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【聴書感想文】短編集:富士山/平野啓一郎 (著)
平野啓一郎氏、10年ぶりの短篇集。
サイン会開催やインタビューがネットに上がっている。
平野啓一郎氏が書く小説は、あらすじや意図が予め頭の中に明確で、文字にした後はその表現に無駄が無いかを十分遂行したうえで上梓しているように思う。
平野啓一郎さんの最新刊は、「些細なことで人生が変わる希望」をテーマに編まれた短篇集「富士山」。マッチングアプリで出会う男女、大腸がん検査を受ける中年男性……。身近な題材でありながら、読み進めるうちに思索の森へと誘われる。自身の〈第五期〉に入るための実験的作品集だという本作について聞きました。(文:清 繭子、写真:松嶋 愛)
まだ本書を手に取しておらず、興味のある方は短編全5編を公式サイトで試し読みできる。
聴書感想文
読書感想文ではなく聴書感想文。
Amazon から 2か月間 Audible無料の通知があり、初めてAudibleで本一冊分を聴いた。自宅だと眠気を誘い、通勤時等に聴くのが適している。
以下は聴書による備忘。文字で読むとまた違った感想になるのかもしれない。
「富士山」
――結婚を決めた相手のことを、人はどこまで知っているのか。©2024 平野 啓一郎 (P)2024 Audible, Inc.
物語としてはこの短編が一番興味深かった。
古典的に捉えれば「男女のすれ違い」。今風には「相手と自分の価値観はマッチングアプリでは分からない」。
本短編集は昨今の世相(「コロナ禍」「列車内殺人」「ガン検診」「無差別殺人」「カスタマーハラスメント」)を反映させており、楽しい話は出てこない。閉塞感が漂う今の日本が舞台。
最後の短編の最後の一人以外、どの主人公も心が狭い。
現実も日々流れてくるニュースに出てくる「(誰もが心の中の)時間に余裕が無い」ように見える。「無駄のないコンピュータのスピードが律速となった社会」に多くの人が焦りを感じているのかもしれない。
「息吹」
――かき氷屋が満席だったという、たったそれだけで、生きるか死ぬかが決まってしまうのだろうか?©2024 平野 啓一郎 (P)2024 Audible, Inc.
著者が最近受診した大腸内視鏡検査が、詳細に記述されている。
作家といえども経験に優るものはない、といったところか。
主人公の中で「かき凍屋」と「マクドナルド」がリフレイン。
パラレルワールドが続き、最後は異次元に行ってしまったのだろうか?
「鏡と自画像」
――すべてを終らせたいとナイフを手にしたその時、あの自画像が僕を見つめていた。©2024 平野 啓一郎 (P)2024 Audible, Inc.
死刑を望む主人公の頭の中。
著者が主張する「死刑廃止論」につながりを感じる。
「手先が器用」
――子どもの頃にかけられた、あの一言がなかったら。©2024 平野 啓一郎 (P)2024 Audible, Inc.
自分が親になって子供に気づかされ、自分が子供のころの親のことを考える。
「ストレス・リレー」
――人から人へと感染を繰り返す「ストレス」の連鎖。それを断ち切った、一人の小さな英雄の物語。©2024 平野 啓一郎 (P)2024 Audible, Inc.
「ストレス・リレー」はこの本の中で一番実験的なことをやってみたんです。それは〈小説外〉の人物の感情をすくいとること。小説内の喜怒哀楽って、基本的には主要登場人物との関係性の中でしか語られない。主役と脇役との。
だけど、それってウソだと思うんですよ。本当は主要登場人物に満たない人間との、つまり小説の外部の人間との関係の中で揺れる感情があるはずです。だけど、小説や舞台、映画が登場人物間の感情しか描いてこなかったから、僕たちは相手がムッとしているときに、自分に原因があるのではと考えてしまう。本当は、たまたま寄った店の店員に嫌な態度をとられたからかもしれないのに。
以前、ドラクロワという実在の人物の日記に基づいて小説を書いたことがありました(『葬送』)。そのときも、小説のラストに差し掛かっても実際の日記には毎日のように新しい客が訪ねてきて、ドラマのうねりとは関係ないやりとりをしていくんです。でも、それを全部書くと収拾がつかないから、ないことにする。この小説の〈嘘〉が気になっていたんです。だから今回は、継続的な関係のない人たちの間での感情の揺れ動きを書いてみました。
自分が書いた小説の「嘘」が気になっているところは彼らしい。
読んでいて(聴いていて)とても面白い小説。
パラレルではなくシーケンシャルに話は進むが、その舞台は関連のない別々の場所。
このようなスタイルの物語が一般的になれば、小説・コミック・映像では表現が足りず、新しいメディアが必要になる気がする。
脳内に直接働きかけるような…PKDの世界。
MOH