エミール・アジャール『これからの一生』

凄いな、これ!
たしかに「象印賞」だ!もとい、「ゴンクール賞」だ。
こんなに笑える純文学って、他にあっただろうか?
しかも、散々笑わせ倒しといて、やがて悲しきなんだから超絶技巧だ!
こんな名作が書けるのに、なにも、死ぬこ〜たないじゃろが。/

エミール・アジャールは、『自由の大地 天国の根』で1956年のゴンクール賞を受賞したロマン・ギャリー(ロマン・ガリ)の別名であり、本作品で1975年に同賞を再度受賞している。/

この物語、なんだか映画になりそうだなと思って検索してみたら、案の定、1977年にモーシェ・ミズラヒ監督の『これからの人生』として映画化されていた。2020年にもエドアルド・ポンティ監督による同名映画が製作されている。
これらの映画はぜひ観たい!/

主人公のモハメッド(愛称:モモ)は、母のいない十歳のアラブ人孤児で、他の子供たちといっしょに、アパートの七階にある元娼婦のマダム・ローザの家で暮らしている。
モモのシニカルな視線で語られるパリの貧民街の人々は、あまりにもおかしくて悲しい。
図書館本で読んだが、どうしても欲しくなってしまった。
手元に置いて、年に一回は読みたい本だ。/


【当時、ぼくの一番の友だちはアルチュールという名のコウモリ傘でした。ぼくは、この子の頭の先から足のつま先までちゃんと洋服を着せてやりました。緑色のボロきれで頭を作ってやり、それを柄を軸に玉のようにまるめ、マダム・ローザの口紅で目を丸くして笑っている素敵な顔をかいてやりました。それは好きな相手が欲しいからというより、ピエロの役をさせるためでした。というのは、ぼくには小遣い銭がなかったので、時々、フランス人の住む界隈に行ったのです。かかとまで届く大きすぎる外套を持っていましたが、ソフトをかぶり、顔に絵の具を塗りたくり、コウモリ傘のアルチュールを相手にすると、二人はなかなか滑稽でした。ぼくは歩道の上で芸当をやり、一日に二十フランもかせぐことがありました。】/


【誰の悪口をいうつもりもありませんが、最後が近い、もう見のがしてもらえない老人にしばしば起るように、ハミルさんはだんだんぼけてきました。(略)彼はいつも手にヴィクトル・ユゴーの本を持っていましたが、混乱してそれをコーランだと思っていました。というのは彼が本を二冊持っていたからです。彼は(略)みな空で覚えていて、息でもするように引用しましたが、両方混ぜこぜにするのです。ぼくが彼と一緒に回教寺院に行った時、ぼくが目の不自由な人のように彼の手を引いて行ったので大変いい印象を与えました。(略)彼はいつもまちがえてばかりいて、お祈りをする代りにワーテルロー、ワーテルロー、陰気な野原よ、とやりました。それはそこにいたアラブ人を驚かせました。だって場ちがいだったからです。彼は宗教的感動のせいで目に涙まで浮かべていました。】/


【マダム・ローザが病気だということを知ってハミルさんは見舞に上がって来たいと思いました。けれど八十五歳にもなってエレヴェーターなしでは話のほかです。二人は三十年来の知り合いでハミルさんはじゅうたんを売りマダム・ローザは自分のものを売ってきました。この二人がたった一つのエレヴェーターのために今会えないというのは不公平というものです。】/


エミール・アジャール、ロマン・ガリ、ロマン・ギャリー、ロオマン・ギャリイ、彼らの未訳本が全て訳出されることを切に願う。

むむ、高い!amazon:10672円、日本の古本屋:8250円〜。
図書館で借りてお読みください。

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