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AIと労働市場、アメリカの現状と日本への影響


 AIが人の仕事を奪うのではないかという話は以前から言われていることですが、日本ではまだそれが実際に起こっていると感じる機会は少ないと思います。一方、アメリカではすでにAIが人々の仕事を奪い、労働市場を混乱させ始めています。この記事では、アメリカの労働市場で起こっている変化について解説したいと思います。

ホワイトカラーとブルーカラー

 ホワイトカラーというのは、知的な仕事、事務や販売などの仕事をしている人のことを表す言葉です。事務職、営業職、企画、研究者、エンジニア、弁護士、税理士、会計士、販売スタッフ、記者などの仕事がホワイトカラーの仕事とされています。
 一方、ブルーカラーは製造業や建設業の生産現場、生産工程などに従事する作業員を指します。建設土木作業員、警備員、タクシードライバー、自動車整備工などがブルーカラーに分類されます。

 従来、ホワイトカラーは賃金が高い一方、ブルーカラーは賃金が安く、しかも景気後退期にリストラの対象になりやすいとされてきました。しかし、そうした従来の常識とは異なる動きが見られるようになってきています。

アメリカの労働市場の変化

 アメリカではテクノロジー関連企業などが大規模なリストラを行っています。ウォールストリートジャーナルなどによりますと、ホワイトカラーの失業者が15万人も増えたとされています。コンピューター関連、金融、各種専門サービスのほか、科学者の失業も増えているとされています。
 Facebookなどを運営するメタもリストラを発表しています。同社CEOのザッカーバーグ氏は、新しい技術によって効率的に運用できるようになったため、多くの雇用はもう戻らないだろうと発言しています。
 また、IBMについてはAIを使ってバックオフィス業務ができるようにしていく方針で、雇用を停止する可能性があると話しています。

雇用の未来

 多くの企業経営者やエコノミストの間では、失われたホワイトカラーの雇用は二度と戻らない可能性が高いと見る向きが増えています。これは景気循環の中でこれまでホワイトカラーを積極的に採用してきたという部分から人数を減らしているというのもありますが、AIの活用などによってホワイトカラーを減らして企業の生産性を高めていこうという中で起こっている非常に大きな構造変化があり、これが逆戻りする可能性は非常に低いとみられてい
るためです。

ホワイトカラーとブルーカラーの逆転

 一方、ブルーカラーの人材は引き続き不足しているとされており、企業はブルーカラーの人材の確保に積極的に動いています。レストラン、ホテル、倉庫管理スタッフなど人手不足の分野は多く、ブルーカラーの賃金上昇も続いています。
 業態によるとはいえ、ホワイトカラーの方がブルーカラーよりも賃金水準が高いのは依然として変わっていません。

 ホワイトカラーの職を失って新しい仕事を見つけることができず、やむを得ずブルーカラーの仕事をするという人もこれから増えていくことになるでしょう。大学や大学院を出て資格を取得し、ホワイトカラーとして高い賃金を得るために膨大な借金をしてまでやっとホワイトカラーの仕事に就いた人たちが職を失っているというのは、何とも厳しい現実です。

雇用統計への影響

 雇用統計で雇用者が堅調に増えているのは、このブルーカラーの雇用が増えているというのが影響しています。このブルーカラーの仕事は、街のレストランや小売店だったり中小企業がやっている場合も多いのですが、そうしたところが人材の確保に積極的でもあまりニュースにはなりません。
 一方、大きな企業がリストラをすると大きなニュースになります。リストラのニュースばかり聞いているのに、雇用統計では雇用が堅調に伸びているという背景には、中小企業がブルーカラーの確保に積極的に動いているというというわけです。

私たちは公表されているデータをもとに戦う必要があります。
 データが実態を表しているかどうかの検討に加え、データが実態をどれだけ表しているのか、どうすれば補正できるのか、何のデータで補正するべきか常に判断する必要があるでしょう。

今さら聞けない米雇用統計の基礎

日本への影響

 日本でもいずれアメリカと同じことが起こるでしょう。日本の場合は解雇が容易ではないため、ドラスティックに変わっていくことはないとみられます。
 しかし、日本の場合は企業内での配置転換が容易にできます。そのため、企業内でホワイトカラーからブルーカラーへの異動という方法で与えられる仕事が変わっていくということもあるかもしれません。

金融業界の変化

 私は長く金融機関に勤めてきて、機関投資家としてファンドマネージャーなどの仕事をしてきましたが、この分野もいずれAIに変わるだろうとみられる仕事がたくさんあります。すでに金融においては、日本でも消費者ローンなどの分野で審査をAIがやるというようなケースも増えてきていると聞いていますが、企業向けの融資の審査、そしてアナリストなども多くが近い将来にAIに置き換わる可能性があるでしょう。

 アナリストと言われる仕事の8割以上が、ただ単に決算の数値や会見を見て、それまでの実績からの延長線上で将来の予想をしているというような場合がほとんどです。こうした仕事の内容ですと、AIが簡単にできてしまうというのは容易に想像できます。

 昔は経験豊富なトレーダーがいて、そうしたトレーダーの勘で取引を行っていましたが、今はほとんどの取引がAIが行っています。

機関投資家の株売却の裏側

 機関投資家営業のような仕事もなくなるかもしれません。というのは、金融機関の機関投資家向けの営業は個人向けの営業以上にほとんど意味がない、すでになくてもいい状態になっていると思います。そもそも機関投資家はプロなので、セールスマンに何かを教えてもらうという必要はないですし、機関投資家の方からセールスマンを必要とする場合というのはほとんどないです。
 証券会社の方が電話で取引を行っていた時代からの名残で大きく体制を変えていないため、今も担当セールスというのがいます。しかし、必要性は非常に低くなってきていると思います。

証券会社はAには100円で売りますが、素人に毛が生えたような投資家である宗教法人Bには105円で売りつけることができます。
 これが証券会社の債券ビジネスです。

宗教法人と金融機関の意外な関係

総括

 こうした大きな社会の構造変化の中で、今の学生たちや子供たちは何を目指していくのか、何に取り組めばいいのか非常に難しい状況に直面していると思います。大学で知識を身につけても、そもそも知的・技術的な要素が必要な仕事はAIに奪われる可能性がある中で、彼らは何を目指していくのでしょうか。
 これはZ世代や今の10代の若者たちの価値観に非常に大きな影響を与えていくことになるかもしれません。


ご参考

今年、日本からイギリスに行くワーキングホリデーの枠が大きく増え、たくさんの人たちがイギリスでの生活をスタートしています。ワーキングホリデーがきっかけで、SNSでの情報発信を始める人も多く、そうしたアカウントを最近もよく見かけます。頑張れよと思いながら、「いいね」ボタンを押したりしています。

若者が海外で働くということ

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