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第16章 人間農場-2

Vol.2
 僕は、一連のニュースについての祝杯をみんなであげていた。銀座にあるちょっと小洒落た個室のすき焼き店。たまには贅沢をしませんかという二階堂さんの提案によって開催された。美味しいすき焼きに舌鼓を打ちながら、僕らは今回の事件を振り返っていた。
「うまくいきましたね。」僕はみんなに言った。
「大臣二人を連続で辞任させることができるなんてすごいです。斎宮さんのアイディアがとても良かったんですね。」七海がいう。
「ありがとうございます。ずっと前から、こういう不正を行っている議員の接客をする機会があって、天誅を下してやりたいって、ずっと思っていました。」斎宮さんが言った。
「確かに、CAには聞かれてもいいくらいの感じで話したりしていますもんね。」僕が頷く。
「そうなんです。意外と、お客さん情報でわかったりするんですよ。政治家が海外行く時なんて特に。もちろん、個人情報を口外することなんてできやしないですけど。」斎宮さんがいう。
 まさに、CAという立場を利用した今回の計画は、斎宮さんが主体となって動いてもらった。計画としては、こうだ。まず、エコノミークラスの乗客のある一定の数のコンセント差し込み口に金属粉を忍ばせておく。そこに、何も知らない乗客がコンセントにプラグを指すと、金属粉が電流によって発火し、ボヤ騒ぎが起こる。ファーストクラスに乗っている高橋議員の避難誘導をする最中、高橋議員のスマートフォンをどさくさに紛れて回収する。あらかじめ用意しておいた同じ機種のスマートフォンを使って高橋議員に持っていいき、落とし物だからと言ってスマートフォンのパスワードおよび個人情報を得る。その後、高橋議員のスマートフォンからメールアドレスや、その他交友関係のデータ、不正な海外研修のメーっセージでのやり取りなどを抜き取る。最後は、おまけであるがトロイの木馬のウイルスメールを送信して高橋議員本人にスマートフォンを返す。あとは、一連の不正情報を週刊誌にリークすれば、マスメディアが勝手に高橋議員を追い込んでくれる。といったものだ。説明すると簡単に思えるが、CAさんが味方にいることが必須条件であり、時間もそれなりにかかる。定期的に海外へ行く高橋議員だからこそ、スマートフォンの機種を予測することができた。
「この事件をきっかけに、ルドラに共感する人たちが私たちと似たような事件を全国で行っているみたいです。」七海さんが言った。
「確か、#ルドラの革命でしたっけ。’’政治家の事務所に着払いで肥料300個送ってみた’’とか、’’交番で居眠りしている警官をずっと撮影してみた’’
なんか色々と、上がっていますね。」二階堂さんが言う。
「どの超えたものに関しては、あまり賛同できませんが、こういった活動について、伝播して行っていることはとても喜ばしいことではありますね。」斎宮さんがいう。
「でも、本当に驚いています。私。みなさんと出会う前までは、ただただ時間を浪費して生きていくだけの人で。毎日毎日、仕事して帰ってきて、お酒飲んで寝るくらいの生活でした。それが、こんなにも充実した生活を得ることができるなんて。本当に嬉しいです。」七海さんが言った。
「そうですね。仕事して休みの日にダラダラと過ごすだけの日常だったのが、こんなに変わるなんて。」二階堂さんが言った。
これらの意見を聞いて、僕もそう思う。働くだけの人生に虚しさを覚え、何かこう。使命を持って生きる。社会の奴隷のような日々を変えたいと抗う行為は、とても素晴らしいことに思えた。
「では、みなさん。そろそろ次の計画を考えましょうか。」斎宮さんが言った。
「フォローワーもだいぶ増えてきましたし、次は、当初から考えていた今まで集めたフォローワーとの協力で成せることを行いましょうか。」僕が言った。
「そうですね。模倣犯も、ハッシュダグまでできているのなら、そのフェイズに移行した方が良いですね。」斎宮さんがいう。
「では、投稿の方は私がしておきますね。」七海さんが言った。
「内容は、以前から打ち合わせしていた通りで問題ないですか。」二階堂さんが言う。
「問題ないです。あとはどれだけみんなが参加してくるかですね。」僕が言う。
「大丈夫ですよ。ここまでだって順調だったじゃないですか。」七海さんが言う。
