『安部公房写真集』

とうとう買ってしまった。
ファンてふものの悲しさよ。/

「自転車を押すホームレス」:
本書のタイトルを一瞬取り違えた。
「箱男写真集」と。
それほどまでに「箱男」風の写真が多い。
その代表がこの写真だ。
ホームレスが所帯道具一式を積み込んだ自転車を押している。
たぶん、箱を被っていない箱男もいるに違いない。
彼らの匿名性や風景への擬態は、箱男に固有のものだ。
男の顔は陰になっていて見えない。
低く背を屈めて自転車に寄り添う姿は、まるで自転車の影になろうとしているかのようだ。/

「歪んだ家」:
凸面鏡に映った家は、崩壊寸前のアッシャー家のように大きく歪んでいる。
あるいは、燃えはじめる前のように、とんがり屋根はすでに揺らぎはじめている。/

「黒い鳥」:
これってカラスだろうか?
大鴉?それとも、夜鷹?/

「フェンダー・ミラーに映るアパート」:
いったい、男は誰を監視しているのだろうか?
やはり、「レモン色のカーテン」の部屋だろうか?
だが、そもそも彼女は依頼人のはずだ。
いったいなぜ?/

「タクシーの群れ」:
夜、客待ちのタクシーの群れ。
場末のいかがわしい喫茶店。/

「ダンボール」:
駅の地下通路の壁際に、壁に沿って置かれた一枚のダンボール。
まるで、断固として所有権を主張しているかのように、頭とおぼしき辺りには新聞数紙に雑誌、枕のようなものや、缶ジュースなどが置かれている。
どうやら、箱男の棲家らしい。/

「新聞紙にくるまって寝ている男」:
降りたシャッターの前で、新聞紙にくるまって寝ている男。
これじゃあ、まるでミノムシだ。
それにしても、箱は何処へやったんだろう?/

「殺害現場」:
スナックか何かの飲食店の床に、人相の悪い中年の男が首を左に傾げ、右手で左肘を押さえて横たわっている。
やばいのは、男の体の下から大きく広がっている黒い染みだ。
血だ!
裸足にサンダルという履き物から見て、ヤクザの出入りか?
だが、なぜ、こんな所に安部公房が?/

「股の下からの雑踏」:
白と黒の二体の裸のマネキンが脚を広げて、店の外を向いて立っている。
黒のマネキンの股の下から駅の雑踏が見える。新宿?/

「緊縛!」:
切り株で作った高層ポックリのようなものを履いた超ミニの女。
女の脚はむっちり感がいや増すように紐で緊縛されている。
「団鬼六 緊縛卍責め」!。/

「お仕事部屋」:
笑い出したくなるほど、とっ散らかった部屋。
何も書いてないが、勝手に安部公房のお仕事部屋と認定する。(たしかに、以前どこかで見た記憶が…。ひょっとすると、芸術新潮の「わたしたちには安部公房が必要だ」あたりかも。)
中央の机上に照明スタンド二脚。
真っ先に目に留まったのが、左手の壁に掛けられたカフカの肖像画のような絵。
なんだか、笑いが止まらない。
片付けられない症候群?ADHD?
卓抜な発想も湧けば、色とりどりの虫も湧く。
絶対に、ゴキブリの二、三十匹はいる!
この写真、落ち込んだとき用にとっておきたいので、本書は永久保存版だ!/

「箱女?」:
ぱんぱんにふくらんだ紙袋を二つぶら下げて、歩いて行く女の後ろ姿。
頭には帽子を被っており、顔は分からないが、肩の線から断然女。

🎵〜あたしは酒場の箱女〜🎵/

「欲望」:
ワンピースの水着姿で溢れんばかりの笑顔を見せている三人の若い娘たちのポスターに、しばし見惚れる浮浪者(真っ黒な後ろ姿だけだが、髪の毛がだらしなくほつれているから。)。

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