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Strangers of Patience(邦題:美しすぎる裸婦)美しい映像が主人公/ロシアのしつこい写真家は要注意…

「映像が綺麗」な、映画だと思う。

それだけだと飽きが来るので、Amazon で一番濃いレビューどおりの映画なのかを確認するために見続けた。


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・原題:Странники терпенья(和訳は「忍耐の放浪者」)
・英題:Strangers of Patience
・制作国:ロシア
・制作年:2018年
・監督・脚本・原作:ウラジミール・アレニコフ
・原作:原題と同名の小説(ウラジミール・アレニコフ著)
・日本では劇場未公開

本作で主演女優のマジャ・ゾパは、2018年のモントリオール世界映画祭で栄えある主演女優賞を受賞されましたし、制作国ロシア国内の映画祭でも本作で主演女優賞を受賞されてます。
本作はロシア映画ではありますが、彼女はポーランド生まれで制作年の2018年当時は25歳です。
ポーランド生まれではありますが彼女の主な活動拠点はロシアで、ロシア国内のTVドラマには多数出演されてます。
映画としては本作がデビュー作で、映画デビュー作で初主演を果たし、そして見ての通りの迫真の演技で上記の栄えある賞を受賞されました。

さて、本作の中身は「狂気の写真家 vs.聴覚障害を持つ舞台女優」って構図ですね。
アンドレイは名も顔も知られた写真家で、自身の個展に顔を出せばみな異口同音に手放しで賛辞を述べてくれますが、それら自身に向けられた賛辞はホントに心からそう思っているのか?
気になったアンドレイは白髪交じりの長髪のカツラを被り、サングラスを付け、帽子を被り、わざと不潔な服装で自身の個展へ行き、アンドレイとは気付かれないよう客のフリをしながら他の客の本音に耳を傾けます。
おべっかではなく公正な判断で称賛されたいアンドレイは、聴覚障害者でありながらも素敵なパントマイムで観客を魅了する舞台女優のマリーナと出会う。
アンドレイはマリーナの美しさに魅了され、彼女が聴覚障害者であることを利用し狂気の方法でマリーナを支配し続けながら公正に認められる作品づくりを進める。
アンドレイのお気に入りのカメラは今やすっかり主流となったデジカメではなく、フィルム式カメラであり、一応デジカメは持っているもののデジカメはあくまでもサブであり、あとはプライベート用として持っているだけ。
あれだけヒドいことをされ続けてきたマリーナでしたが、最後は知恵を絞ったマリーナの勝利でホッとしてThe End・・・のはずでしたが・・・。
アンドレイが逮捕された後、マリーナはフィルム用カメラの前でポーズを決めたり、唇に手をやりながら笑顔になったり・・・。
そして、個展用ではなくプライベート用に撮ったアンドレイのコレクションをPCで見た途端、マリーナは坊主頭も隠さず下着姿のままアンドレイの乗ったパトカーを追いかけます。
一瞬、私は「ん?、ストックホルム症候群?」と思ったのですが・・・。
ストックホルム症候群の側面もありますが、本質はそうではありません。