「そうです。それよりお肉食べちゃいましょうよ。冷めちゃいますし。」二階堂さんが言う。
そして、僕らは再びお肉に舌鼓をして今日は解散ということになった。僕は、帰路に着くために、東海道線の電車に乗って帰ることにした。東京であれば、そんなに電車を待たずして乗ることができる。お腹がいっぱいで少々眠くなってきた。うとうとしながらホームで電車を待っていると、全身白タイツをきた20代の男性がやってきた。僕は、少し警戒してその人を注視していると、その全身タイツの20代の男はいきなり周りの人たちにインタビューを始めた。
「そこのお姉さん。今、突撃インタビューしてるんですけどいいかな。」
白タイツが話しかけてきたのを非常に嫌そうな顔つきで30代くらいの女性が反応する。
「なんですか。私急いでるんですけど。」
「ルドラさんについてどう思いますか。」
白タイツがルドラについての街頭インタビューをしていた。女性は、ルドラという言葉を聞いた時、少し笑みがこぼれたような気がした。
「ルドラさんってあのルドラさん?SNSの。」
女性が白タイツに聞き返した。
「そうです。あのルドラさんです。」
「いろいろな政治家なんかの悪事を暴いてくれてすごいと思います。期待しています。」
女性は、本当に期待しているような声で短く的確に回答した。それを聞いて頷きながら白タイツは続けた。
「なるほど。素晴らしいですよね。次のルドラさんの行動で期待していることとかありますか。」
「期待していること・・・。」
女性は、考えている様子だった。しばらく考えてから、少しづつではあるが、口を開き回答していった。
「そうですね。このまま今の行動を続けるのもいいのかもしれませんが。やはり、少子高齢化や税金の不正利用、止まらない物価高とか、より良い社会を作ってほしいですね。少しずつ、変わって行っているのかもしれませんけど、私たち一般人からしたら全然変わらないというか。何が変わっているのか分からないし。」
女性の切実な思いに僕もその意見に同感だ。具体的な成果を出さないと行動している意味がない。変えるために行動しているのだから。
「なるほど。ありがとうございます。あ、後ちなみにこのインタビューなんですけど、SNSに投稿しても問題ないでしょうか。」
「ええ。問題ないです。」
白タイツは、SNSで活動中のインフルエンサーだった。僕は、知らないが有名なのだろうか。街頭インタビュー系のインフルエンサーは多過ぎて把握しきれないから知らないのも無理はないかもしれない。そんなことを思っていると、また白タイツが他の人にインタビューを始めた。次は、高齢者の男性に話しかけた。
「すみません。インタビューさせてもらってもいいですか。」
「いいよ。」
高齢者男性は快く応じてくれたようだ。
「ルドラさんについてどうお考えでしょうか。」
「ルドラ?」
高齢者の男性は首を傾げていった。
「ニュースで話題のSNSで政治家に天誅をしている人です。」
白タイツが答えた。それを聞いて高齢者の男性は「ああ。」と頷いて答え始めた。
「やりすぎはいかんと思うよ。顔も出さずに人を叩くのは。正々堂々とやらないといけない。」
「なるほど。ということは賛同はしていないということでしょうか。」
白タイツが問うと高齢者の男性は答えた。
「賛同しないわけじゃなくて、やり方ちゅーのをもっとどうにかしないとなということだ。政治に意義があるなら政治家になれと。顔も出さないで陰からやんややんや言うのはずるいことだろう。ちゃーんと顔を出して、面と向かって声を上げないといけないのよ。今の若者はすぐにそうやって保険をかけている。だから、ろくに恋愛もできずに少子化になるんだ。」
「そうですね。貴重なご意見ありがとうございます。」
白タイツはそう言って高齢の男性とのインタビューを終わらせた。高齢の男性の意見を僕は真っ向から否定する気はない。だが、政治家になれだなんて寝ぼけた話だと思った。政治家になったとて、コネもなしに意見を言うことのできる存在になれるまで何年かかるだろうか。それに、政治が腐敗した中で、腐らずにただ正しさだけで上り詰めることがいかに大変であるだろうか。それをするよりも、外から崩す方が確実である。想いだけでもダメなのだ。革命を起こすためには。そう思っていると、白タイツは、また次の人にインタビューをしていた。次は、中年のスーツを着た男性だった。身なりはよく、ドラマでよく出てきそうなイケおじのような風貌だった。
