安部公房『飛ぶ男』
そうだ、安部公房を読もう!
自前の動力ではまったく走れなくなってしまったので、新潮社の「安部公房生誕100年」キャンペーンに乗っかってみることにしました。
まあ、動かなくなったポンコツ車が、レッカー車に牽引されていくようなものか。/
「飛ぶ男」:
【仮面鬱病の専門家の診断によると、保根はとくに生徒の獲物になりやすいタイプなのだそう言えば】/
自慢じゃないが、「獲物になりやすいタイプ」といえば、僕をおいて他にはいないだろう。
鈍重で足元もおぼつかず、群れからはぐれやすく、しかも食べでは充ときている。
A5ランクの白髪和牛といったところだ。
ウクライナなども、もう少し早くNATOに入っておけば、こんなことにはならなかっただろうに。/
「獲物になりやすいタイプ」はさておき、「獣になりやすいタイプ」というのも、あるに違いない。
たとえば、隣人と見ればすべて獲物と認識してしまう獣道家プーチン氏のようなタイプだ。
「獲物になりやすいタイプ」が特殊詐欺産業界の良き顧客であるのに比べ、何にでも片っ端から喰いつく後者の方が、世間的にはそうとう厄介だ。
一日でも早く、ブラックキャップかなにかで、駆除してもらいたいものだ。/
話を本作に戻すと、心なしかやや喚起力に欠けるような気がする。
「飛ぶ男」※にしても、『第四間氷期』の水棲人間に比較すると、さしたる驚きはない。/
※ 「飛ぶ男」:戯曲「水中都市」(1977年)に、「飛父」として空中浮遊術ができる泥棒稼業の父が登場している。/
帯には『幻の遺作』とあるが、「消しゴムで書く」安部公房にとって、本作はまだまだ完成品からはほど遠い「夢の途中」だったに違いない。
どうか、「なんだ、これが安部公房か、つまらん」などと誤解されないように、くれぐれもご注意を!/
「さまざまな父」:
いよっ!待ってました!懐かしの変な父さん登場である。
安部公房作品に登場する父親には、なんとも言えないおかしみがある。
たとえば、「水中都市」(1952年)では、
【「(前段略)おまえ、お父さんは妊娠したのかもしれないよ。ごらん。一晩でこんなに体がふくれてきた。男だって妊娠するって話を聞いたことがないかい。女は一生に幾度も妊娠するが、男はしても一度だけなんだとさ。なにを産むかって、おまえ、そいつは分からない。が、きっと死だ、死が産まれるんだよ。】
(「水中都市」『安部公房全集3』)/
この伝でいけば、ドン・プーチンなどは、極めて稀な特異体質であるに違いない。なにせ、たった一人で何十万もの死を産み出しているのだから。
さんざん甘い汁を吸っては、次々と腹から(同胞)死を産み出す。
まさに、現代のキング・ギドラだ。
だが、モスラも、ゴジラも、ラドンも、もういないのだ。/
話を本作に戻すと、父の登場シーンは次のとおり。/
【父は夕刊に目を走らせながら、最初の一杯を一気にあおった。
ー中略ー
「じつは‥‥‥ちょっと覚悟がいる話なんだ」ガラクタ箱の隅から、ひどく古風な厚紙細工の小箱をふたつ取り出して、「この箱、一つはパパが取って、もう一つはおまえにあげよう。十年以上むかし、ある骨董屋からポーカーでまきあげた薬なんだけどね」
「くすり?」
「今風にいえば、超能力の薬かな‥‥‥一つは透明人間になる薬、もう一つは宙を飛べる薬‥‥‥おまえだったら、どっちがいい?」】/
と、胡散臭さ全開だ。/
【安部公房の没後、1993年に発表された『飛ぶ男』は、最後のバージョンに安部真知夫人による“編集者的”な加筆・改稿が施されたものだった。今回の文庫化にあたっては、この加工を元に戻し、安部公房による未完の絶筆としてそのままの原稿が採用された。】