燃えつきた棒

#名刺代わりの小説10選: 「ユリシーズ」/「百年の孤独」/「砂の女」/「苦海浄土」/エミール・アジャール「これからの一生」/「失われた時を求めて」/「城」/「ダロウェイ夫人」/「薔薇の名前」/イヴォ・アンドリッチ「ドリナの橋」

燃えつきた棒

#名刺代わりの小説10選: 「ユリシーズ」/「百年の孤独」/「砂の女」/「苦海浄土」/エミール・アジャール「これからの一生」/「失われた時を求めて」/「城」/「ダロウェイ夫人」/「薔薇の名前」/イヴォ・アンドリッチ「ドリナの橋」

最近の記事

クロード・シモン『フランドルへの道』(平岡篤頼 訳)

これはひどい!恥ずかしいほどの出来栄えだが、ええい、ままよ! 我が身の無能はや紛れなし!/ 立教大学でのイベント 「20世紀フランス文学の検証—ミレイユ・カル=グリュベールの文学批評を中心にヌーヴォー・ロマンとその後の系譜を追う」に参加するので、これを機会に読んでみた。 【生きるすべを学ぶつもりでいたが、じつは死に方を学んでいたのだった。 レオナルド・ダ・ヴィンチ】 冒頭のエピグラフにいきなり心を持っていかれてしまった。 まるで、僕の人生を言い当てられてしまったようでぐ

    • 『佐田稲子傑作短篇集 キャラメル工場から』

      佐田稲子の「キャラメル工場から」のことは、たぶん五、六年前の「夏の文学教室」で聞いたのが初めてだと思う。 講師は中島京子だったと思うが、とてもほめていた記憶がある。 ところが、僕のような天邪鬼の場合、誰かがほめていたということが、返ってその作品を評価する際のバーを数センチだけ押し上げてしまうことがある。 どうやら、今回もそのシステムが作動したようだ。 というわけで、僕には世評ほど素晴らしい作品とは感じられなかった。 貧しい少女が主人公の初期の作品などは違和感なく読めるのだが、

      • 小池喜孝『常紋トンネル』

        NHKで放送された「こころの時代〜宗教・人生〜殉難者の祈り」を観て、本書を手に取った。 番組は北海道開拓の過酷な労働現場で亡くなった「殉難者」たちのことを描いたものだった。/ 「殉難者」には囚人と「タコ」があるが、本書では「タコ」について掘り下げている。/ 【常紋トンネルから、留辺蘂(るべしべ)側に一キロほどくだったところ(略)に、なんの変哲もない地蔵さまがある。その地蔵さまの横の標札には、次のように書かれている。   歓和地蔵建立の由来  湧別線工事中最大の難工事とされ

        • 『イプセン戯曲全集4』(原千代海 訳/未来社) 

          収録作品:「人形の家」、「幽霊」、「人民の敵」、「野鴨」、「ロスメルスホルム」。 ◯「人民の敵」: 舞台はノルウェー南部の湯治場の町。 主人公のストックマン医師は温泉管理委員会の委員も兼務している。 兄のペーテルは、市長兼警察本部長、温泉管理委員会の委員長。 ある日、ストックマンは、一通の手紙を受け取る。 それは、温泉全体の水質が黴菌だらけだという報告書だった。 前年、湯治客の中から何人か病気に罹った者が出たので、彼が内密に調べていたのだ。 ところが、この事実を兄の市長に報

          目取真俊『目の奥の森』

          太平洋戦争末期の沖縄。 ある夕、島の浅瀬で貝を採っていた少女達の方へ対岸から数人の米兵達が泳いで来た。彼らは波打ち際の少女達のところまでやって来ると、小夜子を拉致しアダンの茂みの陰に連れ込んだ。 この事件の後、米兵達はジープで部落にやって来ては、男達が見ている前で女達に乱暴を繰り返したが、ライフル銃ににらまれて男達は動けないままだった。/ 【米兵達が海に飛び込んだ直後、崖の下の岩場から一人の若者が銛(もり)を手に海に走っていくのが見えた。褌(ふんどし)姿の若者は海に入ると、

