【映画】台北暮色 強尼・凱克/ホアン・シー
タイトル:台北暮色 強尼・凱克 2017年
監督:ホアン・シー
台湾ニューシネマの巨匠ホウ・シャオシェンをエグゼクティブ・プロデューサーに迎えた、ホアン・シーのデビュー作。ウォン・カーウァイの影響も感じさせるカラフルな色合い(村上春樹っぽい不条理さも含め)が台北の街並みをリリカルに描く。とにかく間や映像の中のアトモスフィアと、エレクトロニカっぽいアンビエント調のサウンドトラックが調和していて、全体がアンビエントの様な映画に仕上がっている。音楽はビー・ガンの「ロング・デイズ・ジャーニー・イントゥ・ザ・ナイト」でも印象的な音楽を奏でた林強と許志遠の二人で、それだけでこの手の映画が好きな人にはたまらないと思う。
三人の男女がなんとなしに出会い、共に過ごすだけの時間を切り取っただけの映画なのだけれど、三人のバックグラウンドは多くは語られない。両親の離婚や、遠く離れた場所で暮らす娘、父残家族の不和など断片的に出自は語られるものの、物語に大きな波を生み出す程ではない。しかし、それぞれの人物が抱える孤独感や、距離が近いほど仲が悪くなるといった台詞などからも分かる通り、近いようで遠い距離感のまま保たれる。三人が恋愛関係になるわけでもないし、三者で抱えるあいまいな感情が画面のアトモスフィアと重なり合って親密な空気を生み出している。
動く被写体に対して、意外と落ち着きなくゆっくりパンするカメラワークや、ロングショットで橋や街並みをじっくりと映し出す。キャラクターと同等に台北の街が四人目の主人公とも言える。雑踏を映し出しながらも、ある種の静かさも内包していてまさにアンビエントな雰囲気が醸し出されていた。
ユーモラスで軽さもありながら、どこか自身の立脚点が見出せない人々の孤独感が強く心を揺さぶってくる。熱帯の暑さの中にある冷ややかな空気の存在感は、人と人との距離感を感じさせながらも瞬発的に距離が縮まる瞬間がある。ラストの立ち往生からエンドロールへの流れの中で、ロングショットでキャラクターはフレームアウトしながらも延々と車の流れを追う。過ぎ去る車の後ろ姿を目にした時何故か涙ぐんでしまう。特別なドラマを見せなくても、ある人生の一瞬の時を切り取る美しさがこの映画の大きな魅力だと思う。
先日観た「シスター」で物足りないと思っていた表現がこちらには存分に含まれていた。それは街という巨大な存在が、孤独に暮らす人々の心情を映し出すものでもあり、それを描くか描かないかで大きな違いが生まれる。
80年代に華開いた台湾映画の今後も、こういった映画を観ると楽しみになってくる。個人的にはかなり好みの映画だった。