実は彼女、聴覚障害者ではなかったのです。
マリーナは口から発する言葉でのコミュニケーションが苦手なだけだったのです。
その事実をアンドレイはほぼ最初から見抜いていたのです。
彼女とアンドレイが初めてコンタクトしたコーヒーショップで、彼女は聴覚障害者であることを筆談で「(相手の)唇が読める」と伝えてましたが、アンドレイ宅に着いたマリーナは一緒に2階へ上がる時や縦に並んでアンドレイの唇が見えない状況で会話してる時、マリーナはアンドレイの唇は見えなくて話しの内容は不明のはずなのに首を振って返事をしたりスマホやメモで筆談するシーンが何度かあります。
それに、自身の周囲で異常音がするとマリーナには聞こえてないはずなのに、マリーナはその音に体がほんの一瞬だけピクッと反応するシーンがあります。
(注意深く見てるとケッコーあります)
アンドレイの唇が見えない所でマリーナは言葉を発しての返事こそしませんが、後になってから2人が対面してから、アンドレイはマリーナには見えてなかった唇の部分の話しをわざと紐づけして話し、それに対しマリーナはすんなり筆談で答えます。
それによくよく考えてみれば、マリーナは聴覚障害者なのに手話をするシーンは一度もなかったところにも違和感を感じました。
マリーナの意思伝達は常に紙のメモやスマホでの筆談ばかりで、手話で伝えるシーンは劇中一度もありませんでした。
ここで「それはアンドレイは手話がわからないから」と決めるのは早計です。
アンドレイには手話が通じないからと言っても、健常者が自然に話す言葉と同様に、きっと聴覚障害者の手話も自然に出るものでしょうから、ふとした時についつい手話が出てもまったく不自然ではないのに、マリーナはそんな素振りすら一度もないことに違和感を感じました。
それに、もし「マリーナ=聴覚障害者」だとアンドレイが認識していたならば、マリーナに対し手話についての話題も持ちかけたはずですが、アンドレイは一度も手話をしないマリーナに疑問を抱くこともなく、マリーナに対し手話についての質問を投げかけることすらありませんでした。
その理由について、マリーナは耳はちゃんと聞こえているので、手話を覚える必要がないのです。
そして、マリーナの障害は聴覚障害ではなく、コミュニケーション障害だということをアンドレイは最初から見抜いていたのです。
当初、マリーナへの異常な束縛はアンドレイが世間を認めさせる作品づくりのためだと思われましたが、実のところアンドレイはマリーナを“治療”したかったのです。
その方法はあまりにも強引かつ過激で乱暴でしたが・・・。
最初はマリーナに家にいるよう言葉での説得→鎖の部分が長~い手錠で拘束→その場に縛り付ける→坊主頭と下着姿・・・、アンドレイは段階的にキツい拘束をしていきますが、それらは一見するとアンドレイの狂気度が上がっていっただけのように感じたりしますが、実はアンドレイの狙いはそうではありません。
アンドレイの目的はあくまでも「マリーナに声を出してほしい」なのですが、束縛がゆるい段階ではまったく効果がなく、仕方なく段階的に厳しい状態に引き上げていったのです。
アンドレイはマリーナに手錠したり足にも手錠したり坊主頭にまでしますが、手錠で傷ついたマリーナを気遣ったりしますし、大きくて高価そうな花瓶を破壊されてもまったく怒らず意に介しませんし、それに何よりアンドレイがマリーナを殴ったり叩いたりする暴行シーンは一度もありません。
それではマリーナが聴覚障害者ではないことを知りながら、それに監禁する場所には困らない大きな家なのに、なぜアンドレイは白昼堂々と彼女をわざわざ外に出して鎖に繋いだのでしょう?
その謎はアンドレイがPCに保存したプライベート用のモノクロ写真で解けますが、アンドレイはマリーナに周囲の人たちへ“声を出して”マリーナの救出をしてほしかったのです。
その代償として家族も身寄りも誰1人いないため、失うものも傷つく人も皆無なアンドレイは自身が逮捕されることなど厭(いと)わないほど彼女のことを愛していたのです。
過激・乱暴・強引ではありますが、マリーナがアンドレイの真実を知ってしまった瞬間、彼女は居ても立っても居られずあのラストシーンへ。
最後のマリーナの表情を見る限り、アンドレイの帰りをいつまでも待ってるような気がします。
でも、あんなキツい愛の表現なんて、たとえ治療だとわかっても私なら受け入れられませんが・・・。

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雑感

マリーナが聴覚障害者でないことが分かる決定的な場面は、アンドレが不在の時に階下で鳴る電話に気がつき、階段を降りて固定電話の側まで行くシーン。
電話器を眺めるが受話器を取ることはない。

こんなシーンがあるのに、その他の多くのAmazon 評価は「女性虐待云々」等々、単なる変態映画と勘違いしている。
プライムビデオ評価者の多くは(無料だから?)作品をまともに観ていないようだ。

ロシアのウクライナ侵略前(厳密にはクリミア半島を勝手に併合した後)の作品だが、オープニングに表示される「協賛 ロシア文化省」が一番グロいのかも知れない。

シーンの中で違和感を感じたのはアンドレが神父に悩みを相談するところ。
神父の答え方がロシア正教だからなのかキリスト教だからなのか分からないが「神父がそういうこと言うんだぁ」と解せなかった。

ストーリーは重視せず、映像だけを楽しむ映画だと思う。


MOH




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