          目取真俊『目の奥の森』

          『定本 ヒッチコック 映画術 トリュフォー』(山田宏一 蓮實重彦 訳/晶文社)

          フランソワ・トリュフォーによるヒッチコックへの五十時間にわたるインタビューをもとに作られた本。 ヒッチコックは、僕は映画館でというよりもたいがいはテレビでその作品に親しんできた。 『鳥』『サイコ』『知りすぎていた男』『めまい』『北北西に進路を取れ』『レベッカ』等々、僕だってそれなりにけっこう観ているつもりだが、これといった作品がないような気がする。 たしかに面白い作品は多いのだが、観た後に残るものがあまりない。 アラン・レネやテオ・アンゲロプロスや、ケン・ローチの作品のように

          『定本 ヒッチコック 映画術 トリュフォー』(山田宏一 蓮實重彦 訳/晶文社)

          J-P・サルトル『言葉』(澤田 直 訳/人文書院)

          サルトルが自身の誕生から十二歳までを描いた自伝的フィクション。 サルトルは安部公房と並んで僕の青春の書だ。2006年に出版された新訳である本書は、昔読んだサルトル全集版の『言葉』に比べると、活字がずっと大きくなっていて、読み心地は快適そのものだ。/ 【人生が始まったとき、私のまわりには本があった。おそらく終わるときも同じだろう。祖父の仕事部屋には本がいたるところにあった。ふだんは埃を払うことは禁じられていて、年に一度、新学期の始まる十月の前にだけ掃除された。私はまだ文字を読

          J-P・サルトル『言葉』(澤田 直 訳/人文書院)

          マイケル・ホーニグ『ウラジーミルPの老年時代』(梅村博昭 訳/共和国) 

          ※一部の特定の体質の方の消化を妨げる怖れがありますので、お食事の前後一時間には服用を避けてください。 二〇一四年のロシアによるクリミア併合後の二〇一六年に刊行された、二〇年後のロシアを舞台にした近未来小説。 「獣道家P」嫌いの僕にとって、本書を読むことは最高の喜びだ。/ さしもの悪名高きウラジーミルPも寄る年波には勝てず、認知症が進んで後継者にその地位を譲り、田舎にある別邸(ダーチャ)で暮らしている。 物語はウラジーミル爺さんの介護人である主人公の目で語られる。/ 【だ

          マイケル・ホーニグ『ウラジーミルPの老年時代』(梅村博昭 訳/共和国) 

          『安部公房全集004』

          ◯「飢餓同盟」: 僕と同年(1954年)生まれの作品。 安部公房のくせに、何回読んでもあまり印象に残らない作品。 「飢餓」で言えば内田吐夢『飢餓海峡』には到底かなわないし、一瞬『けものたちは故郷をめざす』と混同しそうになるが、あちらの方が飢餓感に満ちている。 そんなことで、途中で読書のモチベーションが雲散霧消してしまった。 しばしページを閉じて、その間に数冊の図書館本が通り過ぎた。 もうあらすじを思い出せない。 登場人物たちも定着してない。/ ◯対談「新しい文学の課題」:

          『安部公房全集004』

          フェルナンド・ペソア『ペソア詩集』(澤田 直訳)

          本人と彼の三人の代表的異名者(アルベルト・カエイロ、リカルド・レイス、アルヴァロ・デ・カンポス)たちの代表作を収録している。/ 澤田先生が解説で言っているペソア・ウィルスという点で言えば、『不安の書』(高橋都彦訳/新思索社)の方が数段多かったのではないか? 感染者の一人としては、同書に比べるとやや食い足りなかった。 もちろん、期待が大き過ぎたせいだとは思うが。/ 【ペソア・ウィルスとでも呼ぶべきものが確かに存在する。 ー中略ー ペソアの作品の魅力は、その一句一行が他人

          フェルナンド・ペソア『ペソア詩集』(澤田 直訳)

          『荒川洋治詩集』(思潮社:新鋭詩人シリーズ2/1978年)