「すみません。インタビューしてもよろしいでしょうか。」
「いいですよ。なんでしょう。」
イケおじは快く応答した。
「ルドラさんについてどう思いますか。」
「ルドラね。知ってるよ。SNSを利用した政治犯でしょ。」
「政治犯?と言いますと。」
白タイツが不思議そうに話しかけた。それを聞いてイケおじは説明を始めた。
「だって、そうでしょ。SNSを利用して政治家に荷物送りつけたり、警察小馬鹿にしたりとか。まあ、今時の若い人が好きそうな悪ふざけだよね。それを国に向けてやっているわけだから政治犯ってこと。」
「なるほど。」
白タイツが相槌を入れると、イケおじはさらに話を続けた。
「ルドラって人は、アナーキストなのかもしれないな。あんた、アナーキストって知ってる?」
「いいえ。なんですか。」
白タイツが尋ねるとイケオジが答えた。
「アナーキストっていうのは、簡単に言うと無政府主義のこと。これはね、つまりは政治家なんていらない自由な社会を指すんだよ。確か、ピエール・ジョゼフ・プルードンって哲学者が提唱したはず。この主義の問題点はなんだと思う?。」イケおじが白タイツに問う。
「ちょっと分からないですね。むしろ政府がなくなる分、今の問題は解決されるんじゃないでしょうか。」
「そんな単純な話じゃないんだよ。アナーキストの行末は、混乱と無秩序。秩序のなくなった世界で人はどうなると思う
かい。」イケオジが問う。
「なんか、なんでもやり放題の国になるみたいな。ハロウィンの渋谷が毎日的な感じですか。」
「そうだな。そんな感じ。本当の意味での弱肉強食の社会になる。今の社会はある程度の秩序が保たれているから成り立っていて、公共事業があるから田舎はインフラが通っているし、公園や道路がある。そんなものが全てなくなる社会になるんだよ。」イケおじは頷きながら言った。
「それはやばい。」白タイツが答える。
「だろ。だからね、ルドラなんてろくな奴じゃないよ。もういいかな。」
「大丈夫です。ありがとうございました。」
そう言って、イケおじは去っていった。僕は、その背中を見ながらイケおじに少し怒りを覚えた。なんなんだあいつは。偉そうにペラペラと語って。きっと、会社でもあんなふうに大口を叩いているんだろう。怒りを覚えていると、白タイツは、女子高校生にインタビューを始めていた。
「ちょっと、いいかな。」
「え。お兄さんもしかしてナンパ。」女子高生が笑いながら言う。
「いやいや、未成年に手を出したら捕まっちゃうから。しかもこの格好だしね。インタビューしてもいいかな。」白タイツは笑顔で答えた。
「ウケる。いいけど。」女子高生は笑顔で答えた。
「じゃあ早速だけど、ルドラさんて知ってる。」白タイツが尋ねた。
「知ってる。知ってる。SNSで面白いことしてる人でしょ。フォラーもちゃんとしてるよ。」女子高生が言った。
「面白いよね。てか、政治とかって興味ある。」白タイツがいう。
「興味はないね。だって、冴えないおじいちゃん達がなんかやっているんでしょ。」女子高生は本能に興味なさそうに言った。
「選挙とかはどうかな。」白タイツが問う。
「選挙ね。今年から選挙権もらえるけど、どうせ行っても意味ないし。そもそも、政策とかよく分からないし、誰が勝っても似たようなことしか言ってなくない。だってそうでしょ。高校の生徒会選挙だってさ、よくわかんない人ばっかり立候補していて、知っている人がいたりとか、イケメンとかそういう人に投票するじゃん。そんな感じくらいかな。それに、今の大人って選挙に行けっていう割に何も選挙のこと教えてくれないし、むしろウチらに関心向かないようにしているのって大人の方じゃないの。」女子高生が言う。
「確かに。君、なかなかいいこと言うじゃない。」白タイツがいう。
「でしょ。ウチ、天才だから。」女子高生は笑いながら答えた。その後、思い出したかのように女子高生は答えた。
「でも、ルドラのおかげで最近興味は出てきたよ。」
「そうなの?」
「うん。政治家達がどんな悪いことをしていたのかを分かりやすく動画にしてくれたり投稿してくれたりしてるじゃん。」女子高生が言う。
「なるほど。もしルドラさんが、選挙に出たら票を入れる?」白タイツが女子高生に問う。
「入れる入れる。なんか世の中よくしてくれそうだもん。」女子高生が笑顔で答えた。
「じゃあ、この投稿を見てルドラに票を今回は入れる?」白タイツはタブレットの端末を女子高生に向けながら言った。
