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欧州の銀行再編問題とフランスとドイツの思惑

 欧州の銀行問題についての最新情報をお届けします。銀行問題とは、銀行危機の話ではなく、欧州内での銀行買収や再編に関する議論や対立を指しています。
 今年9月に起きたイタリアの銀行ウニクレディトによるドイツのコメルツ銀行買収を巡る問題が発端となり、それが波及する形でさまざまな議論が続いています。今回は、最新の動向を交えながら、この問題の背景や進展について詳しく解説します。

出所)ウニクレディト

EU内での銀行再建の動き

 EU内での銀行再編の動きは、長年の課題として存在してきました。EU加盟国の多くは小規模で成熟した経済を持つ国々であり、急激な成長が期待しにくい状況です。このため、EU全体としての経済的な競争力を高めるために、域内統合を進める必要があります。その中で、銀行セクターは他の産業に比べて統合が遅れている分野でした。

問題の背景

 特にリーマンショック以降、多くの銀行が経営再建を迫られていたことや、金融が他産業に与える影響が大きいことから、交渉が難航してきた経緯があります。近年、フランスやドイツを中心に銀行再編を進める動きが加速してきたものの、EU加盟国間の溝が深いことが問題を複雑にしています。

コメルツ銀行の買収問題

 今年9月、イタリアの銀行ウニクレディトがドイツの2番手の銀行であるコメルツ銀行の株式を取得しました。これは、ドイツ政府がリーマンショック後から保有していたコメルツ銀行の株を売却するタイミングを狙ったものでした。
 しかし、この買収に対してドイツ政府やコメルツ銀行側から強い反発がありました。

反発の理由

 反発の理由には、イタリアの銀行による買収への抵抗感があげられます。ドイツ政府やコメルツ銀行の関係者からは「フランスの銀行なら受け入れられるが、イタリアの銀行では無理だ」というコメントも報じられています。このような対応に対して、イタリアのメローニ首相は「EUとして銀行再編を進めると言っているのに、イタリアの銀行が買収するのはダメというのはどういうことか」と批判しました。

少子化対策と経済状況
 イタリアのメローニ首相は、少子化対策にしっかりと取り組むとしています。

イタリアの少子高齢化問題とメローニ首相

 その後、ドイツ政府はコメルツ銀行株の売却を延期し、買収防衛に動き出しました。11月にはコメルツ銀行がドイツの中堅銀行であるハンブルク商業銀行を買収する方向で調整を進めていることが報じられました。この動きは、コメルツ銀行が負債を拡大し、ウニクレディトによる買収の魅力を下げる狙いがあると見られています。

イタリアの動き

 コメルツ銀行の買収が難航する中、ウニクレディトは新たな戦略としてイタリア国内での基盤強化を図る動きを見せました。11月25日、ウニクレディトはイタリアのバンコBPMを買収する意向を発表しました。
 バンコBPMはミラノに本社を置くイタリア第3位の銀行であり、ウニクレディトが買収に成功すればイタリア国内で大規模な銀行再編が実現することになります。


出所)バンコBPM

 しかし、この買収にも障壁があります。バンコBPMの筆頭株主であるフランスのクレディ・アグリコルがこの動きに反対しているからです。クレディ・アグリコルはバンコBPMへの出資比率を9.9%から15.1%に引き上げ、場合によっては19.99%まで増資する意向を示しています。また、バンコBPM側もウニクレディトが提示した買収価格が安すぎるとして反発しています。

問題の本質と今後の展望

 これらの動きから見えてくるのは、EU内での銀行再編におけるフランスとドイツの影響力の強さです。フランスとドイツは、EUの中心的な役割を果たしながら、自国の銀行や経済への影響を最小限に抑えつつ、他国の銀行が影響力を拡大することを避けたいという意図が透けて見えます。

 イタリアのウニクレディトは、ドイツやフランスによる妨害を受けながらも、次の戦略を模索しています。この先、ウニクレディトがどのような手を打つのか、そしてEU内での銀行再編がどのように進展していくのか、引き続き注目したいと思います。

まとめ

 この記事では欧州の銀行再編を巡る動きについて、最新情報を交えて解説しました。EU内の足並みの乱れや、フランス・ドイツとイタリア間の対立が浮き彫りになった今回の問題は、今後のEU統合における大きな課題を示しています。


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