          そうそう、これが学生の頃、本屋で「現代詩手帖」を手にしたときに僕が出会った拒否だ。 あなたには「詩的感性」が欠けています。 あなたは現代詩「界」のメンバーではありません。 水没した車の窓ガラスを内側から叩き割るのに最適だった1972年の「現代詩手帖」。 だが、何度門前払いを食らっても、「謎」が僕を吸い寄せる。/ 【妻はしきりに河の名をきいた。肌のぬくみを引きわけて、わたしたちはすすむ。  みずはながれる、さみしい武勲にねむる岸を著(つ)けて。これきりの眼の数でこの瑞の国を

          『荒川洋治詩集』(思潮社:新鋭詩人シリーズ2/1978年)

          ル・クレジオ『ブルターニュの歌』(中地義和訳)

          図書館の新着コーナーで見つけた本。 未読だし、なんとなく軽そうなので借りてきた。 緑色の地に小さな白い貝殻をあしらった美しい表紙だ。 幼少期を描いた自伝的エッセイ「ブルターニュの歌」と「子供と戦争」の二篇が収録されている。 作家の幼少期を描いたエッセイは、「子供と戦争」(0歳〜五歳)、『アフリカのひと』(七歳〜八歳)、「ブルターニュの歌」(八歳〜十四歳)と描き分けられている。 ◯ 「ブルターニュの歌」: ル・クレジオの先祖は十八世紀末、フランス革命期にブルターニュ地方からモ

          ル・クレジオ『ブルターニュの歌』(中地義和訳)

          エミール・アジャール『これからの一生』

          凄いな、これ! たしかに「象印賞」だ!もとい、「ゴンクール賞」だ。 こんなに笑える純文学って、他にあっただろうか? しかも、散々笑わせ倒しといて、やがて悲しきなんだから超絶技巧だ! こんな名作が書けるのに、なにも、死ぬこ〜たないじゃろが。/ エミール・アジャールは、『自由の大地 天国の根』で1956年のゴンクール賞を受賞したロマン・ギャリー(ロマン・ガリ)の別名であり、本作品で1975年に同賞を再度受賞している。/ この物語、なんだか映画になりそうだなと思って検索してみた

          エミール・アジャール『これからの一生』

          荒川洋治『忘れられる過去』

          読書にまつわるエッセイ七四編。お疲れのときにどうぞ! 荒川さんも、津島佑子さん、須賀敦子さんと並んで、スランプのときの「お助けメン」の一人だ。 荒川さんの本を読めば、欲望の充電もできるし、荒川さんの批評の姿に触れることは、猫背になりがちな僕の姿勢をも正してくれる。 荒川さんとの出会いは、NHKの「カルチャーラジオ 文学の世界 荒川洋治の“新しい読書の世界”」だ。 黒島伝治「橇」などの素晴らしい作品を教えてもらったことは生涯忘れない。/ ◯ 「読めない作家」: 【その名前を、

          荒川洋治『忘れられる過去』

          『大江健三郎全小説1』

          東京大学ヒューマニティーズセンター主催のイベント「大江健三郎のアルバイト小説を読む」(2024.8.8開催)に参加するので、手に取った。 ◯「飼育」: 山腹の村で黒人兵を飼育する。 だが、本当に「飼育」されているのは誰だろうか? 戦災から癒え、朝鮮戦争、ベトナム戦争で補給基地の役割を果たすことでさらに肥え太り、今では多額の思いやり予算さえも貢ぐことができるまでになったこの国。 北海道から沖縄まで、全国各地に130か所の米軍基地(1024平方キロメートル)を抱え、首都圏の上

          『大江健三郎全小説1』

          大江健三郎『沖縄ノート』

          《「これからはサルトルを読もうと思います」。大江作品の装丁を担当した画家の司修氏は『晩年様式集』の完成時にそう告げられた》(〈大江健三郎「次はサルトル」 晩年の創作意欲、臆測呼ぶ〉2024年6月15日/日経新聞)と言う。/ 1970年に出版されたこの短くて晦渋な本を半世紀遅れで読んで感じるのは、「戦後民主主義」への大江のアンガージュマン(自己拘束)※だ。/ ※アンガージュマン(自己拘束): 現にある状況から自己を開放し、あらたな状況のうちに自己を拘束すること。一般には「社

          大江健三郎『沖縄ノート』