「何これ?」女子高生が不思議そうにいう。
「さっき投稿さればかりなんだけどね。今度都知事選があるじゃない。そこで、立候補者の名前じゃなくてルドラの名前を書いて投票してSNSでハッシュタグ#ルドラに投票で投稿するという企画だよ。どうかな。君は投票する?」白タイツが言った。
「するする。面白いねそれ。多分、うちの友だちも全員ルドラに入れると思うよ。」女子高生は言った。
「本当に?それはすごいな。」白タイツが言った。
「本当本当。お兄さんも入れるでしょ。」女子高生が言った。
「もちろん入れるよ。だってお兄さんルドラで革命の一員だもん。」白タイツが言った。
「もしかして布教活動とかしてるの?ウチのこと。」女子高生が言う。
「バレちゃったか。もし興味があれば、白子タイツで検索してみて。」白タイツが言った。
「何それ、ダサ。興味湧いたらみてみる。」女子高生が言う。
「それ、みないやつでしょ。」白タイツがいう。
「みるみる。ちゃんと見るから。じゃあ、そろそろウチ帰らないといけないんで。」
女子高生はそう言って帰っていた。白タイツもそれ以降インタビューを続けていた。僕は、ずっとその様子を影から見ていた。何本もの電車に乗り過ごしながら。しかし、白タイツの男がまさかルドラを支持しており、ここまで布教活動を行っている人物であるとは驚いた。それほど、ルドラという存在の影響力が大きくなってきたのだという実感が湧く。ホームに再び電車が入ってきた。僕は、流石にこのまま帰ることにした。
 数日後、都知事選が行われた。都知事選として今回出馬している議員は四人だ。保守派の山田聡美、左翼の成宮さおり、元タレントの千宮寺智美、無所属の宇都宮泰輝の4人だ。都知事選はもう決まりきったレースに思われていた。保守派の山田議聡美は、前の都知事であり大きな問題もないことから、今回の都知事選でもまた当選が濃厚であるとメディアは報じていたし、世の中的にもそれが都合のいいような雰囲気を醸し出していた。他の立候補者はまるで認知度を上げるようなことが目的なのではないかというような、わざと負け戦を仕掛けている感じだった。特に無所属の宇都宮泰輝はそれの典型的な人物であろう。東京都を良くするためのはずの都知事選が、本来あるべき姿を失っているように思える。まあ、今の日本の選挙システム上、だらかがより良い社会のためにを願って出馬するなんて人がどれだけいるのかは愚問だ。選挙の投票率が下がっているという現実がよくメディアで取り上げられている。世の中が良くならないのは若者が選挙に行かないからだ。と老人達はいう。こんな茶番を繰り返しているが、馬鹿馬鹿しい話だろう。変わらない。変えられない。これが今の若者達の声だ。なぜならば、どうせ選挙に参加したところで、若者の総数に対して、老人の方が圧倒的に多いのだ。5人に1人が60歳以上の高齢者であると言われる世の中で、若者が協力しようとどう足掻いても勝てない。負け戦に時間をかけるほど、今の若者は暇ではない。熱量は、自身の好きなインフルエンサーやアイドル、アニメには程遠いのだ。’’推し活’’という言葉があるように。きっと、若者達に政治に興味を持ってもらうためには’’推し’’が必要なのかもしれない。カリスマ性を備えており、応援したくなるような存在。きっとそんな存在が現れたとき、僕ら若者は自分の権利を真摯に向き合って投票するのではないだろうか。僕はそう思う。お昼過ぎ、僕は早速SNSをチェックしてみた。スクロールしていくと、それは僕の妄想を現実にしていた。僕の妄想ー。それは、都知事選のジャックだ。都知事選のジャックと言っているが、物理的に乗り込むわけではない。リアルにやっている都知事選を勝手にオンラインでも行うのだ。SNSのアカウントでの投票というバーチャル選挙である。また、バーチャルの投票と同じ人を実際の選挙で投票するように任意で約束している。候補者でもないルドラに対して票を入れることは、選挙では無効となるが、投票率に対して、立候補者の各投票数を換算すればルドラの投票数を割り出すことができる。。これによって、リアルとバーチャルがどれほどまでに乖離しているのかが露わになるだろう。そして、今の選挙システムがどれだけ問題があるのかを証明し、大きな波紋を起こす岩となる。さらに、バーチャルには我々のアカウントであるルドラを立候補者に追加している。ネットの世界でルドラは、今まで起こしたイタズラによって、さまざまな人々からある種の’’推し’’となっている。