーリーを印象付けたいのであれば、
色の使い方を限定したほうが、効果的なのは間違いないでしょう。

Last of us2のライティングが伝えたかった事

最後に、以下のシーンを紹介して終わります。

上の赤いライティングの決闘シーンから数年後、
二人が最後の戦いをするシーンです。

このシーンでは赤いライティングと打って変わって、
グレーの濃霧の中で白黒映画のような色彩で表現されています。

このシーンでは、片方のキャラクターは戦意を喪失しており、
もはや怒りすらない、復讐の虚しさ、不毛さ、悲しさが
ライティングでも表現されているのです。

このゲーム、「鬱だ」とか、「虚無感がある」、という意見が沢山あり、
鬱だから面白くないという意見も一つの意見だと思うのですが、
このライティングをみても、ノーティードッグの表現したかった事が
まさに「復讐の不毛さ、虚しさ」だと思うのです。

なので、「鬱だから糞ゲー」「虚無感を感じるから面白くない」という評価は、ある意味ノーティードッグのメッセージが強く伝わりすぎてしまっている…とも言えますね。

私もプレイした後、他の結末はあり得なかったのか?と、数日考え込んでしまいました。
全然さわやかなプレイ感ではありません。エンタメにしては重すぎます。
でも、すごく心に残る作品になったことは確かです。

私はノーティードッグがこのゲームを通して、
私たちにこのストーリーを伝えてくれたこと、
いろいろな事を考えるきっかけを与えてくれた事に、
感謝したいと思っています。

そして日本のゲーム制作現場からも、こういった素晴らしいストーリーテリングができるものを生みだしたい!と、
一人のゲーム制作者として精進しなければと思ったのでした。

以上、こんな長々とした文章を最後まで読んで頂き
ありがとうございました。

この考察が、ゲームデザインにおける色使い、ライティングについて考えるの参考の1つになれば幸いです。


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