今、僕は、自分の考えた理論が実際に通用するのかを試しているのだ。この検証がうまく行ったならば、次の計画が実行できる。僕は、その計画に全てをかけていると言っても過言ではない。だから、今回の検証は僕の妄想通りになって欲しい。と思っていた。SNS上では、僕の妄想を美しすぎるほど反映されていた。投票率は、すでに50%を優に超えていた。1300万人中650万人以上が投票していることになる。選挙権を持たない人々もいるからもっと少ないか。その中で、ルドラに投票をした人達はネットの投票の結果を見る限り、70%はルドラを支持していた。信じられないほどに美しい結果であった。その後もルドラの支持は止まらなかった。そして、最終的にはルドラはネット投票で87%とという支持を得ていた。テレビをつけると、ニュースが騒ぎになっていた。
”ニュース速報です。なんと本日行われた東京都知事選で、少子化になってから過去最高の投票率を記録しました。投票率は88%と前回の投票率53%を30%以上も上回るものとなりました。しかし、当選した山田聡美新都知事ですが、投票獲得数は数十万程度となっており、大多数の人が、誰に投票したのかわからなくなっております。”
ニュースキャスターが不思議そうに原稿を読み上げる。その原稿が読み終わると、都知事選の行われた会場に中継がつながる。選挙会場は、当選した喜びを見せた山田聡美都知事が映る。と同時に何やらプラカードを持ったり仮想したりしている人々が選挙会場に押しかけてきた。
「この選挙は、本当の都民の意見を反映させていない。」
「この選挙は、八百長だ。」
「我々は、ルドラに投票した。」
「あなたは、都知事じゃない。」
数百人を超えるルドラの仮面を被った人々がでも活動を行うために集結したのだ。その中には、あの白タイツの男もいた。人々は、一斉に大きな声をあげて、選挙会場に押し寄せたのだ。念の為言っておくが、この行動を僕は支持していない。ただ、僕はルドラを支持するもの達に仲間の証として、仮面のNFTデータを投票者には漏れな苦配布しただけだ。デモをしろとは言っていない。ただ、僕は綴ったのだ。群衆がやり場のない感情をどうぶつければいいのかを。この選挙の結果は明らかだった。たとえどんな結果であろうと、ルドラの投票は無効になる。これは選挙のルールである。でも、普段選挙に行かない人たちがそんなルール何的にするだろうか。いや、しないだろう。それに、知っていたとしても、ネットでここまであからさまに、ルドラへの票が偏っていたのに偽造されては、どんな人でも腹が立つだろう。悪を許さないと、不正を許さないと正義の心が突き動かすのだ。僕の投げた小石はどんどんと波紋を広げていき、ついにここまで広がることとなった。自ら支持をしなくとも、大きな行動を起こすことができる。日本社会をより良いものにする。という志がここまでのことをなすことができたのだ。
「ルドラ。ルドラ。ルドラ。ルドラ。ルドラ。ルドラー。」
誰かが叫び始めたルドラという言葉。アンコールを叫ぶような、野球選手のホームランを期待する歓声のような、都民の叫びがどんどん大きくなっていく。そして、そのデモの人数はどんどん増えていった。声が大きくなったのはそのせいのようでもあるが、大きくなるのが人の数よりも指数関数的に大きくなっていく。ここまで、国民が一丸となってデモを行っていることがあるのだろうか。この様子は、ニュースでも取り上げられたり、誰かがネット配信をして全世界にばら撒かれていった。12時を越えようかという頃になって、やっと国は警察を動かした。警察官がデモ隊を取り押さえっていく。中には未成年の少女や少年までいたのだった。ネット上での生放送では、国家権力の不正行使だとか、国民の意見を武力で押さえ込んだだとか国に対する不満が寄せら得ていった。そして、人々はこういった。
「腐った国家は輝かしい国民を吹き込んでも全く美しくならない。」
「そんな国家をルドラなら変えてくれる。」
「日本はルドラによって生まれ変わるんだ。」
「ルドラって本当に神ー。」
選挙が終わり数日後、日本中でルドラを支持する団体が増えた。それは、まるでイエスが世界に広まるよりも熱狂的であるのではないかと思わせるようだった。解き放たれた家畜のように人々は自由意志を求めてー。


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